第98話 行きついた黒幕
ドラゴニルと学園長との間でそんな約束が交わされたとは露知らず、俺たちは騎士になるための授業に明け暮れる毎日だった。そのくらいに学園の中というのは、外部とはすっぱりと遮断されてしまっているのである。唯一の外部との接点である教師たちもその辺りの情報はなかなか漏らしてくれないので、俺たちは外部の事を気にする事なくただ騎士になるために日々過ごしていくだけとなっていた。
俺としてはあの一件は気にはなっている。気にはなってはいるが、聞いたところでまともに答えてもらえるとは思っていなかった。
これは男だった頃の記憶のせいだった。まるで小間使いのような扱いだったあの頃の記憶のせいで、他の騎士を相手にしても無駄だというイメージが今になってもびっしりとこびりついているのだ。そのおかげか、周りの事は気にせずに騎士になるための勉強に集中して打ち込む事ができている。いいのか悪いのかは分からないがな。
そもそもだ。俺たちは騎士になるためにこの学園に入ったのだ。騎士になるという目標がある以上、それに集中しておきたいものなのだ。
あのスライムの一件に関しては、俺たちがしゃしゃり出ても解決できるわけじゃないからな。任せられるやつに任せておく方がいいというわけだ。どうにも面倒な感じがするからな。
そんなわけで、俺たちは実技の授業中に加え、授業が終わってからの時間にも仲間内で模擬戦をするようになっていた。
なんというか、体を動かしていないと落ち着かないというか、みんな揃ってそんな状態なのだ。すっかり脳筋に支配されてしまっている。これも全部ドラゴニルのせいだな。体を動かしてばかりの状況に、俺はそう思って無理やり納得させる事にした。
そんなある日の事、ブレアにセリスとソニアの三人は、この自主的な練習でも魔法の練習をし始めた。
そういえば魔力測定で三人は魔法の適性が出てたもんな。俺は魔力なしだが、ピエルとマクスの二人も魔力は微々たるものだった。なので俺たちは打ち合いをするしかなく、三人の魔法の練習を横目に眺めるだけだった。
それにしても、ブレアの扱う火の魔法は実に桁違いだった。練習のさなかに大きな火柱が立ってしまって、セリスとソニアがあまりの大きさに驚いて腰を抜かしていた。
そしたらば、しばらくしてマキュリがやって来て、ブレアたちにお説教をしていた。授業の中でしっかり制御できるようになるまで、授業外での魔法の使用が禁止されてしまったらしく、ブレアたちはしょんぼりとしていた。その様子を横目に見ていた俺は、ついつい苦笑いをしてしまう。
「隙あり!」
その瞬間を狙ってピエルとマクスの二人が同時に襲い掛かってくる。
まったく、隙があるからって声に出したら無意味だろうが。
声に反応して、俺はしっかりと二人を返り討ちにしてやった。俺が本気で剣を振るうと、剣どころか二人の体をも砕いてしまいそうだから、当然手加減はしておいた。
「情けないですね。女性相手に一方的にやられてしまって……。さあ、立ってもう一度かかってらっしゃいませ。いくらでも相手になりますよ」
俺はピエルとマクスを挑発する。二人は顔を見合わせると、立ち上がって木剣を構え直した。うん、やる気があっていい事だ。
俺と1対2で打ち合っているが、さすがに騎士の経験もあって魔物を滅する力による身体強化を掛けているとあっては、男二人掛かりでも簡単に俺を打ち崩す事はできなかった。
いいようにあしらわれては地面に転がるピエルとマクス。それでも、さすがは騎士を目指す二人なので、何度も立ち上がって俺に向かって来ていた。女性に負けるのが悔しいというのもあるのだろうが、諦めないのは大したものだと思う。
そんな中、ブレアの方もセリスとソニア二人を相手に打ち合いを始めていた。
そして、この打ち合いは、夕食の時間の前までほぼ毎日のように続けられる事となっていったのだった。
―――
その一方、宝珠の調査を進めていたドラゴニルは、砕けた宝珠から魔力の波長を感じ取る事に成功していた。
宝珠というものは、生み出したドラゴンによって魔力の波長がそれぞれに異なっているのだ。宝珠そのものであれば簡単に分かる事なのだが、砕けてしまっては魔力が乱れてしまって波長をうまく感じ取る事ができなくなるのだ。それがゆえに、特定までに時間を要してしまったというわけである。
「……そうか。アリスにブレアを狙った不届き者はあやつというわけか……。ご丁寧に魔力をうまく感知できないように、魔力を捻じ曲げる魔法まで込めおって……」
ドラゴニルは怒りを露わにしている。自分の可愛がる娘たちの命を狙ったのだ。そうなるのも当然というわけである。
「やはり睨んだ通り、我がフェイダンの一族から分岐した者の中に居たか。……一体どのような目に遭わせてやろうか」
ドラゴニルはその怒りを抑えきれないといった感じの状態だった。
「ど、ドラゴニル様、今は堪えて下さい。王国の法に則って裁きませんと、ドラゴニル様を裁かなくてはいけなくなってしまいます。どうか、どうかお静まり下さい」
同席していた魔法使いが一生懸命ドラゴニルを宥めている。
今にも飛び出しそうな勢いのドラゴニルだが、魔法使いの言葉を聞き入れてどうにか耐えていた。
「うむ、そうだな。だが、処刑となった時には必ず我を呼べ。この我の手で自ら審判を下してくれる」
「できるだけ配慮致します……」
ドラゴニルの雰囲気に飲まれそうになりながらも、魔法使いは返答していた。
ドラゴニルは一体誰に行き着いたというのだろうか……。
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