第59話 最初は自己紹介
さて、講堂で入学式を終えたが、予想に違わず男ばかりだったな。
女に関しては、俺とブレア以外にも一応居る事は居たのだが、肩身が狭いかと思いきや、俺たち同様に堂々としていた感じだった。ライバルとはいえ仲良くできるといいな。
だが、俺の目的はとにかく騎士になる事だ。馴れ合いをしに来たわけじゃない。そのためにも、俺はこの男どもを蹴散らかさないとな。
俺は入学式の時点で燃えていた。
さて、入学式を終えた俺たちは、教室へと移動する。教室には先程入学式で見た連中が全員揃っていた。記念すべき学園の第1期生は、なんと40人だったというわけだ。
「思ったより少ないですわね。騎士って憧れの職業なはずなのですが」
ブレアが漏らした言葉の通りだ。騎士というのは貴族たちにとって一つのステータスのはずである。だが、実際のところどうだろう。たった40人とは泣けてくる。
この学園の事の周知が足りなかったのか、学園に通うまでもないと判断されたのか。いずれにせよ、王国内の子女よりも圧倒的に少ない人数では先が思いやられるというものだ。
教室内に居る女は、俺とブレアを除けば二人だった。つまり、全体の10分の1が女というわけである。
学園に入ってきたのは、通常では騎士にはとてもなれるような状態ではないというのが大きいだろう。フェイダン公爵家でも、抱えている女騎士は二人だけだ。あのドラゴニルに見出されて入隊できたのだ。そのくらいに女騎士というのは厳しい道なのである。
しばらくすると、学園の入口であったフリードとかいう男が入ってきた。どうやらこのクラスを受け持つ教師のようだ。
「せっかくだから自己紹介してもらおうか」
入るなりこれである。お前の自己紹介からやれと心の中で思う俺である。
それはそれとして、おとなしく自己紹介が始まる。
座席自体は適当に座ったのだが、フリードはそれを気にする事なく自己紹介の開始地点を指定していた。それにしても、教師が入ってきたらきちんと座って静かにするあたり、さすがは騎士を志望している連中だな。
俺はブレアと共に中央の後ろ付近に座っているので、自己紹介のタイミングとしては真ん中あたりだ。
それよりも前に、女子学生の一人に順番が回ってきた。
その瞬間、周りから注目が集まる。女だからかと思ったが、どうもそういうわけではなさそうだった。
「レンブラント侯爵家長女、セリス・レンブラントと申します。よろしくお願い致します」
セリスと名乗った女性は、無表情のまま頭を下げてそのまま座ってしまった。実に淡々として堂々とした様子に、俺とブレアは惹かれてしまった。
レンブラントというのは王国内では権力のある侯爵家だ。あのドラゴニルでさえ一目置いている家柄の令嬢が、まさかの騎士の養成学園への入学である。これは何とも意外な話だった。
俺たちが驚いているのと同じように、周りの学生たちもざわざわとどよめき立っていた。
「おい、黙るんだ。まだ自己紹介が終わってないからな。話をするなら、この後の自由時間にするんだ」
手を叩きながら注意するフリード。それと同時に学生たちはピシッと静まり返ってしまった。さすが騎士を目指すだけあるな。
その後も順番に自己紹介が続き、ついに俺たちの番が回ってきた。先に喋るのはブレアの方だった。
「クロウラー伯爵家長女、ブレア・クロウラーと申しますわ。騎士となって王国の剣や盾となってみせますわ」
相変わらずの強気な発言のブレアである。だが、こういう事を言っても笑わないのが騎士である。まあ、心の内じゃどう思ってるかは知らないがな。
フリードも「まあ頑張れ」の一言くらいで簡単に済ませていた。まあ、自己紹介だから過剰な反応を避けたんだろうな。
っと、次は俺だったな。
「フェイダン公爵家長女、アリス・フェイダンと申します。騎士になるのは私の夢であり、父との約束でもあります。よろしくお願いします」
よし、緊張はしたが噛まずに言い切ったぞ。俺が安心したかのような表情を浮かべて座ると、ブレアがくすくすと笑っていた。そんなにおかしかったかな。
それはともかくとして、自己紹介はさらに続いていく。
そして、最後の最後、自己紹介の最後を飾るのは、もう一人居る女性だった。
「ソルディス男爵家次女、ソニア・ソルディス。よろしく」
言葉短めに淡々と語って、あっという間に座ってしまった。見たところ、かなり影のあるような感じの女性のようである。そういやこいつら、みんな同い年なんだよな? 雰囲気が違い過ぎるぜ。
こうして、自己紹介が終わると、明日からの予定が言い渡されて、全員がそれぞれ寮の部屋へと移動する事となった。
寮の工事は突貫工事だったのか、あまり部屋数が確保できなかったらしい。なんでも四人一組という部屋割りになっているそうだ。
女性は女性で集められているので、俺とブレアは同室だが、セリスとソニアも同室という事になりそうだ。
俺たちは配られた資料を見ながら、ぞろぞろと寮へ移動していくのだった。
これからどうなるのか、楽しみだぜ。
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