第49話 圧倒的蹂躙劇
突如として降り注ぐ矢の雨に、俺と戦うオークどもはどんどんと貫かれていく。俺は体が小さいという事を活かして、うまくオークを盾にしながら矢を躱していく。
それにしても、味方を巻き添えにしながら攻撃を仕掛けてくるとは、ずいぶんと思い切った事をしてくれるな。
俺は矢の飛んできた方向へと目を向ける。
そこに居たのはゴブリンアーチャーやオークアーチャーといった弓使いどもだった。
しかしだ、オークアーチャーの攻撃でオークが貫かれるのは分かるが、ゴブリンも同じような攻撃力を発揮するとは思ってもみなかった。なにせ、矢に貫かれたオークどもが次々と倒れていっているからだ。
(……これは毒か?)
倒れたオークたちの傷口を見てみると、明らかに皮膚の色が変色していた。強力な毒を使っているようだ。
なんて奴らだ。味方を囮に確実に俺を殺しに来てやがる。俺は眉間にしわを寄せてアーチャーどもを睨み付けた。
だが、アーチャーどもはそんな俺の睨みに怯む事なく、次の斉射のために矢をつがえている。まったく、魔物の連中には心がないって事はよく分かるぜ。
そうとなれば俺も遠慮はしねえ。俺は立ち上がると、集中して剣を構える。
次の瞬間、俺はアーチャーどもの目の前まで移動していた。味方ですら囮にするような下劣な連中に、頭に血が昇ってしまったのか、リミッターが外れたようだ。体の中の血が湧きたつような感覚に陥っている。
「ギギッ!?」
ゴブリンアーチャーどもが慌てて俺に矢を向けるが、その矢が放たれる事はなかった。
ゴブリンアーチャーどもは、俺の剣によってすべてが一掃されていたのだ。そのままギロリとオークアーチャーどもも睨み付ける俺。
「ブモォ?!」
俺の鋭い視線に、ようやくオークアーチャーどもも怯んだ。弓を構える手が震えている。
だが、今の俺にそんな隙を見せてただで済むと思うなよ?
次の瞬間、オークたちの持っていた弓は、その手ごと地面へと落ちていた。すべて俺が斬り落としたのだ。
これで完全に無力化できた。そうなるともうオークどもは狩られるしかなく、俺が受け持った分の魔物はあっけなく全滅したのだった。
「ほう、さすがは我が見込んだ伴侶だな」
ドラゴニルはそんな事を言っている。ドラゴニルの周りには相変わらず凶暴な魔物どもが群がっていて、そんな事をしている余裕はないはずである。
「ふはははははっ! 我が伴侶の獲物を奪ってはならぬと手加減しておったが、これで本気で戦えるな!」
ちょっと待て。これだけ圧倒的な力を見せておきながら、まだ本気じゃないとか。本当にお前はどんだけの力を持っているんだよ。思わず心の中で突っ込まずにはいられなかった。
「光栄に思え! 我が力によって眠れる事をな!」
それはもう、一方的な蹂躙劇だった。
それなりに凶悪と呼ばれる魔物たちが、まるで紙切れのように舞い上がっているのだから。一体俺は何を見せられているのだろうか。
「ふん、我を倒したければ、もっと強い魔物を集めてくるのだな!」
最後の魔物が派手に舞い上がって、大きな音を立てて地面へと叩きつけられていた。マジかよ、この公爵は……。
だが、ドラゴニルの快進撃はここで終わる事はなかった。
「さて、いい加減に出てきたらどうなのだ?」
ドラゴニルが誰も居ない森の方へと呼び掛けている。
「古来より我がフェイダン公爵家と敵対関係にあるお前くらいしか、こんな事をする愚か者は思いつかぬぞ」
煽るように言い放つドラゴニル。だが、その言葉に答える者は居なかった。
「ふん、逃げたか。まあいい、これでこの辺りの魔物はかなり削れたはずだからな。この規模の魔物を準備するとなると相当の時間がかかる」
そう言いながら、ドラゴニルは俺の方へと近付いてきた。
「アリスよ、大丈夫だったか?」
「は、はい。平気です」
ドラゴニルの問い掛けに答える俺だが、かなり無理をしていた。
「噓はいかんな。急激に力を使った後だし、気が緩んで立っているのが精一杯ではないか」
ドラゴニルはそう言うと、血の付いた剣を一振りして鞘に納めると、俺を抱きかかえていた。
「ひゃっ?!」
ちょっと待て。この声どこから出たよ?!
思わず自分の口から飛び出た言葉に驚く俺である。いよいよ俺は、女に意識が傾いてしまっているようだった。
「さあ、馬車を追いかけて安心させてやろうではないか。しっかりと掴まっていろ」
俺を抱きかかえたまま、ドラゴニルは走り始めた。馬車がどこへ行ったかも分からないというのに、迷う事なく走っている。
どのくらい走っていたのだろうか。俺は必死にドラゴニルに掴まっていて分からなかったが、どうやらドラゴニルは馬車に追いついたようである。
「おお、無事だったか、お前たち」
「はい、お二人が逃して下さったので、どうにか無事でございました」
「うむ、奴らの狙いは最初から我ら二人だけだったからな。実にいい判断だったと思うぞ」
「はっ。公爵様もお嬢様もご無事でなによりです」
「ふははははっ! あの程度の魔物など、運動にもならぬわ!」
騎士たちの問い掛けに、ドラゴニルは自信たっぷりに威張りながら答えていた。本当にこいつはドラゴンだという事を思い知らされる。人間の規格に当てはまりやしないのだ。
こうして俺たちは魔物たちの襲撃を無事に乗り越え、魔物たちを処理しに戻ってから再び公爵邸を目指したのだった。
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