第47話 高揚するドラゴニル
俺は両手で剣を握ってグリズリーを相手にする。30体ほどの中で確認できるだけで14体居るグリズリー。先日の事を思えば、今の俺でも十分相手にできるだろう。状況自体はあの時と似ているからな。
ただ、見えている範囲以外にも魔物がたくさん居るらしいから、ドラゴニルが居るとはいえど油断はできねえな。
「だっりゃーっ!!」
「ぐおおおんっ!!」
ばっさばっさとグリズリーを斬り倒していく俺。走るのは速いとはいえ、攻撃自体は大振りなので結構躱すのは簡単だ。
1体、また1体とグリズリーを撃破していく。その姿に騎士たちも奮起をしており、ウルフたちと大立ち回りをしている。
この間もドラゴニルは、森の奥の方をじっと眺めている。そこにはぐれたハイウルフが襲い掛かるが、
「うるさい、犬っころ」
ドラゴニルは左の裏拳をハイウルフの顔面に叩き込んで吹き飛ばしてしまった。完全によそ見してたのに、やっぱすげえぜ。
そういうところを見せられて、俺が燃えないわけがなかった。
今までは漠然に騎士になる事しか目標に持っていなかったが、明らかな強さの指標ができたわけだからな。それに加えて、ドラゴニルをぶん殴るという目標は一応達成したものの、やはり自分の実力でぶん殴ってやりたくなったのだ。
(ははっ、体中の血が滾るのを感じるぜ。俺は、こんなところで立ち止まっているわけにはいかねえんだよ!)
新たな目標ができた俺は、これまで苦戦していたのが嘘のように身体強化と魔物を滅する力を引き出せるようになっていた。
人間というのは、目標や目的があると力を発揮しやすいのだろう。
俺の体は今までで一番軽やかに動いていた。
14体は居たはずのグリズリーをあっという間に殲滅させると、俺は騎士たちの手助けに向かった。
(体が軽いぜ。今ならどんな魔物でも倒せそうな気がする!)
「魔物たち、覚悟しなさい!」
護衛の騎士たちと交戦しているウルフたちへと切り込んでいく俺。ギリギリ20も居ないウルフどもだが、魔物との交戦経験がないと苦戦するのは仕方がないだろう。しかも数が違い過ぎるからな。
ドラゴニルが居るという事もあって、俺たちの馬車の護衛はたったの四人しか居なかったんだからな。それで5倍ほどのウルフとハイウルフの相手となれば、そりゃまともに戦えるわけがないってもんだ。それでもケガらしいケガもないあたりは、さすがはフェイダン公爵家の騎士といったところだろう。
だが、たった一人でグリズリーの群れ14体を殲滅した俺が居る以上、比較されれば情けないとしかならないのは実に可哀想なものだな。
その悲しい現実にちょっと同情しながらも、俺は騎士たちを襲うウルフどもを次々と撃破していく。それはたったわずかな時間だった。
「さ、さすがアリスお嬢様です!」
「アリスお嬢様、万歳!」
魔物たちに苦戦していた騎士たちは、もろ手を上げて俺の事を称賛してくる。だが、今はそんな事をしている場合ではなかった。
「あなたたち、気を抜きすぎです。周りにはまだ魔物が潜んでいます。お父様が警戒しておりますので、騒ぐのはおよしになりなさい!」
「はっ! こ、これは失礼致しました」
俺が注意すると、騎士たちは一斉に敬礼して騒ぐのをやめた。まったく、油断し過ぎだっての。
「お父様、そちらはいかがですか?」
騎士たちを叱責した俺は、ドラゴニルに状況の確認をする。すると、
「先発隊の全滅の早さが予想外なせいか、焦っているようだな。もっと混戦する事を想像していたのだろう。実に舐められたものだな」
実に冷静な答えが返ってきた。どうやら、敵の方が焦っているらしい。なら、俺も頑張ったかいがあるってもんだぜ。
「でしたら、どうされますか? こちらから打って出ますか?」
「いや、出方を見よう。この状況でこちらから動くのは愚策だ。引き続き我が見張っておるから、騎士や使用人たちの様子を確認しておれ」
「承知致しましたわ」
というわけで、俺は真っ先に馬車の中のレサの様子を確認する。
「お嬢様、魔物は去りましたか?」
「ええ、最初に襲ってきたものたちはすべて撃退しました。ですが、まだ油断はできません。他にも魔物が居る可能性があります。レサはこのまま馬車を見ていて下さい」
「畏まりました。ああ、どうかご無事で」
レサとの会話を終えて馬車の外へ出た時だった。
地面が急に揺れ始めたのだ。これにはさすがに馬たちも驚いて暴れている。
「来たぞ。アリスも身構えろ!」
「分かりましたわ、お父様」
どうやら本体が襲い掛かってきたようだ。さて、どんな魔物の群れがやって来るのだろうかな。俺はつい顔がにやけてしまう。
っと、これじゃただのやばい奴だな。俺は気を引き締めて魔物の襲来に備えた。
「うわああっ!!」
出現した魔物の群れに騎士たちが大声を上げる。それはもはや悲鳴だった。
だが、騎士たちが騒ぐのも無理はない。先日出くわしたグリフォンやヒポグリフだけならまだしも、まだずらずらと見た事もないようなでかい魔物どもが姿を見せたのだから。それでもドラゴニルはまだまだ余裕そうな表情を見せていた。むしろ楽しそうだった。
「ふん、マンティコアまで居るか。これは実に暴れがいがありそうだな! お前たちはこのドラゴニル・フェイダンの剣の錆となれるのだ。実に光栄な事だ、伏して喜べ!」
ドラゴニルが過去に見た事ないくらい盛り上がっていた。これではまるでただの戦闘狂じゃねえか。
俺のそんな心配をよそに、魔物どもは一斉に俺たち目がけて襲い掛かってきたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます