第66話 本格的な授業、開始
順調とは言えないものの、それなりのスタートを切った俺たちの学園生活。
さすがは騎士を養成するとあって、校則はかなり厳しめに設定されている。
年頃の子女としては、学園外への外出の一切が禁止されているのはかなり厳しいだろう。なにせ、親兄弟との面会だって許可制だ。どちらかからか申請を行い、その上で許可されなければ実現しないのだから。正直、ドラゴニルみたいな非常識でもない限り、そう簡単に家族とは会えないだろう。そう思うと、本当に早々に顔を合わせたドラゴニルは異常なんだよな。
それにしても、学園3日目の朝から、陽の出る前に起きて学園の外周の内側を走るという日課が実際に行われるとは思ってもみなかった。本気にしていなかったのだ。だが、フリードたち教師陣が早朝寮内を巡って俺たちを叩き起こし、率先して走り込みを行うんだからすごいもんだ。教師たちも現役騎士だという事を思い知らされるというものだぜ。
それでも、早朝の走り込みの後の朝食は、まともに食べられない学生たちが続出していたな。後方支援クラスに割り当てられた学生たちだ。もうしばらくは、朝食が食べられない日々が続くんだろうな。
いろいろと先の思いやられそうな光景を見ながらも、俺たちは午前中の授業に向けて準備をする。
俺たち前線クラスの午前中の授業は実技が割り当てられている。そこで教鞭を執るのはフリードともう一人の教師だった。二人とも今日は騎士服に剣を携えているので、本当に騎士らしく見える。人の印象は服装によって変わるといういい例だ。
「今日は最初の授業という事で、諸君の実力のほどを見させてもらおうと思う。そこで、この私フリードと、もう一人の担当であるジークと打ち合ってもらう。特に勝ち負けにこだわらなくてもいい。今自分の持てる力をもって、私たちに立ち向かってきてくれ」
フリードの言葉に騒めく学生たち。そりゃまあ、いきなり現役騎士と打ち合えるだなんて思ってもみなかったんだろうな。
学園の教師陣は、学園長と副学園長の二人を除けば現役の騎士からの登用だ。騎士団の中でも人に教えるという点を重視して選んだとはいえ、実力は相当だという風にドラゴニルからは聞かされていた。
確かに、話を終えた二人からは、相当の気迫が流れてくる。これに対して多くの学生たちが怯む中、俺とブレアの二人だけが楽しそうに笑っていた。
「ほう、そこで笑う余裕があるとはな。フリード、あの二人と戦わせてもらって構わないか?」
「構わないぞ。面白そうな奴を見つけると戦おうとするのはお前の悪い癖だ、ジーク」
ジークの申し出を了承するフリードだが、その癖を窘めておく事も忘れなかった。同僚がゆえに、お互いの事をよく知っているようである。
「ってわけだ。そこの栗色と赤色の髪の女。俺と全力で戦おうぜ」
俺たちを指差しながら、ジークは宣戦布告をしてきた。これには他の学生たちもざわざわと騒がしくなってしまった。
だが、こっちとしても願ったり叶ったりだ。こうも早く現役騎士との打ち合いができるなんて思ってなかったからな。素振りから入るものだと思ってたぜ。
「分かりました。1対1でよろしいですか?」
「実力は分からねえが、入学したての学生に後れを取るつもりはない。二人一緒に来い」
「だ、そうですよ、ブレアさん」
「甘く見られたものですね、アリスさん」
ジークの返答に、にやりと笑う俺たち。授業の前に1本ずつ持たされた木剣を手に、俺たちは構える。
「ほう、構えはちゃんとしているな。だが、実力はいかほどかな?」
顔の前に木剣を構えて立つジーク。さすがは騎士といった風格が漂っている。ただ、言葉遣いは少々乱暴だ。
剣を構え合い、じりじりと睨み合う俺たち。その静かな様子の探り合いは、突如として終わりを告げる。
「余裕があるように見えて、実に慎重だな。ならば、こちらから行かせてもらう!」
ジークが踏み込んできた。
速い!
その踏み込みの速度は、さすがは現役騎士といったところだ。だが、この程度の速度、実は俺は経験済みだった。
……そう、ドラゴンの力が目覚めて暴走した時のブレアだ。あれの時の方が明らかに速度が上だ。対処できない速度ではなかった。
でも、相手は現役騎士、しかも大人の男性だ。俺たちの力で、はたして受け止められるかという問題はある。否、受け止めなければならない。そう思った俺は、次の行動を起こしていた。
「はあっ!」
振り下ろされる剣に向けて、俺も剣を振るう。
カキーン!
実にいい木剣のぶつかり合う音が響き渡った。
「これを受け止めるとはやるな。さすがはドラゴニル様のとこのお嬢さんだ」
「あら、お父様をご存じですのね」
「知らない方が無理だと思うな。ドラゴニル様には騎士団はかなりかき回されたからな」
何をやってるんだよ、ドラゴニル!!
ジークから話を聞かされて、心の中で大声で叫ぶ俺。
「やあっ!」
そこへ、がら空きだと言わんばかりにブレアが斬り掛かる。
「おっと、剣筋はいいが、振り方が甘いな」
あっさり躱されてしまうブレアだった。ついでに、その時の行動で、俺も大きく吹き飛ばされてしまっていた。一つの動作で二人を同時にあしらってしまう。これが現役騎士の力なのか。
結局、いいところまで行ったものの、俺たちはジークに勝つ事はできなかった。まだまだ実力の差が大きい事を思い知らされたのだった。
この後の学生たちは、俺たちが簡単にあしらわれた事もあってか、かなり及び腰になってしまっていた。まあ、それはなんとも散々な結果となった。そのせいで、フリードとジークの二人から、かなり酷評を食らう事になってしまったのだった。
これは本当に先が思いやられそうだな……。
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