第37話 見た目は変われど中身は変わらず
3年ぶりに戻った村は砦と化していた。
周りはごつい石組みの壁に覆われ、近くを流れる川にはご丁寧に跳ね橋まで架けられていた。壁の上には登れるようになっているし、もう村という言い方をしていい状態ではなかった。
あまりの村の変貌ぶりに、俺は馬車の中から覗きながら口をパクパクとさせている。
「ふははははっ! どうだ、立派になったであろう?」
俺の驚く顔を見ながら、ドラゴニルが自慢げに話し掛けてくる。あまりの事に、俺はまったく声が出なくなっていた。
男だった頃の村は、子どもの頃の状態のままのどこにでもありそうなのどかな村だった。
それがどうだろうか。今俺たちが馬車で入っていった村は、中身こそ確かに村なのだが、外周の壁の他にも石造りの建物がちょくちょくと見られるようになっていた。どうしてこうなった?!
「対魔物の最前線だ。このくらいの設備になって当然だろう? だが、村人の生活もあまり壊したくはないがために、これでもだいぶ遠慮はしたのだぞ?」
にやついた表情のまま俺を見てくるドラゴニル。もうどう反応していいのか分からなくて、俺は無反応に黙り込んでいた。
「そうかそうか、声も出ぬほど嬉しいか。ふははははははっ!」
大声で笑うドラゴニル。どうしてそういう解釈になるんだよ。
この妙な空気のまま、馬車は村長の家の隣に建てられた指揮官の家にたどり着く。ルイスの兄であるケイルが使っている家である。
「これはドラゴニル様、ようこそおいで下さいました」
「うむ、出迎えご苦労」
「アリスお嬢様も、お久しぶりでございます」
「あ、はい。お久しぶりです」
ケイルが出てきて直々に俺たちを出迎える。そして、そのまま村長の家に向かった。
ドラゴニルと俺の訪問に、先発隊から聞いていたはずの村長は驚きの表情でもって出迎えていた。聞いていたはずだよな?
いろいろと突っ込みたい気持ちを抑えて、俺たちは村長の家の中に入っていった。
村長の家に入った俺たちは、魔物との戦いの現状を村長とケイルから聞き出していた。
話によれば、魔物の位置自体はまだ村から遠い状態だが、その目撃数は確実に増えていたらしい。騎士と村人で警邏しているのだが、遭遇しない方が珍しい状態になりつつあるのだとか。それって既に魔物の大量発生している状態ではないだろうか。
しかし、魔物と遭遇しても戦闘になる事がなく、魔物はすぐに逃げて行ってしまっている。つまり、同じ魔物に同じように遭遇している可能性があるので、大量発生しているとは言い難いようだ。
そこで、ドラゴニルはケイルに言って、村の周辺の地図を出してきてもらう。そこに魔物の目撃場所を示していく。
すると、面白いように魔物の目撃地点が集中していた。
「ふむ、川向こうが一番多いようだな」
ドラゴニルが言う通り、村から川を挟んだ方向にある地域が一番目撃数が多かった。これは、5歳の時に俺がウルフに襲われた時とも共通する。あの時は川の向こう側からはぐれたウルフがやって来たのだ。
ついでに、その後の9歳の時のハイウルフの群れ。これも実は川からそう遠くない場所だった。そうなると、魔物の発生する地点は川の向こう側にあると考えるのが自然だろう。
「ここまで疑いの強い場所というのもそうあるまい。明日にでも我が直に調査してやろうではないか」
「ど、ドラゴニル様が自らでございますか?!」
ドラゴニルがいきなりそんな事を言うものだから、ケイルがもの凄く驚いている。そりゃ公爵自ら危険な場所に出向くって言うんだもんな。驚くなっていう方が無理だ。
「無論だ。ここは我の領地ぞ? 領地の心配をするのは領主として当然であろうが。なあ、アリス?」
突然、俺に話を振ってくるドラゴニル。どうしてそこで俺に話を振るんだよ!
ドラゴニルは俺を見ながらにやにやと笑っている。くっそ、腹が立つな。
「え、ええ。私も領主の娘として同じ意見でございます。それに、ここは私の生まれ育った村。どうして私に見捨てる事ができますでしょうか」
「はっはっはっ、アリスも参戦する気満々か。我もそこまでは望んでおらなんだが、騎士を目指すのであるなら、当然よなあ?」
ちくしょう、嵌められたぜ。
流れ的には俺もこう言うべきだろうなと思わされちまったじゃねえか。なんて巧みな罠なんだ。
むかむかとするが、俺はどうにか気を取り直す。
「え、ええ。騎士たる者に二言はございません」
俺はもうやけくそとばかりに言い切った。
「くっくっくっ。アリス、初めての実地訓練だ。心して掛かるようにな」
「はい、分かりましたわ」
ドラゴニルの言葉に、俺は力強くしっかりと返事をした。
「ならば、今日は夕食までの間、両親と会ってこい。故郷に帰った時くらい顔を見せてやれ」
「そうさせて頂きます」
俺はそっと村長の家を出ていく。
その後、俺は夕食のタイミングで騎士が呼びに来るまで、両親とお互いにこれまでの事を話し合った。この時の両親の泣きそうな顔はものすごく印象深かった。それだけ心配していたんだろうなと思わされた。
この両親のためにも、少しでも魔物の脅威を削いでおきたい。俺は明日からの現地調査に、決意を新たにしたのだった。
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