第44話 何が起きているのか
雄たけびを上げながら魔物どもが襲い掛かってくる。
(ハイウルフとグリズリーの組み合わせか。確かに、こんなところで出る魔物の組み合わせじゃねえな……)
意外な事に、俺は落ち着いていた。
魔物どもは俺たちに対して襲い掛かってきているが、その動きがもの凄く遅く感じられた。
「アリスお嬢様、危ない!」
「危ない? この程度の魔物でか?」
「?!」
俺の声を聞いた騎士たちの顔が青ざめている。ふん、この臆病者どもめ。
なんだろうか、3日前とはまったく違う感覚だ。
「はあああっ!!」
次の瞬間、俺は剣を振り回していた。辺りのすべてを切り裂くような横薙ぎの攻撃だった。
周りのすべての存在を巻き込むような攻撃だ。馬車も馬も騎士も、そしてレサすらも巻き込むような一撃。
ところが、結果はまったく違っていた。魔物たちはすべて真っ二つになっているというのに、それ以外のすべてはまったくもって無傷だったのだ。ただ、剣先が触れてしまった俺の真後ろの馬車に少し傷が付いたくらいである。
「な、何が起きたんだ?」
護衛をしていた騎士がきょろきょろと辺りを見回している。
「ふぅ、どこの誰だか知らねえが、よほど俺の事が邪魔なんだな……。必ず表に引きずり出して、その面ぶん殴ってやる……」
眉間にしわを寄せた険しい表情でそう呟いた俺は、ふっと意識を失ってしまった。
「お嬢様!」
そして、馬車から飛び出してきたレサによって、どうにか地面に倒れ込むのは回避できたようである。
……
「はっ!」
「お嬢様、お目覚めになりましたか?」
「ここは?」
俺が目を覚ますと、どうやら村に戻ってきたようだ。見覚えのある天井で、ここは俺が筋肉痛で寝ていた部屋だとすぐに分かった。
あの後の事はまったく覚えていないのだが、レサが言うには静かな寝息を立てて眠っていたらしい。村を出てからあまり時間が経っていない事もあって、ここは一度村に引き返したそうだ。
「びっくりしましたよ、アリスお嬢様。突然乱暴な言葉を使われていたのですから」
「あは、あはははは……」
よく分からないが、確かにあの時の俺は男の時の口調になっていた気がする。ドラゴニル相手にだって使わなくなっているというのに、どうしてあの時使っていたのだろうか。
でも、あの時の感覚はしっかり手の中に残っている。これはまるで、巻き戻る前の男の時の感覚だった。十分使いこなせているとは言えないが、ドラゴンだって倒せるくらいの俺の持つ不思議な力、それを振るっている時の感覚そのものだった。
つまり、あの時使っていたのは魔物を滅する力という事だろう。昔の俺に戻っていたからこそ、身体強化すらまだ半端にしか使えない今の体でも使いこなす事ができたんだろうな。
だが、どうして突然俺はあんな風になったのだろうか。ここまでも何度か魔物に襲われてきたというのに、こうなった事は一度もなかった。違っている点とすれば、魔物を操る奴の事を頭に思い浮かべたくらいだ。
うーん、まったく分からねえ。
というわけで、俺はもうしばらく休む事にした。あんな事があったんじゃ、今の俺にどんな変化が出ているか分からないからな。おとなしくしているに限るってもんだ。
とりあえずレサに頼んで負担の掛からない食事を用意してもらう事にした。
夕方になると調査に出ていたドラゴニルたちも戻ってきた。
「アリス、少しいいか?」
戻ってきたドラゴニルは、レサからの報告を受けたのかすぐさま俺の所へやって来た。
「どうぞ、お父様」
だいぶ良くなった俺は、ドラゴニルを部屋へと入れる。俺としても話があるわけだしな、断る理由がない。
入ってきたドラゴニルは、いつものようにピシっとした服装にキリっとした表情をしている。まったくもって普段通りだった。
「魔物に襲われたらしいな」
「はい、その通りです」
俺が堂々と質問を肯定すると、ドラゴニルは急に真剣に考え込み始めた。その理由を俺はこの時分からなかった。
「分かった。お前はしばらくこのまま休んでおけ。許可を出すまで村の外に出るのは禁止だ」
ドラゴニルはこう俺に言い渡し、反論の隙を与える事なく部屋を出ていった。あまりに急な事に、俺は反応する事もできず、そのままベッドの上で呆然としていた。
しばらく呆然としていたものの、確かに魔物に襲われたとなると安易に外に出るのは危険だと思う。
今回だって俺が急に力を発揮できたからこそなんともなかったわけだし、毎回そうなるとは限らない。ましてや種類に関係なく群れるとなればかなり危険だ。下手に動かない事はこの場合最善なのだろう。
それにしても、今回の魔物の大発生の兆候といい、意味不明な魔物の混成という、一体何が起きているというのだろうか。
前回は16歳で起きた大発生が、4年も早まって起きているというのだろうか。
俺の生まれ育った村を中心として、様々な憶測と思惑が強く渦巻いているようだった。まったく、勘弁してほしいものだぜ。
とにかく俺は、ドラゴニルに言われた通り、今回の事態が収束するまでの間、村の中でおとなしくする事にしたのだった。
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