第40話 魔物の包囲網
「ふはははははっ! その程度か、腑抜けどもめ!」
ドラゴニルがものすごく張り切って魔物をばっさばっさと斬り倒していく。普段は相当に溜まっているものがあるのか、ものすごく上機嫌だった。
あまりの勢いの良さに、一部の魔物が引いてしまっているようだ。敵だが同情するぜ。
グリフォンとかはあいつに任せておけばいいだろう。問題は俺たちの方だ。
何と言っても3人居る騎士どもの動きがめちゃくちゃだ。ドラゴニルから後で説教食らっても知らねえからな?
「みなさん、動きがおかしいです。一度落ち着いて下さい」
攻撃して棒立ちになっている騎士に、襲い掛かる別の魔物。そこを助けて俺は騎士たちに呼びかける。素人目に見てもおかしいんだよ、お前らの動きは。
3人という少人数とはいえ、魔物であるウルフどもに連携という点で劣ってしまうようでは、とても騎士とは呼べたもんじゃない。傭兵連中でもそこまでお粗末な動きはしねえぞ。
「まったく、よくそれでフェイダン公爵家の騎士を名乗れますね。あとでお父様から説教ですよ!」
俺はドレスの裾を翻しながら、襲い来るウルフを斬り捨てると、騎士たちを叱りつけた。近くに立っておかげで、ようやくこうやって声を掛ける事ができたのだ。
俺のような小娘にここまで言われて奮起できないようなら、こいつらは騎士として失格だ。ただの囮にしかなりゃしない。できて斥侯や偵察兵といったところだろう。公爵であるドラゴニルが居る場でこの失態だ。俺はどうなったって知らないからな。
「私が先頭に立ちます。あなたたちは私の背後を守って下さい!」
4人で四方への動きに対応する背中合わせの陣形だ。周りにはまだウルフが居る以上、この状況で逃げる事など考えられないはずだ。
「私と共に、フェイダン公爵家の騎士として名を残すか、それとも裏切り者として死ぬか、ここで選んで下さい!」
俺は叫んだ。簡単に言うと「さあ、見せてみろよ。お前たちの騎士としての誇りをな!」という事である。さすがにこの言葉には、騎士たちも歯を食いしばったようだった。
さて、戦況は相変わらず厳しい。
俺がかなり動いた事で警戒していたウルフどもも、いよいよ俺たちが攻めてこない事にしびれを切らしたようだ。
「ガウッ!!」
ウルフとハイウルフの群れが襲い掛かってくる。
最初見た時は13匹で、5体は斬ったから残り8体のはずだが、どういうわけか数が増えている。俺たちが話をしている間に仲間を呼んだようだ。魔物の方が上手じゃねえかよ。
「なんて事ですか。数が増えていますね」
俺は驚きを隠しきれなかった。
だが、すでに飛び掛かられている状態では悠長に話をしていられなかった。
「ギャンッ!!」
俺は素早く対応してハイウルフを斬り捨てる。背中側に居る連中もなんとか対応している。だが、この騎士連中の攻撃は浅い。ウルフの攻撃を弾くだけで、斬る事はできていなかった。明らかな実戦不足なのだろうか。
だが、あまり心配しているわけにもいかなかった。
「まったく、細かく飛んできますね。また数が増えていますし!」
そう、倒しても倒しても、まったくが数が減らない。ウルフは新たに仲間を呼んでいたのだ。どっからこんなに出てくるんだよ、おい!
あまりにしつこく仲間を呼んでくるので、さすがに俺もぶち切れ寸前だった。
「お嬢様、さすがに数が多すぎます!」
最初から及び腰な騎士たちはもう音を上げてしまっている。
だが、俺はまだ諦めていない。ウルフどもの群れは俺の手でどうにかしなければならないと思っているからだ。
これだけ延々と魔物が出現している上に、思いの外隙のない攻撃を仕掛けてくる。こうなると考えられる事は一つだ。
”この戦いを指揮するリーダーが居る”
これしかない。でなければ、これ程統制の取れた攻撃を仕掛けられないだろう。倒せてはいるものの、攻撃は絶え間がないし、しれっと新たなウルフを呼び出している。
だが、ウルフどもはどいつも遠吠えをしているような様子はない。だが、現に援軍がぞくぞくと出てくるのだから、指揮しているリーダー格のウルフが居るはずである。
しばらく観察を続けた結果、
「見つけました。あなたがこの群れのリーダーです!」
俺はついにそのリーダーを見つける。
その魔物はハイウルフではなくてただのウルフだった。そんな弱い魔物のくせにこの群れを統率していたとは、まったくもって予想外だった。
リーダー格のウルフは吠えて仲間を呼ぶが、もう遅い!
「素晴らしい連携でしたが、あまり動かない事がかえって仇になりましたね!」
「ギャイーン!」
リーダー格のウルフは、あえなく俺の剣で真っ二つになってしまったのだった。
俺の攻撃によってリーダーを失ったウルフの群れは、途端に連携がずたずたになってしまった。それでも20体は超えるウルフとハイウルフの群れなのだ。ドラゴニルの方だって、楽に倒しているものの相手にしている魔物の数が多い。俺たちはまだまだ危険な状態なのである。
まったく、一体ここで何が起きているというんだ。疑問は尽きないのだが、とにかく現状を片付ける事に集中する俺たちだった。
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