第67話 初めての座学授業
「はあ、なんだかんだ言っても、現役騎士ってのは強いのですね」
昼食を食べながら、俺はため息とともにそんな言葉を吐き出していた。
「そうですわね。フェイダン公爵邸の騎士たちとはそこそこ打ち合えるようにはなっていましたのに、上にはまだ上が居ましたのね」
ブレアもこの有り様である。
ブレアも確かにだいぶ腕はあげたのだが、そのブレアも完全に子ども扱いというのは、さすがは王家直属の王国騎士団の人間だと思う。正直ここまで実力の差があるというのは、俺たちにとって衝撃的だった。
俺たちと同じようにぼこぼこにされたセリスとソニアも、完全に黙り込んだ状態でお昼を食べている。
この二人もそれなりに自信があったんだろうな。だが、その自信をあっさりとへし折ってくれるくらいに、騎士団からやって来た教師のフリードとジークは強かったのである。
しかし、このまま沈み込みっぱなしっていうのは、実に辛気臭くてよろしくない。俺はこの状況をどうにかしようと考える事にした。
「でも、あれだけボロボロにされた事で、かえって目標ができてよかったのではないでしょうかね。フリード先生とジーク先生を倒すという目標が」
三人に向かって、俺は笑顔を浮かべながらそう話し掛けると、そろって俺に向かって驚いた顔を向けてきた。
「……確かにそうですわね。漠然とした目標よりは、はっきりとした目標がある方が頑張れますわね」
「ええ、そうですね。悔しいですけれど、手も足も出ませんでしたからね」
「だね。やられっぱなしはあたしの性に合わないわ」
俺の言葉に、三人ともやる気が出てきたようである。いやあ、言ってみるもんだな。
とりあえずは、全員に元気が出てひと安心ってところだ。ただ、俺たちの午後の授業は座学だから、このやる気がいつまで続くかって問題はあるな。
どう考えても頭よりも体を動かすのが好きそうな雰囲気があるもんな、ブレアたちって。俺も座学はそれほど好きじゃないが、公爵令嬢としての所作を身に付ける上でかなり座学もやらされたので、そこまで苦痛じゃないんだよな。
いろいろと話をしながら、俺たちは昼食を平らげる。そして、午後の座学の授業の行われる教室へと向かったのだった。
午後の座学で行われるのは、兵法や戦術といった、後方支援側の話がメインとなるらしい。
だが、これがなければ騎士団というものもまともに動く事はできないのだと、副学園長が力説していた。
騎士それぞれの能力を把握し、適材適所で配備、それを統制できてこそ騎士団は十分な力を発揮できると、それはとても熱の入った演説だった。
俺は熱心に聞いていたものだが、ブレアはこくりこくりと眠りかけ、ソニアなんて完全に興味を失っていた。お前ら、初日からそれかよ!
俺は横を見て目に飛び込んできた光景に、はっきり言って驚かされた。これでもお嬢様として育ってきたんだろうが。そんなんでどうするんだよ……。
そんな時だった。
副学園長からちょっとした殺気があふれ、何かが俺たちの方へと飛んできたのは。
だが、ブレアもソニアも、しっかりとそれを受け止めていた。弾くんじゃなくて受け止めるとは、大したものだと思うぜ。
「ほう、反応するとは大したものですな。ですが、私の授業で眠れると思っているのなら、覚悟はしておいた方がよろしいですぞ。体力は確かに及ばなくとも、私にはそれを補う頭脳と技術がありますからな」
攻撃を止められたものの、副学園長はにやりと不敵な笑みを浮かべていた。
その次の瞬間、俺たちとは違う方向にまた何かを投げた。そちらは見事に居眠りしていた学生に命中していた。
「いってぇっ!」
額に黒いあざを浮かべながら、学生は大きな声を上げていた。ってか、あざが付くってどんな威力で投げつけてるんだよ。俺はその様子にぞっとしたものだ。
「これが戦場であるなら、君たちは死んでいます。騎士としての心構えができていませんので、帰って頂いても構いませんよ」
副学園長は腕を組みながら説教じみた事を言い始めた。
しかし、こう言われてしまえば、学生たちだって黙っちゃいない。騎士を目指してきたのは事実だし、それよりも本気なのである。
大体の学生は次男だとかで家督を継げない者が多い。そうなると、家を出る選択肢を取らざるを得ないのだ。騎士という職業は、その中でも特に名誉ある職業なので、家を見返すという点でもそこにかける情熱というものはひとしおなのだ。
副学園長の一言は、見事に学生たちに火をつけた。全員が真剣に教壇に向き合い、副学園長の話にしっかりと耳を傾けていた。セリスだけは最初から真剣に聞いていたけど、ブレアとソニアもしっかりと身が入ったようだった。
はー、こういった話は男の頃にもしっかり聞きたかったぜ。あの時は言われるがままにがむしゃらにやってたせいで、何度となく危険な目に遭ったからな。能力のおかげで無事に戻って来れたが、そうでなかったら何度死んでいただろうな。
かなり長い時間の座学だったが、そういった背景もあってか、俺は最後の最後まで集中して聞く事ができた。
ただ漠然としていた騎士を目指すという目標だが、その騎士も奥深いものだという事を知った俺は、俄然やる気が出たのだった。
それとは対照的に、ブレアとソニアは授業が終わると同時に机に突っ伏し、そのままいびきをかき始めたのだった。
……無茶しやがって。
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