第111話 高揚する
まったく、どうしてこうなったんだ。
訓練場に人が集まってくる。それというのもニール・ファフルが有名だったためだ。金髪に金目の美形、これで目立たない方が無理というものだからな。
それに加えて、ケンカを売られたブレアも学園では有名だ。強力な火の魔法を操るものだからどうしても目立ってしまう。つまり、有名人対有名人という構図だから、これだけ人が集まってしまっているってわけだ。
訓練場のど真ん中では、フリードがめんどくさそうな顔をして立っている。教師陣の中では一番腕の立つ騎士だから仕方がない。
「ブレア・クロウラー、事情を説明してくれ」
「新入生が気になってみていただけです。そしたらニール・ファフルがケンカを売ってきたのですわ」
簡単に説明するブレアである。
それを聞いたフリードが顔を押さえて下を見ている。呆れ返ってしまっているのだ。
「……事情は分かった。ニール・ファフルを見る限り、戦わなきゃいけないみたいだな。まったく巻き込むのは勘弁してもらいたいものだ……」
もう言葉遣いが丁寧ではなくなっているフリードである。それくらいに厄介事に巻き込まれた気持ちでいっぱいなのだ。
ところがだ、俺はこの戦いに逆にわくわくしている。
なんといってもドラゴニルと同じドラゴンの血を引く者同士の戦いだ。どんな戦いを繰り広げてくれるのか、楽しみになるじゃないか。
すっかり俺は鼻の穴まで広げて興奮していた。近くに寄ってきたセリスに指摘されるまで気が付かなかったくらいにな。
そんな俺たちを尻目に、ブレアとニールのにらみ合いが続いている。
そこへ、学生の一人が木剣を持ってやって来た。どうやら指示で木剣を取りに行かされたらしい。ブレアとニールはそれを受け取り、互いに剣を向けて構える。やる気が十分すぎるようだ。
その二人に注目が集まる中、フリードが諦めたようにブレアとニールに声を掛ける。
「模擬戦だからやり過ぎないように。危険だと感じたら止めますからね」
フリードの声に反応のないブレアとニール。頭が痛い気持ちのまま、フリードは仕方なく試合開始の合図を送った。
それと同時に、ブレアもニールも声を上げて駆け出す。血の気の多い二人だ。
次の瞬間、木剣がぶつかり合う。俺とブレアが打ち合った時のように、木剣とは思えない音が響き渡っていた。
どうやったら「カキーン」なんていう金属同士がぶつかるみたいな音が響き渡るんだよ……。
だが、俺がそう思った次の瞬間、互いの剣を弾き飛ばしてさらに打ち合いを続けている。入学したての坊主がブレアとあれだけ激しく打ち合っているというのが、なんとも信じられなかった。この分なら、俺ともいい勝負をしそうだ。
それにしても、こんな腕前を持ったやつを俺が知らなかったのはショックだ。学園に入る前はドラゴニルが意図的に男を近付けなかったみたいだからな、今度会ったら問い詰めてやりたいぜ。
俺はブレアとニールの戦いを見ながら興奮している。こんなレベルの高い戦いを目の前で見られるなんて思わなかったからだ。
(これが、ドラゴンの血を引く者同士の戦い!)
気が付けば俺は両手を胸の前で握りしめ、目を輝かせながら戦いを眺めていた。隣で一緒に見ているセリスが引くくらいだ。
ところが、そんな俺の興奮も急に冷める事になる。
「そこまでだ。これ以上はさすがに見過ごせないな」
そう、フリードによって戦いが止められたのである。これからだっていうのになんで止めるんだよ!
「よく周りを見てみろ」
そう言われてブレアとニールの戦っていた周りを見る。あちこちがでこぼこになっているし、壁にまで大きなへこみができていた。二人の力が強すぎて、訓練場が耐えられなかったようなのだ。
その惨状を見て、さすがの俺も仕方ないかと思った。これ以上穴だらけにすると、訓練に支障が出かねない。魔法を使える人物もそんなに多くはないので、傷の浅いうちに止めないと修繕が間に合わなくなるってわけだ。
「さあ、新入生どもは寮に向かえー。もたもたするんじゃねえ!」
戦いが終わると、どこからともなく出てきたジークが仕切り始めた。
「ジーク教官、どこにいらしたんですか?」
「最初っから居たぞ。俺が黙ってたせいで気が付かなかったのか?!」
俺が疑問をぶつけると、ジークはものすごく怒っていた。どうやら、本当に最初から居たらしい。
「にしても、今年もえらく能力の高い奴が入ってきたな。お前たちもうかうかしてると先に騎士になられちまうぞ」
「そうですね。ですが、彼もまだまだ甘いようですから、先を譲るつもりはありませんね」
ジークの感想を聞いて、俺は自信たっぷりに言い返しておいた。するとジークは楽しそうに笑みをこぼしていた。
「ふははははっ、その意気だな。とはいってもだな、俺にも勝てないようではまだまだ威張れるものじゃないぜ」
「まったくですね」
「ええ、まずは近いうちに必ず倒してみせますからね」
「おう、楽しみにしているぜ!」
ジークと言葉を交わした俺とセリスは、ブレアを労うために駆け寄ったのだった。
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