第30話 ドラゴニルと国王
王都を訪れたドラゴニル。手紙によれば王家主導の下、学園を開校する予定らしい。というわけで、ドラゴニルは一路城へと向かっていった。
「ふむ、久しいな、王都も」
ドラゴニルは王都の景色を眺めながら、昔に思いを馳せていた。どうやら王都には来た事があるようだ。
さすが一国の首都とあって、賑わいはフェイダン公爵領の比ではない。街の一角には露店が立ち並び、人の往来も多い。これでこそ王都というものである。
だが、この程度の光景で怯むようなドラゴニルではなかった。それどころか、ドラゴニルの関心はこの一点に絞られていた。
(さて、我の伴侶にふさわしい環境か、見極めてやろうではないか)
そう、すべてはアリスのためであった。
王城の門までやって来たドラゴニル。普通ならここで止められそうなものだが、
「フェイダン公爵殿、よく参られました!」
門番はそう言って、ピシッと構えてスルーだった。馬車に付けられたフェイダン公爵家の紋章だけで通してしまったのである。フェイダン公爵家にはそれだけの権力があるという事なのだ。
(くっくっくっ、これでもドラゴニスだった時には改められたものだがな……。この国の男女での扱いの違いというのは、本当に反吐が出るというものだ)
逆行する前の事を思い出し、ドラゴニルは不機嫌になっていた。
そして、城の入口に着くと、馬車を降りて中へと入っていく。
向かったのは国王の部屋だった。迷う事なく真っすぐに向かっていくドラゴニル。すれ違う使用人や兵士たちは、ドラゴニルに対して黙って頭を下げている。これも女の時には見た事のない光景ばかりである。
(まったく下らぬ。こうして見ていると、改めてこの国の男女間の格差というものを認識させられるな……)
現実を見せられたドラゴニルは、ますます不機嫌になっていくのだった。
「王よ、失礼する」
バーンと扉を開け放つドラゴニル。国王相手だから少しは自重してもらいたいものだ。
「おお、フェイダン公爵。手紙は読んでもらえたかね?」
「読んだからこそ、こうやってやって来たのではないですか」
国王の問い掛けに、仏頂面で返すドラゴニルである。普通なら不敬と取られそうな態度だが、ドラゴニルだから仕方ないという雰囲気すら漂っていた。
「時に、騎士の養成学園の進捗はいかほどなのかな?」
単刀直入に話を聞きにかかるドラゴニル。国王の方はにこりと微笑んでいた。
「うむ、大方は準備が終わっている。学園に使う建物自体は寄付してもらっておるから、今は改修工事の真っ只中だ。予定通り、来年の開校を目指しているところだ」
「して、講師陣の方はどうなっておるのかな?」
「それは現役騎士から候補を絞っておるところだ。騎士として有能でも、後進を育てる事に有能とは限らんから、そこが苦労する点ではあるがな」
国王も随分と考えて物事を進めているようである。今までの男性優先というわけでもなさそうだった。
「そうか。それは期待できそうだな」
ドラゴニルはにやりと笑う。その表情を見た国王は、その意図がよく分からなかった。
「ずいぶんと嬉しそうだな、フェイダン公爵」
「うむ、我が義理の娘であるアリスと、その友人であるブレア・クロウラーがその騎士の養成学園に興味を示しておるからな。となると、娘の身を案じたくなるのは当然であろう?」
ドラゴニルの反応に、国王は一瞬真顔になる。そして、急に笑い始めた。
「くくくっ、フェイダン公爵もずいぶんと娘には甘いようだな。貴族社会で恐れられている人物とは、とてもではないが思えぬわ。わっはっはっはっはっ!」
国王が笑うのも無理はない。この国の中でも、フェイダン公爵は冷徹冷淡と言われるくらいに厳しい人柄で知られているのだから。そんな人物が娘の事を案じているとなると、それはもうギャップに笑いたくなってくるのである。
しかし、ドラゴニルもそんな事は百も承知で、笑う国王を無視して話を進めていく。
「それと、具体的な育成方針も決めているのか? ただ鍛えればいいというわけでもないだろうに」
「うむ、それもそうだな。騎士とする以上は、卒業までには武勲のひとつでも立ててもらいたいものだが、難しいだろうな」
「大部分はそのまま王国の騎士団に引き上げるのが目的。そういう事でいいのかな?」
「まあ、そんなところだな。最近は魔物の被害が増えていると聞く。そのような状況では騎士団ですべてを背負い込むのにも限界があるというものだ」
「なるほど、それで学園を作るとなったのか。納得がいく話だな」
ドラゴニルが突っ込んだ話をすると、国王も真剣にそれに対応をしている。
(アリスがアルスだった時に魔物の大発生を経験しているらしいからな。それが近いうちに起こるという事だろう。これはゆっくりとはしておれんな)
ドラゴニルは真剣に考えていた。そして、
「分かった。この件、我が領からも人を出そう」
「それは助かるが、フェイダン公爵の領内はどうするのだ?」
急な提案をするドラゴニルに、国王は心配の声を掛けている。
「心配するな。我が領はそんなにやわな場所ではないからな。それよりも、国の臣下として国を支えられぬ方が問題であろう?」
「まあ、確かにそうではあるが……。フェイダン公爵がそういうのであれば、私からはもう何も言うまい」
あれよあれよという間に、国王との間で話がついてしまった。
こうして、翌年に控えた騎士の養成学園の設立は急ピッチで準備が整えられていったのである。
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