第76話 野営地に戻って
ウルフを解体して無事野営地に戻ってきた俺たちだが、その数を見せるとみんなから驚かれた。この反応を見る限り、大半の連中は実戦経験がないってわけか。
そんな中で、ブレアだけが嬉々としながら近付いてきた。
「まあ、アリスさん。結構狩ってきましたのね」
「ええ。ただ、あまりに遭遇しなかったので、ちょっと反則的な事をしましたけれどね」
「あらあら、そうでしたのね」
ひそひそと話をする俺たち。能力を使った事を周りに悟られるわけにはいかなかったからな。騎士たちにとってみれば特殊能力なんて魔法くらいだろうからな。他の能力がある事を知らしめる必要ないもんな。
「おい、アリス、ブレア。お前たちも解体を手伝え。さもないと夕食抜きだぞ」
「ちょっと、それ狩ったのは私ですよ。なんでその私が夕食抜きになるんですか!」
ジークの言い放った言葉にすぐさま反論する俺。だが、ジークはそれに対して反応を返さなかった。解体に慣れていない学生たちに解体の説明に集中しているようだった。そのあまりな対応に俺は納得いかないような態度を見せつつも、ブレアと一緒にウルフの解体を始めたのだった。
しばらくすると採集班が戻ってきたのだが、その様子はだいぶ疲弊しきっていたようだった。
「どうしたんですか、ナリザス。ボロボロじゃないですか」
出迎えに行ったフリードが、引率のナリザスに理由を尋ねる。
「どうしたもこうしたも、途中でいきなりウルフに襲われたんですよ。全部で10匹くらいに。学生たちは戦闘経験がないみたいだから、ほとんど私が倒す事になってしまってですね。……見てのありさまというわけです」
犠牲者は居ないものの、あちこちに傷を負っているのが見て取れる。後方支援がメインだと、ウルフ10体でも苦戦するという事らしい。騎士として大丈夫かといいたいところだが、学生たちが戦闘未経験ならほとんどを一人で引き受ける事になるし、守りながらならそうなってしまうのも仕方ないかと思われる。
ナリザスの話を聞いていると、ブレアが俺の方を睨んできた。どういう事かと思ったのだが、俺が使った魔物寄せのせいだとブレアは言っているのだと気が付いた。
確かに俺は魔物寄せを使ったが、それが採集班の方にまで行くだなんて思ってもなかった。でも、確かに違うと言い切れるだけの確証はなかった。なので俺は、ブレアの視線から顔を背けるしかなかった。言い訳ができないからな。
とはいえ結果はどうあれ、無事に相当な数のウルフの解体を終えて、結構な量の食料を確保したのだった。毛皮だって使い道はあるしな。
いろいろあったものの、無事に初日が終わる。
ところがだ、初日からやらかしてしまったがゆえに、結構雲行きの怪しい状態になっていた。あれだけのウルフの群れが出てきたわけだから、最悪だって想定するのが教師陣なのである。まさか俺のやらかしだなんて思ってもいないのだ。
結局、班分けに従って、3交代で夜中の見張りをする事になった。教師に関しては班分けとは違った形で配置される。とはいっても、採集班と狩猟班の教師を入れ替えただけだ。それでも、これでかなり戦力は平均的になったはずである。
最初に見張りを行うのは採集班、それから待機班、最後に狩猟班という順番になった。
おそらくは多くの者にとって夜中に起きているというのは初めての体験だろう。かく言う俺も、男の頃はそれなりに経験していたが、女になってからはこれといって記憶にない。眠りまくってて目が覚めたら夜中っていうのはあったがな。意図して夜中に起きているというと、多分初めてだろうな。でも、順番は最後だからな。どっちかといえばただの早起きだ。
「あら、アリスさん、ソニアさん」
「ブレアさん、交代の時間ですよ」
「もうそんな時間ですのね。でしたら、寝かせて頂きますわ。ふわぁ……」
交代の時間になってブレアに声を掛けると、ブレアは大きなあくびをしていた。その隣ではセリスが熟睡していた。やっぱり起きていられなかったか。
「あらあら、セリスさんったら完全に寝ていますわね。仕方ないですわね……」
眠そうなブレアだったが、眠っているセリスを背負っていた。
「それでは、見張りを頼みましたわよ。セリスさんの事はわたくしに任せておいて下さいませ」
「ええ、気を付けて下さいね」
眠そうにしながら少しふらつくブレア。そのせいで俺たちはその姿を心配しながら見送っていた。
「君たちは無事に起きてこれたか。さすがだな」
「やれと言われたら遂行するのが騎士ですよね?」
「まあ、そうだね。君たち以外は全滅みたいだけどね」
俺と会話を交わしたナリザスは、最後に辺りを見回しながら苦笑いをしていた。俺とソニア以外は誰一人として起きてきていなかったからだ。
おいおい、こんなのでこの先大丈夫かよ。俺は心の中でこの事態にツッコミを入れていた。
「こうなるのは予測済みですよ。私たちだって、騎士になりたての頃はよくこうなったものですから」
「ナリザス教官もそうだったのですか?」
思わぬ告白に驚く俺たち。それに対して、ナリザスは笑いながらこくりと頷いていた。
それからというもの、夜が明けるまでの間、俺たちはナリザスからいろいろと話を聞く事ができた。もちろんその間、魔物が襲ってくる事はなかったのだが、学生も誰一人として起きてくる事はなかったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます