第50話 フェイダン公爵邸への帰還
「うむ、懐かしいな我が家は!」
公爵邸に到着するなり、ドラゴニルはこの言いっぷりである。確かに今回はちょっと長くなってしまった。
だが、それも魔物が予想もしない動きをしたというのが大きかった。本当なら数日見回りして終わりの予定だったのだが、思った以上に魔物が多かったのが理由としては大きい。
「あれくらい魔物を蹴散らしたんだ、しばらくは魔物もおとなしくなるだろう。だが、もう少し歯ごたえのある魔物とやり合いたかったぞ、がははははっ!」
大声で笑うドラゴニルだが、隣で俺はげんなりとしていた。こいつ、元々は女だったんだよな?
正直言って、この豪胆な性格ではそりゃあ恨みも買うわなという感想しか出てこなかった。俺の顔はただただひきつっていた。
なんでこんなに勝ち気で強気で自信たっぷりでいられるのだろうか。俺にはまったく分からない話だった。
「時に、どう思うアリスよ」
俺が混乱する中、突然話を振ってくるドラゴニル。急な事で俺はまったく反応できなかった。
「なんだ。何を驚いているというのだ?」
ドラゴニルは俺の反応を理解できないようだった。いきなり話を振られて反応できると思うかよ。しかも内容が分からんのにだ。
「そうかそうか。質問が分からないときたか」
俺の反応を見てドラゴニルは察してしまう。やはり俺はこいつには敵わないというのだろうか。
「魔物たちとその背後に居るだろう人物についてだ。率直にお前からも意見を聞いておきたい」
ドラゴニルは改めて質問をぶつけてきた。最初からそう言いやがれ。
文句は言いたいところなんだが、俺はその質問に対して真剣に考え始める。
魔物たちの動きは完全に統制が取れていて、間違いなく誰かが指示を出していたのは間違いない感じだった。
それに、あの捨て身のような行動を見る限り、俺とドラゴニルを完全に葬り去ろうという意図が感じられた。俺はその辺りをドラゴニルに対して伝えた。
すると、ドラゴニルはニカッと笑って俺の頭を撫でてきた。やめろ、髪の毛が乱れる。
「ふむ、お前もそのように感じたか。まあ合格だな、あの後ろには間違いなく何者かが居る。少なくとも我に因縁のある誰かがな」
ドラゴニルはこう言っていたので、どうやら多少なりと目星がついているような感じのようだ。だが、今のこのドラゴニルなら、相当に恨みを買っていてもおかしくなさそうな感じだ。
だが、そうだとした場合には違う問題が発生する。
それは言わずと知れた、魔物を操っていたという現実だろう。はたしてそんな事が可能なのだろうかと、俺は訝しんでしまった。
「お前の考えている事は分かる。だが、方法がないというわけではない。一般には知られていないだけだからな」
ドラゴニルはどこまでも落ち着いている。
それにしても、そんな方法があるというのか。一般に知られてないとか言ってるって事は、ドラゴニルはその方法を知っているっていうわけか。
「無論だ。フェイダン公爵家も歴史は長いからな。いろんな知識を引き継いでいるぞ」
「おい、俺の思考を読むな!」
「ふっ、可愛い顔が台無しだぞ。使用人たちが見ているんだ、おとなしくしていろ」
「な、何を仰るんですか!」
まったく、こいつは相変わらずマイペースな奴だ。俺の考えている事を全部読み取った上で遊んでいやがる。
俺はドラゴニルをぽかぽかと叩いていた。それは周りから見れば微笑ましい親子の戯れにしか見えないだろう。
冗談じゃない。こいつは俺の事を将来的に伴侶にしようとしているし、俺は俺でドラゴニルには恨みがある。仲良し親子になんて見られてたまるかよ!
その時だった。
「まあ、ドラゴニル様、アリス様。お戻りになられたのですね」
どこからともなくブレアが走ってやって来た。
「これはブレア様。どうしてこちらに?」
唐突なブレアの登場に、俺は驚いていた。
「昨日、遊びに来たのですわ。そしたら、お二人とも不在とお聞きしまして、そのまま帰るのもなんでしたので、お泊りさせて頂きましたの」
なんともまあ、もの凄いタイミングだった。
「まあ、そうでしたのね。歓迎致しますわ、ブレア様」
「うむ、我も歓迎するぞ、ブレア・クロウラー。アリスも今回の事で疲れているだろうからな、たっぷり相手をしてやってくれ」
「承知致しましたわ、ドラゴニル様」
ブレアはさっとスカートの裾をつまんで頭を下げる。
「ブレア様、お嬢様は先に湯浴みをなさいますので、お部屋でお待ち下さいませ」
「分かりましたわ。では、アリス様。お待ちしておりますわ」
ブレアはそう返事をすると、一足先に屋敷の中へと入っていった。
それにしても、ブレアの顔を見るとなんとも落ち着くものである。同世代っていうのもあるんだろうけど、本当に俺にとってブレアは特別な存在なのだろう。
もっと言えば、ようやく屋敷に戻ってきたっていう感じがするのだ。なにせブレアはしょっちゅううちにやって来るからな。まるで実家のような安心感を感じる存在だった。
とりあえず、気になる事はたくさんあるものの、休ませてもらう事にしよう。
俺はレサと一緒に、湯浴みをするために風呂場に向かったのだった。
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