第103話 一撃に賭けろ!
ドラゴンと化したランドルフ子爵の暴走は続く。
爪や尻尾による薙ぎ払い。それに加えて黒い炎を吐いてくる。
炎はブレアの魔法で相殺できているようだが、さすがにこうも攻撃頻度が高くては、なかなか反撃を入れる事が出来ないでいた。
やはり、最初のうちに躊躇したのが致命的にダメだったようだ。俺たちは完全にランドルフ子爵の攻撃に押されてしまっている。
だが、ドラゴニルに試されている以上、このまま押されっぱなしというのは癪でしかない。どうにかして状況を打破するしかねえ!
(どこかに突破口があるはずだ。落ち着け俺!)
ランドルフ子爵の攻撃は激化の一途だ。早くどうにかしないと、森が焼け野原になってしまう。
俺たちが倒されれば間違いなくドラゴニルに向かっていくだろうし、被害を最小限にするためにもここで踏ん張るしかない。
必死の思いでランドルフ子爵の動きを観察していた俺は、その行動にある程度のパターンが存在している事に気が付いた。
「ブレアさん、火の魔法の準備を。ブレスが来ます!」
「えっ?! わ、分かりましたわ!」
突然の俺の指示に、ブレアは困惑しながらも火の魔法を準備する。
すると、俺の指摘した通り、ランドルフ子爵は大きく息を吸い込んで炎を吐いてきた。これに驚きながらも、ブレアは火の魔法を放ってブレスを相殺する。
(今だ! ここで奴の動きは少し硬直する!)
俺の指摘通りに、ランドルフ子爵の動きがしばらくの間止まる。
とはいってもそれほどの隙があるわけではない。だが、一瞬に近いようなこの程度の時間でも、戦いにおいては隙といえば隙なのだ。
「はあっ!!」
木剣でランドルフ子爵に斬りかかる。
「ガアァッ!」
驚いた事に、木剣だというのにドラゴンの固い皮膚に傷がつく。
ドラゴニルが言うには、鋼を鍛えて打った剣ですら傷をつけるのが困難だというドラゴンの皮膚である。それがたかだか木剣で傷がついたのだ。信じられない光景に、ブレアが目を丸くして固まっていた。
「うそっ、木剣ですわよね?!」
ブレアが驚きの声を上げてはいるが、俺はそれに構っていられなかった。
わずかな隙を大きな隙に変えた今、ここで叩き込まねばおそらくもう止められなくなるだろうかな。
ドラゴニルを見ても分かるが、ドラゴンというのはかなりタフなのだ。ちょっとやそっとの攻撃ではびくともしないし、よっぽどでなければ怯む事なく行動を続けるのだ。
「はああっ、さっさと動きを止めやがれっ!!」
俺は必死になってランドルフ子爵へと攻撃を仕掛ける。我を忘れている事もあってか、本当に行動が止まる気配が感じられない。致命傷とまでいかずとも、かなりのダメージを与えなければ止まりそうになかった。
(くそっ、この程度の傷じゃすぐに治っちまうから、止められそうにないな……。これは相当に本気で戦わないと無理だな)
巨大なドラゴンとなったランドルフ子爵の死角となる足元でちまちまと木剣で斬りつける俺。思った以上に回復が早く、ダメージの蓄積で動きを止める事は叶いそうになかった。
そうなれば、一気にダメージを与えるしかないわけだが、加減を間違えれば仕留めかねない。この緊迫した状況の中で、そのギリギリの加減を見極めなければならなかった。
「ブレアさん! 魔法を使ってうまくドラゴンの気を引いて下さい! その隙に私がドラゴンを鎮静化させます!」
「わ、分かりましたわ! ですが、できれば無茶をなさらないで下さいませ!」
「無理ですね!」
俺の呼び掛けに応えるブレアだが、実におちゃめな返しをしてきたものだ。俺は笑いながら即答しておいた。
まったく、戦いで無茶をするなというのはなかなかに難しい注文だぜ。無理って返すしかないだろうが。
しかし、ブレアのおかげで俺はかなり冷静になれた。これなら、力をきちんと制御してランドルフ子爵を止める事ができるだろう。
俺を睨み付けるかのように見下ろしてくるランドルフ子爵と、改めて真正面から対峙する。
大丈夫だ、落ち着け。
でかいとはいっても、男の時に最後に戦ったドラゴニルに比べればまだ小さい。そのドラゴニルを倒す事ができた俺ならば、きっとランドルフ子爵を鎮静化できるはずだ。
木剣を握る俺の手に力が入る。
ここまでドラゴンを斬りつけておきながら、まったく折れるどころかひびすらも入っていない木剣なのだが、俺たちはそんな事にまったく気が回っていなかった。とにかく、目の前のドラゴンを無力化する事だけを考えていたのだ。
俺が動こうとした瞬間、ランドルフ子爵の首が膨らむ。ブレスが来る!
「させませんわよ!」
それに呼応するかのようにブレアが火の魔法を放つ。
吐き出されたブレスとブレアの魔法が、ランドルフ子爵の顔の前でぶつかり合う。
激しく押し合ったブレスと魔法は、ぶつかり合った位置で大きな音を立てて爆ぜる!
チャンスはここしかない!
俺は今できる限界まで能力を発揮させると、大きな爆発で視界を奪われたランドルフ子爵に向けて一気に距離を詰める。
「だりゃあああっ!!」
地面を思い切り蹴った俺は、ランドルフ子爵の首元目がけて斬りかかったのだった。
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