第81話 無事に終われはしたが?

「アリス・フェイダン」


 フリードが俺の前に立って、じっと睨んでくる。


「まったく、勝手な行動を取るのは褒められたものじゃないですね。結果としてはよかったですが、せめて情報くらいは共有してもらいたい」


 ため息を吐きながら説教をするフリード。はあ、平手打ちくらい飛んでくるかと思ったが、予想外だったぜ。

 魔物が湧き続ける原因を突き止めて解決したというのに、俺はフリードから怒られている。はっきり言って理不尽だが、さすがに今は騎士とはどういうものかは理解しているので、俺は言い返す事なく黙って説教を聞き続けていた。

 正直、男の時の事を強く引きずっていたら、思いっきり言い返していただろう。なにせあの時はずっと一人でやらされていたからな。

 でも、さすがに今は違う。公爵令嬢として知識や常識は持ち合わせているし、公爵家の騎士団のおかげで、騎士の事情だって詳しくなっているのだからな。そのおかげでこうやって黙って聞けているというわけだった。


「とりあえず、見つけた宝珠とやらを見せてくれないか?」


 説教を終えると、フリードは俺に宝珠を出すように言ってきた。

 なので俺は、ごそごそとポケットにしまい込んだ割れた宝珠をフリードに手渡した。


「見た事のない色の宝珠ですね。これが湖底に沈んでいて、そこからスライムが湧き出ていた、間違いないですね?」


 フリードが確認するように言うものだから、俺は黙って大きく頷いた。

 俺の反応を見たフリードは、再び宝珠をじろじろと眺めている。だが、前線型でどちらかといえば頭を使う事が苦手なのか、ナリザスを呼んで宝珠を渡していた。


「学園に戻ったら、すぐさま陛下たちに報告ですね」


「そのようですね」


 フリードから宝珠を受け取ったナリザスは、すぐさま何かを感じ取っていたようだった。その表情が歪んだのを、俺は見逃さなかった。そのくらいに違和感を感じたのだ。


(あれは相当めんどくさいものがついてるんだな。魔法に関してはまったく分からねえが、あの様子を見る限りは相当って事だよな)


 俺はナリザスの事をじっと見ていたが、ナリザスの方は宝珠をしまい込むのに必死で気が付いていなかったようだ。

 それにしても、スライムどものせいでお昼食べそこなっちまったな。まったくどうしてくれようか。そう思った俺は、近くの岩の上にどかっと座り込んだのだった。

 ただその直後、服がびしょ濡れだった事をブレアに指摘されて、俺は慌てて服を着替えたのだった。


 そんなわけで、思わぬスライムの襲撃があったために、午後は最低限の食料集めだけで済ませる事になった。スライム相手に相当消耗しているので、そこは一応配慮しておいたようだ。本当に世話の焼ける連中だな。

 ちなみに、その食料集めは俺とブレア、それと取り巻き二人にジークという組み合わせだ。ソニアも来ようとしていたのだが、セリス一人だけを残してくるのはまずいかと思ったからだ。なにせ周りは男ばかりだからな。

 まあ、フリードとナリザスという教師二人も居るから、そう問題にはならないだろう。


「しかし驚いたな。ドラゴニル公爵のところだからある程度即戦力は期待したが、ここまでとは思わなかったぜ」


 ジークは頭の後ろで手を組みながら、けらけらと笑いながら話をしていた。

 俺とブレアは無表情でその話を聞いている。ピエルとマクスの二人はどう反応していいのか分からず、黙って俺たちの後をついてきていた。


「ったくよぉ、スライムでなければ俺ももっと活躍できたんだけどな。あれは俺の得意な力技が通じねえからな。本当にめんどくせえぜ」


 ジークは大声でそんな事を話している。恥も外聞もない、騎士としてはどちらかといえば異端のような男である。俺たちはとにかく話半分でその話を聞き流している。

 その後ろではピエルとマクスがさっきの後遺症なのか周囲を警戒しながらついてきている。もちろん、ジークの話なんて耳に入っていなかった。ほぼ自慢話だから聞いても意味ないしな。

 そんな無駄なジークの自慢話を聞いていると、がさがさと草が音を立てていた。その音に俺たちが反応すると、茂みからウルフが2匹飛び出してきた。


「少ないが、晩飯にはちょうどいいな。こいつは任せろ!」


 ジークはがしっと両手の拳を突き合わせると、不敵な笑みを浮かべてウルフへと殴り掛かる。

 騎士のくせに剣じゃねえのかよ。

 俺はジークの姿を見ながらそんな風に思った。だが、そう思っている間にジークの拳はウルフの脳天に決まっていた。

 拳に脳天を殴られたウルフは、そのまま地面へと埋まっていた。なんて威力なんだよ。

 さすがに俺もブレアも驚いたが、ピエルとマクスにいたっては青くなって震え上がっていた。


「さーて、2匹とも仕留めてやったぜ。量は少ねえだろうが、昼に使えなかった分もあるからまぁ足りるだろ」


 地面にめり込んだ2匹のウルフを足蹴にしながら、ジークは自慢するように俺たちの事を見ていた。あまりの豪快さに、俺たちはどう反応すればいいのか分からなかった。

 ジークは満足しているようだが、さすがにウルフ2匹では足りない。感じる限りは周りにまだウルフが居るようだ。


「ジーク教官、周りにまだウルフが居るみたいなので、狩ってきますね」


「おう? まあやれるなら行ってこい」


 ジークから許可をもらった俺とブレアは、近くに潜んでいた8匹くらいのウルフを仕留めてきたのだった。これにはジークも感心したようだ。

 とりあえずこれで、今夜どころかもう少し食料はもちそうだな。

 俺としては最終的に満足した形で、野外実習を終える事ができたのだった。

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