第39話 実戦開始!
周りからぞろぞろとやって来る魔物たち。そこには俺が過去対峙した事があるウルフやハイウルフまでもが混じっていた。
見渡す限りの魔物の群れ。その数はこの人数で対応するのは厳しそうな数だった。これは間違いなく、魔物の大発生が起きていると見ていい状況だった。
よく見てみれば、さっきのグリフォンとよく似た魔物も混じっている。よく見ると脚の形が違っている。
「ほう、ヒポグリフまで居るのか。これは戦いがいがありそうだな」
その魔物を見てドラゴニルは手をぽきぽきと鳴らしている。こいつ、元々は女だったんだよな?!
グリフォンとヒポグリフの違いは、胴体部分だ。獅子ならグリフォン、馬ならヒポグリフという事らしい。
何にしても、凶悪そうな魔物が村からそう遠くない場所に存在しているという事実がそこにある。余裕のあるドラゴニルに対して、俺は歯を食いしばって身構えていた。
「ほら、アリス。これを持て」
「わっとっとっ。これは?」
「騎士の使う剣だ。本物の金属製の剣は初めてか?」
鞘に入った状態とはいえ、そんなものを少女に向けて投げるんじゃねえよ。この腐れドラゴンが!
心の中で文句を言う俺だが、剣はちゃんと問題なく受け取ったぜ。少しお手玉したがな!
「初めてというわけではないですよ。この体でも扱った事はありますからね」
俺は剣をベルトで体に固定する。そして、背中に剣を背負った状態にしたところで、俺は鞘から剣を抜いて構えた。
俺が剣を構えた姿を見て、ドラゴニルはまたにやにやと笑っている。やめろ、気持ち悪いんだよ。
だが、そんな俺たちのやり取りを魔物どもが待ってくれるわけもなく、さらに集まり続けた結果、その魔物どもが一斉に俺たちに襲い掛かってきた。
「はははっ、血が滾るな! アリス、準備はよいな?」
「準備してる暇はねえよ!」
この状況で余裕の態度のドラゴニルに、俺はつい男モードの言葉遣いで言葉を返してしまう。
「こうなっては、破れかぶれです。日頃の身体強化の特訓の成果、見せてあげますよ!」
自分の口走った言葉に驚いて、どうにか冷静になれた俺。剣を構えて魔物へと狙いを定める。
幸い、面倒な魔物に関してはドラゴニルが引き受けてくれるようだ。となれば、俺は連れの騎士たちと一緒にウルフやハイウルフを相手にする事になりそうだ。
「みなさん、強い魔物はお父様が引き付けてくれます。私たちはウルフなどの弱い魔物に対処しましょう」
「は、はい、承知致しました!」
俺の言葉に返事をする騎士たち。
俺の言った通り、グリフォンやヒポグリフ、ビッグボアなどはドラゴニルが引き受けてくれている。だが、一人で20体以上の魔物をまともに相手できるのだろうか。正直いって俺には想像もつかない話だった。
そんな不安をよそに、ドラゴニルはロングソードを構えている。ちょっと待て、さっきグリフォンを倒した剣と違う剣だぞ?!
「ふはははははっ! 魔物どもめ、我が双剣の錆となるがよいわっ!」
そう叫びながら、ドラゴニルは左右に剣を持って振り回しているではないか。両利きかよ、こいつ。
立ち向かうドラゴニル相手に、グリフォンとヒポグリフによる協力技が繰り出される。特にグリフォンは怒っているように見えるので、おそらくは先ほどの個体の番なのだろう。
「ぬるいっ! ぬるすぎるわっ!」
だが、ドラゴニルにとってその程度の風はそよ風も同然だった。剣を振り回して風を切り裂いていた。いやいや、マジかよ……。
あっという間にグリフォンとヒポグリフを両手の剣であっさりと沈黙させる。強すぎねえか?
こうなってくると俺も負けられない。せっかく中でも弱い魔物ばかりを回してくれてるんだ。そう思った俺は、剣を両手でしっかりと握って、目の前に回ってきたウルフたちを睨み付けた。
「お父様に負けていられません。フェイダン公爵家の者として、私たちの力を見せてあげましょう!」
「お、おおっ!!」
俺の掛け声に鼓舞する騎士たち。
俺たちと対峙するのは、全部で13匹居るウルフとハイウルフの群れだ。こちらは俺と騎士が3人という少数精鋭状態だ。ドラゴニルが20体以上を引き受けてくれている以上、この人数でこの数相手に後れを取るわけにはいかなかった。
(落ち着け、俺。この前みたいな失敗は許されないぞ。男の時に使った力の感覚を思い出せ)
俺は深呼吸をする。
ルイスと訓練した時とは違って、今はかなり落ち着いている。これなら5歳の時にウルフを倒した時の力をうまく引き出せるはず!
「やああっ!」
「アリスお嬢様?!」
ウルフに向かって先陣を切ったのは俺だった。だって、どいつもこいつも身構えるばかりで戦いやしないんだからさ。こうなったら俺が行くしかないだろう?
「くそっ! アリスお嬢様に続け!」
「おおーっ」
すると騎士たちも突撃を開始した。
おい、もっと考えて動けよ。お前ら騎士だろうが、無策に動くなよな。
突っ込みたいところだが、すでに戦闘が始まってしまって声を掛ける余裕などなかった。こうなったらどうにか援護するしかねえな。
こうして、なんともちぐはぐな魔物との戦闘が始まったのだ。俺たちは無事に魔物を討伐できるんだろうかな。
……はあ、なんとも先が思いやられるもんだぜ。
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