第80話 戦闘終了
湖の中へと飛び込んだ俺は、不思議な感覚に導かれるように潜っていく。不思議と泳げるし、呼吸や視界もまったく問題ないように感じられた。
いろいろと疑問に思う事はあるものの、俺はひしひしと感じる何かに向けて泳いでいった。
しばらくすると、俺の目の前には小さな宝玉のようなものが目に入った。湖底のヘドロが溜まっている中で、それは異様なまでに目立っている。
(禍々しいまでのオーラを感じるぜ。それに、この周りで何かがうごめているようにも見えるし、こいつがスライムの発生源と見て間違いなさそうだな)
俺はそんな事を思った。
しかしながら、ここで不思議に思った事がある。本当にその宝玉がスライムを生み出しているというのなら、俺はとっくにスライムに襲われているはずである。
だというのに、俺はまったくの無傷である。これはどういう事なのだろうか。
とはいえ、そんな事を言っている場合じゃない。こいつがスライムの発生源だというのなら、さっさと破壊してしまわないといけない。上で頑張っているみんながいつまでもつか分からねえからな。
俺は水中ながらに魔物を滅する力を発動させる。どんな魔物でも倒せるという力だけあってか、水中だろうがお構いなしに発動できるのがすげえというものだ。
(おっらあっ!!)
水中で思いきり振りかぶりながら、俺は宝珠に向かって拳を振り下ろす。水中だというのに、まるで地上と同じような感覚で拳が振るえている。
宝珠に俺の拳がぶつかる。普通ならこれで砕けるという事はあり得ないのだが、俺の拳と宝珠との間で激しい振動が発生している。
(くそっ、この宝珠、壊されると思ってか必死に抗ってやがる!)
俺の拳を拒むかのように宝珠は魔力を放出している。だが、そのせいか、宝珠から発生するうごめきが止まったように見える。
(全力で破壊に抵抗してやがるな。だが、そういうわけにはいかねえんだよ!)
俺は拳にさらにぐっと力を籠める。
少しずつ俺の拳が宝珠に近付いていく。宝珠も必死に抵抗しようとするが、それももう限界だった。
パリーン!
俺の力の乗った拳がついに宝珠を捉え、宝珠は抵抗虚しく砕け散ってしまった。
すると、水中に居たスライムたちは形を保てなくなり、そのまま溶けて湖の水へと変わってしまった。
(うげえ、スライムの核がその辺に漂ってやがる。どんだけ居たんだよ……)
あまりの光景に、俺は思わず青ざめてしまった。それが全部湖面から顔を出していたとしたら、それはもう地獄絵図だっただろう。
俺はまだ息が続くようなので、砕いた宝珠を拾い上げる。そして、それを持って地上へと戻っていったのだった。
その頃の地上では、まだスライムたちとの戦闘が続いていた。
なにせ下手に攻撃すると分裂するのがスライムだ。腰の引けたへっぴり腰の学生に襲い掛かっては数を増やすという、スライムにしては頭のいい作戦をとっていたのだ。そのせいでまったく終わる気配がなかったのである。
「くそっ、キリがないな。アリス・フェイダンはどこへ行ったんだ」
フリードがスライムを相手にしながら叫んでいる。
ところが、ブレアとソニアの二人はスライムを吹き飛ばすのを楽しんでいるようだった。何だろうか、この温度差は……。
「ぬるいですわね。もっとかかってらっしゃい!」
「あはは、楽しいわね!」
ダメだ、この戦闘狂。
「まったく、早く終わってくれませんかね。私の魔力ではもう限界なんですが!」
ナリザスも音を上げ始めていた。
そんな時だった。
ざばあっと音がして、湖面から俺が姿を現した。
「アリス・フェイダン。無事だったか!」
フリードが俺を確認して叫ぶ。
「湖底でスライムの発生源と思しき宝珠を見つけました。破壊しましたので、もうこれ以上発生しないと思われます」
「そうか、ご苦労だった」
直立して俺が報告すると、フリードは安心したような表情を浮かべた。
スライムは地味に騎士たちにとって相手しづらい相手なのだ。あのけんかっ早いジークですら躊躇するような相手なのだから。もっとも、ジークの場合は脳筋な物理攻撃一辺倒だから、相性で言えば最悪なのだからそれも当然なのだろう。何も考えず攻撃すれば、分裂に分裂を繰り返すもんな、スライムってのは。
それにしてもと思って、俺はブレアとソニアの方を見る。ソニアはまだいいとして、ブレアの表情にはさすがの俺も引いてしまう。なにせものすごい怖い笑みを浮かべながらスライムをばっさばっさと斬っているんだからな。ドラゴニルの影響を受け過ぎなんだよ……。俺の事を言えないぜ、ブレア。
とはいえ、そんな二人の活躍あってか、スライムはみるみるその数を減らしていっていた。
「これで最後ですわ!」
「ギシャー!!」
湖畔にスライムの断末魔が響き渡る。
ブレアが叫んだとおり、これによって出現していたスライムは全滅したのだった。
「はあ、疲れましたわ」
「あたしもだ。さすがにこの数はきつすぎる」
戦い終えたブレアとソニアが、その場に座り込んでいた。
フリードも戦いが終わった事を確認して剣を鞘に収める。
「全員無事か!」
教師陣が確認を取ると、どうやら犠牲者は誰一人居なかったようだった。
全員が無事だったという事で安堵が広がる中、フリードは俺にゆっくりと近付いてきたのだった。
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