第77話 問題点しかない

 結局、狩猟班の面々が起きてくる事がなく朝を迎えた。そこでようやく学生たちがぞろぞろと起き出してくる。まったく、見張りの番をできないようじゃ、今後が思いやられるってもんだぞ。

 とはいえ、俺とソニアの二人も、早起きしたせいかあくびをしていた。陽の昇らないうちから起きていたから、単純に寝不足である。まったく、まだまだ子どもって事か。

 待機班の面々は特に厳しそうな印象だ。なにせ短時間の寝て起きて寝て起きての繰り返しだったのだから。ブレアもセリスも大あくびをしていた。これは慣れていくしかなさそうだな。

 朝食は昨日狩ったウルフの肉がメインだ。それに加えて、学園で用意した食料を使った料理のようだった。

 ちなみに調理をしているのは教師陣だった。さすが騎士団で慣れているのか、とても手際よく調理をしていた。騎士というのはなにも戦う事ばかりではない事をまざまざと見せつけられる光景だった。

 そんなわけで目が覚めて朝食を食べる俺たちだったが、ほとんど全員がかなり眠そうにしているという状態だった。ちゃんと起きているのは教師陣と見張りをしないで爆睡していた学生たちだけだ。さすが教師は違うなと、俺は腕を組んで感心していた。


「よし、今日は森の中を走るぞ。食べ終えたらさっさと準備をするんだ」


 食事の直後に走るとか正気かと思う学生たち。

 だが、これが騎士になると結構ありえなくはない事態なんだよな。

 食事中に魔物や敵に襲われるなんてのは、思いの外多いんだ。俺も結構そういう場面はあったな。薄らだけど覚えてるぜ。

 学生たちが文句を言う中、有無を言わせずに教師陣は走り始めていた。


「言っておくが、さぼった奴はお昼抜きだからな」


「ええー……」


 ジークが笑いながら言うものだから、学生たちはげんなりとした反応を示していた。その様子に俺は苦笑いをして、ブレアやセリスは呆れ、ソニアにいたっては怒っていた。それを見ていたピエルとマクスの二人は震え上がっていた。特にソニアの怒りが怖かったようだ。


 学園からほど近い、つまりは王都からほど近い場所だというのに、こんな場所があるとは知らなかった。

 広い湖の周りには木々が生い茂っている。道らしい道はない自然豊かな場所だが、俺とブレアは特に苦も無く走っていた。


「ずいぶんと、荒れた道ですね」


「人の手の入らない場所なんてこんなものだと思いますよ」


 セリスの言葉に、俺が答える。

 実際、俺の故郷の村なんて人の手の入った村の中ですらかなりでこぼこだったからな。それに、魔物の調査で森の中にも入っていったし、慣れっこってやつだ。

 正直言って、ブレアの方が驚きだと思う。ブレアは伯爵令嬢だし、いくら騎士を目指しているからとはいっても、こういった場所に慣れているとは思えなかった。もしかしたら、伯爵邸に居る時に慣らしていたのかも知れない。それか、ドラゴンの力を使っているという事だろうか。どちらにしても意外としか言いようがなかった。

 ちなみにこの走り込み。湖の周りを一周しているような感じだった。というのも、常に右側に湖面の輝きが見えていたからだ。普通にしていれば木々のせいで景色は分からないものだが、俺にははっきりと認識できていた。

 それからというもの、木々の間を進んでいく間に、少しずつ脱落者が出始めていた。


「ぜえぜえ、遅れた子たちは私が面倒を見ますので……、二人は構わずに……進んでいって下さい」


 ナリザスが脱落していた。さすがは後方支援型の教師。体力はあまりなかったようだった。


「しょうがないな、ナリザス。そっちは頼んだぞ」


「……はい、任せておいて下さい」


 というわけで、フリードとジークの二人だけになって、走り込みが続けられた。

 だが、さすがに段々と全員のペースが落ちていく。さすがに食事の後の走り込みとあってか、お腹を押さえている奴だって居た。

 こうなってくると、フリードとジークの二人も見かねたらしく、


「しょうがねえな。一度休憩を入れるぞ」


 やむなく休憩を取る事にしたのだった。


「ったく、最近の連中はこの程度で息が上がるのか。普段あれだけやり込んでるってのによ」


 ジークはものすごく腹を立てているようだった。


「それにしても、無事なのは女性陣ばかりですか。騎士を目指すという割に、鍛え方が足りませんね」


 状況を見渡しながら、フリードは愚痴めいた事を言っていた。実際に今の状態でまともに立っているのは俺とブレア、それとソニアの三人だけだからな、気持ちは分からなくはない。男子どもなんて全滅だもんな。

 昨日からというもの、先が思いやられるばかりだぜ。

 結局、湖を一周して戻ってきた頃には、お昼の時間は過ぎ去ってしまっていたようだった。


「おやおや、今頃お戻りですか」


 戻ってきた俺たちの目の前に、思いもよらない人物の姿があった。


「学園長。おいでになられていたのですか」


 そう、学園長だった。


「誰かが居なければ、ここにある食料は魔物の餌となってしまいますからな。ほっほっほっ」


「確かにそうだな。それは失念しておりました」


 学園長の言葉に、ジークが頭を下げていた。

 これには俺もうっかりしていた。

 学園から持ってきていた物は、すべてこの野営地に置いていたのだ。しかも見張りもつけずに。

 この大失態に気が付いた俺たちは、大いに反省するのだった。

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