第73話 初めての野外実習へ

 なんだかんだとやっているうちに、あっという間に半年に一度行われる野外実習の時期がやって来てしまった。

 さすがに学園創立1年目で手探りだったとはいえ、実技と座学の授業の繰り返しで、みんながずいぶんと飽き飽きとしていたので助かる話だ。

 ちなみに実技も座学も、野外実習が近付いてくるにつれて、それに関連した内容の授業が増えていた。天幕の張り方とか料理の仕方とか、特に野営に関する話がほとんどだった。貴族の子女ばかりだから、そういう事をした事のない連中ばかりだもんな。

 でも、騎士となればそういう生活が当たり前になる時があるわけだ。俺も使いっ走りだったとはいえ、騎士として生活していた時期がある。討伐対象の生息地によっては、数日間の旅なんていうのはしょっちゅうあったからな。実に懐かしい話だったな。

 そういう男だった時の経験があったせいで、実技の授業で天幕をさっさと立ててしまったり、火を起こしてしまったりして、周囲のみんなを驚かせてしまった。これはやらかしてしまったな。

 だが、一人でもそういう人物が居るとずいぶんと野外実習の難易度は変わってくる。とはいえ、俺に頼り切りになるわけにはいかないから、みんなにもしっかり覚えてもらわないとな。特にブレア。騎士を目指すなら必須の能力だからな。

 そんなわけで、この半年間、特に野外実習が近付いた頃の授業は何とも阿鼻叫喚な光景が繰り広げられてたのだった。みんな不器用かよ……。


 というわけで、初めての野外実習に出てきた俺たち。最初という事で王都近郊の比較的弱い魔物しか出てこないという森へと向かっている。

 久々の学園の外という事もあってか、みんなかなりのびのびとした様子だ。

 それにしても、だからといってみんな緩み切っていないか?

 確かにこれから向かう場所は、魔物が出てくる場所なんだ。油断なんかしていたら、たとえ弱い魔物とはいえやられてしまう可能性がある。戦場では気を抜いた奴は死ぬんだよ。

 俺が気を抜かずに集中しているという事もあってか、ブレア、セリス、ソニア、それと俺たちの取り巻きになったピエルとマクスもかなり緊張した表情で歩いていた。

 さて、今回の俺たちの最終的な目的地は、森の中にある湖だ。そこで6日間ほどの野宿をしながら実地訓練というわけである。

 この森は王都の騎士団の手が入っているので、生息する魔物の種類は多くない。ウルフ、ゴブリン、それに加えて夜行性のオオコウモリくらいだ。魔物としては弱い部類に入るとはいえども、一般人なら死ぬ事もある相手だ。この合宿では現役騎士たちが教師としてついてきているが、いくら騎士を目指すとはいっても油断はよくない。教師である騎士たちは圧倒的に人数が少ないのだ。俺たちでも戦わなければ、幾分の犠牲が出る事は十分あり得る話というわけだ。

 目的地に向かう道中、俺とブレアがぴくりと反応する。


「そこですわ!」


 ブレアがドラゴニルに教えてもらった魔法を飛ばす。単純な魔力の塊を飛ばす『マジックバレット』という魔法だ。

 すると、その方向から「ギシャ!」という叫び声が聞こえてきた。どうやら命中したらしい。


「ちょっと待っていなさい」


 フリードが代表して確認しに行く。すると、そこには頭を撃ち抜かれたゴブリンが倒れていた。正確に眉間が撃ち抜かれていたので、ブレアの魔法の腕前は相当である。

 ゴブリンの状態を確認したフリードが、学生たちを呼びよせる。そして、倒れたゴブリンを見せながら説明を始める。


「これはゴブリンという魔物です。小さな子どもくらいの大きさですが、凶暴性が高いです。今回のは素手でしたが、木の枝やナイフなどを持っている事もあるので、油断はしないように」


 始まった説明に、学生たちは熱心に耳を傾けている。さすがは騎士を目指しているので、いざとなったら真剣だった。


「ゴブリンは素材となる部分がありませんので、冒険者であるなら、討伐した証拠としてこの耳を削ぎ落します。ゴブリンの最大の特徴は耳と鼻ですからね。そして、部位を切り落とした後は、燃やすか埋めるかしておきましょう。このまま放置すると、魔物が腐って空気が汚染されてしまいますし、他の魔物を呼び寄せる可能性があります」


「埋めても腐るんじゃないんですか?」


「理屈は分かりませんが、埋めると無害な状態で土地の肥やしとなるらしいです。おそらくは空気が原因なのでしょう」


 学生から質問が出ると、フリードはそのように説明していた。

 うーん、説明を聞いてもよく分からない。だが、倒した魔物は素材を確保した後は燃えカスにするか、地面に埋めてしまうという対処になるのか。そういえば、ドラゴニルたちもそんな事をしていたような気がするぜ。

 というわけで、無事にゴブリンの後始末をすると、フリードは俺たちを連れて再び湖に向けて歩き出した。


 一体どれくらい歩いただろうか。森を抜けて、ようやく俺たちの目の前が大きく開けた。


「さあ、ここが今回の野外実習の場所ですよ」


 目の前にはキラキラと輝くきれいな湖が広がっていたのだった。

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