第60話 初日の寮の部屋にて
寮へと移動した俺たちだが、割り当てられた部屋は寮の最奥にある部屋だった。隣の部屋の扉までは距離があるので、一室はかなり大きいようだ。
俺とブレアは部屋の前に立つ。そこには名前が掲げられており、俺とブレア、それと予想通りにセリスとソニアの名前が書かれていた。女性四人で一室という事らしい。
中へと入ると、正面に目立つように窓があり、その手前に机が4つ並んでいる。その両脇には二段ベッドが2つあるようだ。
中に踏み入れて振り返ると、そこには洋服ダンスが置かれていた。よく見ると、入って左手のタンスとベッドの間には扉があった。
「何でしょうかね、この扉は」
ブレアが気になって扉に手を掛けている。ごくりと息を飲んで扉を開くと、そこにはトイレと浴場が設置されていた。唯一の女子部屋ゆえの配慮なのだろう。その関係か、そこの壁は他の壁よりも厚くなっていた。おそらく、湿気やにおい対策だろう。
「水回りがここにあるのは助かりますわね。やはり殿方と一緒の場所を使うのは、気が引けますから」
「ええ、そうですね」
俺たちはその設備を見ながら、気遣いに感謝していた。まあ、おそらくドラゴニルが捻じ込んだのだろう。豪快な性格だが、俺に対してはちょっと過保護な一面もあるからな。
ドラゴニルは俺の事を伴侶だと抜かしているから、極力他の男にさらさせたくないはずだ。ならばこのくらいも平気でやってくれそうだ。
「ここが私の住む部屋か。思ったより広い部屋じゃないの」
「同室なのは、自己紹介してた時に見た女の子ばかりのようね。まあ、男と一緒じゃないのは安心ね」
遅れて二人の女子がやって来た。セリスとソニアだったか。近くで見るとさっきとは雰囲気が違って見えるな。
「えっと、確かアリスさんとブレアさんでしたね。私はセリスと申します。3年間よろしくですわ」
3年間と言い切ったという事は、セリスも最短で卒業する気満々って事だな。まあ、それだけ本気で騎士を目指してるって事だ。その言い分は俺としても嬉しい限りだ。
「あら、それだったら、あたしも負けませんよ。女として見下してきた連中を見返してやるわ」
ソニアもソニアで、ちょっと方向性があれなのだが、やる気十分みたいだ。
ずかずかと入ってきたソニアは、入って右側の下のベッドへさっさと入って寝ころんでいた。行動が早い。
「あたしはここを使うわ。別にいいわよね?」
半ば睨むように俺たちを見るソニア。特に反対意見もないので、俺たちは黙って頷いていた。四人で部屋を使う事以外は特に決まってないので、ベッドや机のどこを誰が使おうと問題ないからな。
というわけで、俺たちはさっさと自分のベッドや机の位置を決めていった。こういう時の団結ってすげえよな。
それにしても、令嬢が揃っているというのに全員がパンツスタイルという光景は実に新鮮だな。俺なんて訓練の時ですらドレスだったからな。
「どうされましたの? アリス様……じゃなかったアリスさん」
ブレアは俺の事を様付けで呼んだ後、慌てて言い直していた。騎士学園の中では、お互いの事をさん付けで呼ぶようにと決められているのである。細かいが、みんな騎士見習いであるがゆえにそうするように定められているのである。俺もブレアもその点に関してはちゃんと確認済みだった。だから、ブレアはこうして言い直せたのである。
「いや、なんかこういう格好って新鮮かなって思っちゃって。ほら、私ってば家に居た時の訓練でずっとドレスを着せられていたから、こういう格好ってなじみがなくて……」
「そういえばそうでしたわね。剣術訓練でドレスを着てられる方なんてのは、アリスさんくらいですわよ」
「なにそれ。ドラゴニル公爵家ってなんなの?」
ブレアに疑問を持たれた俺の行動の理由を話すと、セリスとソニアの二人はよく分からないといった感じで首を捻っている。やっぱり俺の環境っていうのは特異なものだったのか。
ここまで言われるとか、本当にドラゴニルの奴を殴ってやらないと俺の気は済みそうになかった。でも、学園に在籍中は外に出られねえからな。3年後覚えてろよ、ドラゴニル。
それはそれとして、俺たちの部屋の配置が決まった事で、各自荷物を部屋の中に運び入れていく。やっぱり騎士の学園の中という事でドレスのようなひらひらとした服装はなかった。まあ、校則で服装も決められてしまってるからな。パンツスタイルしか着る事ができないんだよな。動きやすくていいんだけど、ドレスが恋しくなるとか、すっかり女に染まってるな、俺は……。
初日はこのまま部屋の中で、お互いの事で話が盛り上がって終わったのだった。
明日からはいよいよ本格的な学園生活が始まる。
騎士の養成学園と言うからには、それは厳しいものになるというのは容易に想像がつく。だが、男の時の騎士団入団後の扱いの事がどうも脳裏を過るので、あまりいい印象が頭に浮かんでこない。
それでもここには、ブレアたちが居る。志を同じくする仲間が居るのなら、きっと楽しくやっていけるだろう。
俺たちは騎士を目指すという志を再び確認すると、その日は早めに眠りに就いたのだった。
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