第48話 魔物、第二波
「くははははっ! ぬるい、ぬるすぎる!」
襲い掛かってきた魔物の群れを、ドラゴニルが大暴れをして蹴散らしている。その様子にさすがの俺もドン引きしたぜ。
まったく何と言ったらいいのだろうか。ブレスも特殊能力もまったくものともしないドラゴニル。さすがドラゴンの血を引くとだけあって人間離れをした姿を見せていた。
それにしても、どれだけ魔物が居るんだよ。さっきのウルフやグリズリーよりも強い魔物どもが、その群れよりも多い数で押し寄せてきている。しかも、ただの魔物の大量発生とは違った雰囲気でだ。
そう感じる理由としては、動きにまとまりがあるところだな。普通は魔物同士の意思疎通なんていうのは群れで暮らす同種くらいしかできたもんじゃねえ。
だが、今居る連中は同種以外でも連携が取れている。となると、背後にはこの魔物どもを操っている奴が居ると見てほぼ間違いないってわけだ。魔物を操ってけしかけるなんて、一体何がやりてえんだかな……。
「ふん、猛毒ブレスか。ぬるいわっ!」
ドラゴニルがそんな事を言いながら、マンティコアを撃破していた。
いや、猛毒ブレスって普通死ぬぞ……。ますます人間離れした事してやがるな。俺と性別を入れ換えて男になった事で、さらに豪胆になってやがるんだろうな。俺と相打ちになった時なんて、女の状態であれだったんだしな……。
魔物相手に大暴れするドラゴニルに呆れ返る俺だが、こっちだって気を抜いていられない。
「はああっ!!」
俺が相手にしているのはオークの群れだ。ざっと見た感じで30体以上居るから、正直ぞっとする絵面だ。
オークというのは豚の頭を持つ二足歩行の魔物だ。屋敷の中にあった魔物図鑑で見させてもらったが、そこにあった挿絵の通りの筋肉自慢な豚だった。それでいて太っているので、物理攻撃が通じにくいらしい。まったくめんどくせえ。
一応魔法なる特殊な能力はあるらしいが、使える奴は限られているからな。今ここに居る面子じゃ、そんな特殊能力の持ち主は魔物しか居ないって状態だった。
だが、ドラゴニルがそんな特殊能力を無視して蹴散らしているのを見ると、正直俺も負けられないと思ってしまう。人間をやめるつもりはないが、この状況を切り抜けるには多少はやめないといけないようだからな。
屈強なる二足歩行の豚どもを相手に、俺は剣を振るう。
通常なら弾かれるような剣筋でも、少し覚醒した俺の剣はオークどもに通用していた。
(まったく、なんて数居るんだよ。この分じゃ、俺の体力がどこまでもつかだが、正直そんな事言ってられる状況じゃねえぜ……)
この魔物ども相手では騎士たちもまともに相手はできない。実質、俺とドラゴニル二人で対処しなきゃいけないってわけだ。
これだけ魔物が居ると、馬車に逃げてもらっても無事に逃げ切れるか分からねえ。結局動かせずに守りながらの対応になってしまっていた。そのために騎士たちには馬車だけでも守るように指示してあるが、正直襲われたらひとたまりもないだろうな。まったく、普段平和なのが災いしたってもんだ。
だが、幸いな事に、魔物どもは俺とドラゴニル以外には目もくれない。その事に気が付いた俺は、指示を出す。
「騎士の皆さん、馬車と馬を連れて安全な場所まで退避を。どうやら、この魔物たちの狙いは私とお父様のようです」
「し、しかし……」
俺の指示に騎士たちは戸惑っている。
まあそうだろうな。守るべき相手に、逆に守られてるんじゃ、騎士としてのプライドはずたぼろだからな。だが、正直この魔物ども相手では騎士たちは足手まといだ。だったら、逃げてもらうしかないんだよ。
「貴族たる者、民や部下を守るものです。養子とはいえ、私にもその責はあります。ですから、みなさんは安全なところへ移動して下さい。私がきちんと食い止めますから!」
オーク相手に剣を振るいながら、俺は騎士たちにお願いという体の命令を出す。
「……分かりました。お嬢様も必ず後から来て下さい」
「ええ、もちろんです。ここで死ぬ気なんて、さらさらありませんもの!」
俺はそう言いながら、オークの攻撃を剣で弾く。
俺のその奮闘を見ながら、騎士は実に苦渋の決断で戦線を離脱した。俺とドラゴニルの連れていた使用人たちと共に。
これで足枷は無くなった。だが、今の戦況は順調と言える状況になかった。
ドラゴニルは順調に数を減らしているとはいえ、俺の方は少しずつしか削れていなかったのだ。だいぶ感覚を取り戻して扱えるようになった能力だが、今の程度の能力の発揮ではこの数相手でも厳しいようだった。
(まったく、グリズリーはあんなに簡単だったっていうのに、なんだってオークはこんなに苦戦すんだよ……)
体格差もあってか、徐々にじり貧となっていく俺。このままでは、ドラゴニルを自力で殴るとか無理な話である。
(考えるんだ、こいつらを倒す方法を)
必死になる俺だったが、そんな中、思わぬ状況に見舞われてしまう事になる。
「なっ!」
突如、俺目がけて周りのオークを巻き込むように矢の雨が降ってきたのだった。
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