第54話 未知なるドラゴンの力
午後の勉強が終わり、夕食を前に部屋に戻ってきた俺。とりあえず、ブレアの様子を確認する。
「レサ、ブレア様の様子はどうですか?」
「お帰りなさいませ、お嬢様。ブレア様でしたら、先程目を覚まされました。今は自分の使用人を連れて湯浴みをなさっているところです」
レサからの返答に、俺はとりあえずひと安心した。
それというのも、俺が力に目覚めた時は確か5日ほど目を覚まさなかったはずだからだ。
(やっぱり未知の力にいきなり目覚めると、体に相当負担が来るもんな。半日ほどで目覚めてくれてよかったぜ)
自分の経験があったからか、心配のあまり、本当に勉強中もあんまり集中できなかったんだぜ。でも、下手に集中してないとサウラはうるさいからな。内心びくびくしたもんだ。
勉強の片付けを終えて部屋でくつろいでいると、湯浴みから戻ってきたブレアが使用人と一緒に姿を見せた。その元気そうな姿に、俺は椅子から立ち上がってブレアを迎える。
「元気そうでなによりです、ブレア様。心配のあまり、勉強が頭に入りそうにありませんでした」
「ご心配おかけして申し訳ありませんでしたわ、アリス様」
俺の言葉に対して、ブレアは頭を下げて謝罪をしてくる。でも、俺は気にしてはいない。一緒の志を持つ仲間が目を覚ましただけで十分っていうもんだ。
「謝らないで下さいませ。ブレア様は新たな力に目覚めようとしていただけですから」
「新たな力? あの体の中が沸き立つような感覚が、ですか?」
俺の言葉に、ブレアは考え込むようにしながら反応している。どうやら、ブレアは自分の中の異変に気が付いていたようだった。
そして、顔を上げたブレアは、俺に近付いてきて腕を掴みながら問い掛けてきた。
「あれは一体何だったのです?! なんだか、自分が自分で無くなるような、そんな感覚でしたわよ」
そう叫ぶように言うブレアだが、よく見ると手が震えている。
どうやら、俺との模擬戦での感覚を思い出して、じわじわと怖くなってきているようだった。
「大丈夫ですよ、ブレア様。それに関しては、この後の夕食の席でお父様にお聞き致しましょう」
俺はとにかくブレアを落ち着かせようとする。ブレアの能力に関しては、ドラゴニルが昼間に言っていたからあいつに丸投げするのが一番だからな。
夕食の時間も近付いてきたが、結局ブレアを落ち着かせる事はできなかったものの、俺はブレアを連れて食堂へと移動する事にした。
食堂へ到着すると、ドラゴニルはすでに席に座っていた。なんでこいつこんなに早えんだよ。領主としての仕事はちゃんとしてるのか?!
「失敬だな、アリス。仕事を終わらせたからここに居るのではないか」
「私の思考を読むんじゃありませんよ!!」
まったく、相変わらず食えねえ奴だ。俺の頭の中を読みやがって……。
ちなみに、このやり取りを見たブレアは驚いた顔をして呆然としていた。そりゃ、傍から見ればよく分からないやり取りだからな……。
「それよりもお父様。ブレア様に今日の私との模擬戦の事を説明してあげて下さいませんか」
俺は怒りながらも、ドラゴニルに今日の事を説明するように責任を丸投げにする。さすがに俺じゃ説明できねえからな。
真剣な表情をする俺を見て、ドラゴニルは少し驚いたような顔を見せたが、すぐさま笑い始めていた。
「くっくっくっ、あの力の事を我に説明しろという事か」
ドラゴニルは実に不敵な笑みを浮かべている。その表情には、ブレアは当然ながら、俺も飲まれそうになった。なんて顔をしやがるんだ。
「ブレア・クロウラーよ」
「は、はい!」
食事を前に、ドラゴニルがブレアに話し掛けると、ブレアは背筋を伸ばして元気よく返事をする。
「お前に今日起きた変化は、この我も経験した事のある事だ」
「ほ、本当で、ございますか?」
ドラゴニルの証言に、ブレアは疑ってかかっている。正直に言って信じられないというのは、俺も十分理解できる事だ。
「うむ。クロウラー伯爵家は我のフェイダン公爵家から分離独立した傍流の家系だ。ゆえに、我と同じ力を持つ者が出てきてもおかしくはない」
ドラゴニルがこう言った事で、すぐにピンときてしまうのがブレアである。
「という事は、私のあの時の違和感は、ドラゴニル様と同じドラゴンの力に目覚めた、そう仰られるのですのね?」
本当に頭がいいなあ、ブレアは。
もしかして、ドラゴンってのは頭のいい連中ばかりなのか?
「知恵と知識とそれを扱うだけの頭脳を持つのがドラゴンの象徴だ。なにもドラゴンは力だけというわけではないぞ、アリスよ」
「また私の思考を読んだのですね? 本当にやめて下さいませ!」
俺は不機嫌そうに頬を膨らませる。本当にドラゴニルを相手にすると女の仕草が顔を覗かせてしまうな。まったく、ドラゴニルの相手は疲れるし調子が狂うぜ……。
でも、今はブレアの話の最中だ。俺は最低限の文句だけ言って、後は黙る事にした。
ドラゴニルもそれを汲んだのか、ブレアにドラゴンの力について食事中も含めて説明をしていた。それがどれだけ突飛なものかというと、ブレアがまったく食事に手を付けられなくなるほどで、この日の夕食を終えるまでには相当の時間がかかってしまったのだった。
「私の中に、そんな大それた力が……」
部屋に戻ってきても、ブレアは放心気味にしていた。まあ、いきなりドラゴンの力だとか言われても実感が湧くわけはないわな。いくらその家系っていう事を知っていたとしてもな。
結局、ブレアが完全に落ち着くまで、俺はずっと付き添う事にしたのだった。
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