第57話 うごめく陰謀
アリスたちが日々鍛錬に励むその頃。フェイダン公爵領の僻地では……。
「くっそ、なんだあいつらは」
洞穴の中から喚く声が聞こえてくる。
そこに居たのは、見た感じはこぎれいな姿をしている男性のようだ。
「ドラゴニルめ……。やはり、あやつが最大の障壁か。まさか忌々しい力の持ち主を、自分の手元に引き込んでいるとはな」
忌々しい力の持ち主、手元に引き込むという表現から、男が指し示すのは恐らくアリスの事だろう。
アリス自身が『魔物を討つ力』や『魔物を滅する力』と称しているその力、この男はそれを恐れているようである。
「最初こそ忌々しい力を持つ娘をやれたと思ったのに、ああも簡単に覚醒して力を振るうとは……。くそっ、ドラゴニルめ!」
あふれ出る怒りに、男は洞穴に転がる石を蹴り上げていた。
しばらくの間、洞穴の中には石が壁面とぶつかった音だけが響き渡っていた。
「潰し合うと思っていた連中が、どうして一緒に居るのだ。あの力、俺の方が先に目をつけていたというのに、あいつは一体どこで知ったというのだ!?」
「主」
男が叫んでいると、突如として声を掛けられる。男はその声に反応してくるりと後ろを振り返る。
「どう致しましょうか。この日のために集めてきた魔物どもはすべて倒されてしまいました。そのために、しばらくは魔物をけしかけるような真似はできません」
配下の男は現状をその報告している。すると、男はさらに不機嫌になっていく。
「くそっ! 急げと言いたいところだが、あの魔物どもはお前が必死にかき集めていたのは知っているからな。どいつもこいつも簡単に手懐けられない凶悪な魔物どもだ。……それをドラゴニルの奴は!」
次の瞬間、男は思い切り地面を踏みつけていた。すると、そこの地面が深く凹んでいた。なんという脚力なのだろうか。
「ドラゴニルの奴は、国の中枢にまで影響力を強めておる。来年開校する、騎士を育成するための学園の設立にも深くかかわったらしいからな。まったく忌々しい奴だ」
男が怒りで地団太を踏めば、さらに地面は抉れていく。その光景を見た配下の男は、恐怖のあまりに顔を青ざめさせている。
何度か地面を抉った事で男はバランスを崩してこけそうになり、それによってようやく冷静になったようだ。
「主、大丈夫ですか?」
「悪い、つい熱くなりすぎたようだ」
男に配下の男に抱えられながら、反省をしているようだった。
だが、すぐに次の計画を練り始める。男のドラゴニルに対する対抗心はかなり根深いもののようだった。
「しばらくは魔物による襲撃はできん。俺の立場ではドラゴニルに直接仕掛けるのは難しいだろう」
「そうなると、やはり狙うは学園ですかね?」
「……お前もそう思うか」
「はい」
男は目を光らせている。その雰囲気に配下の男は飲まれそうになりながら、こくりと頷いていた。やはり、この男には逆らえないと。
「おそらくは、騎士を育てるとなると野外活動があるでしょうから、そこに合わせて仕掛けるのがよろしいかと思われます」
「うむ、確かにそうだな。よし、お前はそれに合わせてまた魔物を集めておけ。今度こそぬかるなよ?」
「はっ、主の望むがままに!」
配下の男は跪いて返事をすると、すたこらさっさと走り去っていった。
その姿を見送った男は、洞穴の壁に手をそっとつくと、にやりと不気味な笑みを浮かべていた。そして、
「ふん、同じドラゴンの血を引く者として、お前にばかりにいい気をさせるつもりはない。必ずや蹴落としてくれようぞ。ふふっ、ふははははははっ!」
洞穴の中で男の笑い声がしばらく響き渡っていたのだった。
ドラゴニルと同じドラゴンの血を引く者とは、一体この男は何者なのだろうか。そして、魔物を従わせられる配下の男とは? 謎が深まるばかりである。
ただ言える事は、アリスやブレアが通う事になる騎士の養成学園を巡って、不穏な動きをする者が居るという事だけである。
アリスが巻き戻る前の時間軸、ドラゴニルがドラゴニスだった頃でも、フェイダン公爵家にはたくさんの敵が居た。ただでさえ力がある上に尊大なドラゴニスの態度がその敵意を増長させたとはいえ、そもそも快く思っていない連中は多かったのだ。
巻き戻った今の時間軸でも、その時と同じようにフェイダン公爵家に対する対抗心を燃やす貴族が居るという事なのだろう。
ただ今回は、ドラゴニルは男となっており、その豪胆さからかなり多くの不満の声を封じ込める事ができていた。
しかし、それはあくまでも表向きの状態だった。裏ではこのように不満を吐露する者も多くないという事なのである。
そう考えると、やはりドラゴニルの性格が一番の問題という事かも知れない。
アリスたちの与り知らぬところとはいえ、今回の時間軸でもこの国の中では様々な陰謀が渦巻いているようだった。
はたして、これからのアリスたちの運命はどうなってしまうのだろうか。
アリスたちの騎士への道のりは、かなり険しく厳しいものとなりそうだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます