第109話 ランドルフの後始末

「まったく、ランドルフの奴は短気が過ぎた。嫉妬からあんな事件を起こせば当然の話というものだ」


 ドラゴニルは怒ったような態度で話をしている。


「という事は、ランドルフ子爵はやはり……」


「ああ、裁判で処刑の判決を受けた。だが、奴ときたらその直後に暴れ始めてな。やむを得ず我が直接手を下してやった」


 ドラゴニルが事の顛末を話すと、ブレアはやはりという顔をして黙り込んでいた。ドラゴンの血を引く者の一人として、結末は想像できたようだった。


「それで、空席になったランドルフ子爵の爵位と領地に対して、アリスさんを宛がおうというわけですわね」


「まぁそういう事だ。とはいえ、将来的にアリスは我が伴侶として迎えるからな、最終的には我が領地に吸収する事になるだろう」


「まあ、ドラゴニル様ったら、そんな事を恥ずかしげも無しに言いますのね」


「将来的に我が力を凌駕しかねぬ力を持つ人物ぞ? 抱え込んで当然だろうが」


 ブレアの指摘にまったく表情を変えないドラゴニルである。ドラゴンとしての性格が強すぎるのか、人間とは感覚がずれているようだった。

 俺は、二人の会話にまったくついていけずに黙っているのだが、ずいぶんと好き放題に喋っているようだ。


「アリスさん、いいんですの? こんな強引な御仁の伴侶なんて、苦労するだけですわよ?」


「えっ?」


 突然ブレアが話題を振ってきたので、つい戸惑ってしまう俺だった。

 こういう反応をしてしまうのも無理もない話なんだよな。ドラゴニルの元に引き取られた時に散々聞かされてきたわけだし、今さら言われても困るだけというものだ。


「私はそうなるもんだと思ってましたけど、何か問題でもあるんですか?!」


 俺がブレアに返すと、ブレアは額を押さえてため息を吐いていた。なんか変な事言ったかな?


「まったく、アリスさんってば……」


 首まで横に振り始めたブレアの態度に、俺はまったく理解が追いつかなかった。

 そんな俺たちの様子を見ながら、ドラゴニルの奴は大笑いをしていた。


「しかし、まだ10代での領主就任というのは前代未聞ですわ。ご両親がご不幸で亡くなられたとかでもない限り、普通はあり得ない事ですわよ」


「それはそうだな。しかも今はこの学園に通っている状況だ。しばらくは我が配下から人を送り込んで運営する予定だ。なので、当分の間はアリスは形式上の領主という事になる。何も気にしなくていいからな?」


 ドラゴニルが俺に言い聞かせるように話してくる。

 貴族生活も長くなっているとはいえ、その辺の仕組みはよく分からないから助かるぜ。


 それにしても、ドラゴニルの奴の強さは相変わらず俺の手の届かない場所にあるようだ。

 ブレアと二人で苦戦していた相手に、一瞬で決着をつけたというのだから。しかも、武器を使わずにだ。その領域には、まだまだ到達できそうにない。どんだけの強者なのだろうか。

 そんなドラゴニルだが、逆行前に相打ちにできたのは……本当に運がよかったんだろうな。

 思い出した俺は、つい身震いをしてしまう。


「アリスさん?」


 ブレアがその様子を見ていたらしく、心配そうに俺の顔を覗き込んできた。


「ブレアさん、ちょっと昔を思い出していただけですので、心配はありませんよ」


 首をふるふると振ると、俺はにこっりと微笑んでブレアに言葉を返した。


「ふはははっ、昔とな?! 一体いつの事を思い出していたのだろうな」


 ドラゴニルが意地悪そうに大笑いをしてくる。態度と表情を見ている限り、俺が逆行前の事を話している事に気が付いているようだ。相打ちにされた時の事を思い出して笑っているあたり、本当にどこまでこいつは余裕なんだろうな。普通やられた事を思い出せば不機嫌になるものじゃないだろうか。本当にこいつはよく分からねえぜ……。

 まっ、そんな相手を伴侶にしようとしている奴だ、これくらいの精神的な強さがないとやってられるわけないか。俺は自分の中でどうにか納得させていた。


「我としては、アリスの事を早く伴侶として迎えたいのだがな。最短で学園を卒業するのを楽しみに待っておるぞ」


「しかし、卒業後すぐに結婚なさるのでしたら、学園に通う必要ってございますのかしら……」


 ドラゴニルが大口を開けて笑っていると、ブレアが根本的な疑問を今さらながらにぶち込んできた。確かにそれはそうだった。


「何を言うか。我の伴侶となるのなら、強い事は必須条件だ。我が血筋というものは、屈強たる存在によって受け継がれるものなのだ」


 必死に言い訳をするドラゴニルである。


「まあブレアさん。私が強くありたいのですから、それでいいではないですか。お父様はこの通りですし、それを御する存在でなければ伴侶は務まるとは思えませんよ」


「……それもそうですわね」


 俺の言い分に、ブレアは何とも言えない表情で納得したようだった。ツッコミを放棄したともいえる。


 なんだかんだといろいろ話し込んではいたものの、結論として俺はランドルフの後継となる事を受け入れた。

 これによって俺の名前はアリス・ランドルフ男爵となったのだが、学園の中では今までどおりにアリス・フェイダンで通すつもりだ。お飾り男爵だし、これでいいと思う。

 俺たちとの話を終わらせると、ドラゴニルは対応のために領地へと戻っていったのだった。

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