第106話 事件の結末
アリスたちが強くなるための努力をしている頃、ドラゴニルは領地に戻れず城に泊まりっきりだった。
というのも、隣の領地のランドルフ子爵がやらかしてくれたので、その対処のために残らざるを得なかったのだ。
なので、領地の事は家令のドレイクに任せっきりである。信用のできる部下なので安心はできるものの、やはり領主としては気にかかってしまうのだ。
ドラゴニルはさっさと厄介事を片付けるために、牢屋に放り込まれたランドルフ子爵に面会に向かった。
「ふん、落ちぶれたものよな、ランドルフよ」
「ドラゴニル……!」
ドラゴニルの姿を確認したランドルフ子爵は、牢屋の鉄格子を掴んで揺らし、がしゃがしゃとうるさく音を立てていた。
「まったく、耳障りな事だ。これでも目は掛けていたというのに、このような愚かな真似をするとは……。お前は劣等感を抱きすぎたな」
片耳に指を突っ込んで露骨に嫌な顔をしてみせるドラゴニルである。だが、気持ちの高ぶったランドルフ子爵はそのドラゴニルの表情にさらに苛立ちを募らせた。馬鹿にされていると感じたのだ。
気の荒らぶっているランドルフ子爵を見て、思わずため息が出てしまうドラゴニルである。
「とにかくそこでおとなしくしておけ。いずれお前には裁きが下る。もしそこから出ようと考えるのなら、その時はこの我が審判を下してくれる」
明らかな威圧感を持ってランドルフ子爵を睨み付けるドラゴニル。
だが、ランドルフ子爵はそれにはまったく怯まなかった。むしろ、さらに強くドラゴニルを睨み返していた。
もちろん、そんなものに動じるドラゴニルではない。ランドルフ子爵の姿を見て鼻で笑っていた。そして、くるりと背を向けると、顔だけをランドルフ子爵に向ける。
「生き延びたければおとなしくしている事だな。だが、我はお前を許しはせぬ。出てきたところで地獄だ。ドラゴンの一族として誇り高い死を選ぶか、這いつくばりながらも生き延びるか、そこで頭を冷やすんだな」
ドラゴニルはランドルフ子爵に吐き捨てると、地下牢から立ち去った。
その後ろ姿を睨み付けながら、ランドルフ子爵は血が出るくらいに強く唇を噛みしめていた。
その後、しばらくすると地下牢から大きな咆哮が響き渡っていた。
後日の事だが、ランドルフ子爵の裁判が行われた。
宝珠を使ったスライム大量発生事件だけなら大した罪にはならなかったのだが、さすがに学園でドラゴンに変身して暴れた事態を重く見られてしまったようだ。
結果として、爵位、領地、財産のすべての没収に加え、死罪が言い渡されたのだった。ただ、ランドルフ元子爵以外は罰せられなかったようだ。あくまでも元子爵個人の罪と見られたようである。
この判決を聞いたドラゴニルは黙ってランドルフの姿を見ていた。
しばらくは黙っておとなしくしていたランドルフだったが、裁判室を出ていったところで豹変する。
「このまま……、このまま終わってなるものか!」
いきなり声を荒げ始めたのである。
「俺はこの程度で終わる存在ではない! 矮小なる人間どもよ、お前たちを道連れにしてくれる!」
体をわなわなと震わせ始めるランドルフ。すると、見る見るうちにランドルフの体がぼこぼこと盛り上がっていくではないか。
「グルワアアアアアッ!!」
巨大なドラゴンとなって咆哮を上げるランドルフ。死を恐れるがゆえの必死の抵抗である。
ランドルフの両脇を抱えていた兵士は、この変身の際に大きく吹き飛ばされて地面に叩きつけられていた。
突如として現れた巨大なドラゴンに、傍聴していた貴族たちが慌てふためいている。
「グオオオッ!!」
ランドルフの首が膨らむ。
だが、その瞬間、黒い影がランドルフに向かって飛び込んでいく。
「まったく、ここまで愚かな奴だとは思わなかったな。死に急ぎおって……」
言わずと知れたドラゴニルだった。
暴走するランドルフを思い切り蹴り飛ばす。
「グオオオンッ!!」
叫び声を上げながら、ランドルフは大きく吹き飛んでいく。人の集まる場所から離すために、わざと吹き飛ばしたのだ。
「己の力の無さを思い知れ、ランドルフ!」
吹き飛んだランドルフの落下地点に先回りしたドラゴニルは、今度は拳を振るって高く打ち上げた。
圧倒的な力の差に、ランドルフはまったく何もできない。手も足も出ずにされるがままだった。
「この我が直接手を下す事が、せめてもの情けだ。汚点とはいえ、最期は華々しく散れ、ランドルフ!」
力強く言い放ったドラゴニルは、鋭い眼力を放ちながら、右の手刀を素早く振り抜いた。
次の瞬間、辺り一帯に鮮血が飛び散る。そして、巨大なドラゴンの体躯が、大きな音を立てて地面に叩きつけられた。
「……まったく、我の側でおとなしくしていれば長く生きられたものを……」
ドラゴンの巨躯を背に、ドラゴニルは寂しそうに呟く。
「我とアリスたちに牙を剥いた事、地獄で永遠に後悔するのだな」
兵士たちが駆けつける中、ドラゴニルは上を向いてしばらくそのまま立ち尽くしていたのだった。
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