第29話 多分きっと運命の朝食
翌朝の朝食の席だった。
「お父様」
「何かな、アリス」
俺は早速ドラゴニルに声を掛けた。
「王都に騎士の養成学園ができるらしいというお話を聞きました。これは事実なのでしょうか」
ブレアを疑うわけではないが、俺は公爵たるドラゴニルにあえてその話をぶつけてみた。ドラゴニルならしっかりとした情報を持っているだろうと踏んだからだ。
するとどうした事だろうか。ドラゴニルが珍しく渋い顔をしているではないか。見た事のない様子に、ついつい俺は首を傾げてしまう。
「……どこでそれを聞いたのだ? いや、確かに我の元にもそういう話は来ているのだがな」
「ブレア様です。ブレア様も騎士を目指していらっしゃるので、小耳に挟まれたらしいですわ」
ドラゴニルの質問に、俺はしっかりはっきり答える。すると、どういうわけかブレアの両親がおろおろとしている。あれ、これってまさかやっちゃった感じか?
俺が驚いて周りをきょろきょろと見ていると、ドラゴニルが俺の方をじっと睨むように見てきた。
「アリスは、騎士になりたいのか?」
真剣な表情で俺に問い掛けるドラゴニル。その瞳はまるで凍てつきそうなくらいな鋭さを持っている。今までに見た事のないドラゴニルの顔だった。
だが、俺はこの程度で負けるつもりはない。俺は今世でも騎士になるつもりなんだからな。
「はい、そのために鍛錬を積んできているのです。今さらやめろだなんて言われても、私は諦めるつもりはありません!」
俺も負けじと真剣な表情でドラゴニルを見る。そのせいで、和やかなはずの朝食の場は、殺伐とした雰囲気に包まれてしまっていた。ブレアの両親にいたっては震え上がってしまっている。
しばらく続いた俺とドラゴニルの睨み合いだったが、それは突然終わりを告げる。
「ぶわっはっはっはっ! そうかそうか、それでこそ我が選んだ女だ。よかろう、手続きはしておいてやるから通いたければ通え」
ドラゴニルは上機嫌になって、俺が騎士の養成学園に通う事を許可してくれた。
「だが、クロウラー伯爵、学園は13になってからじゃないと入れないらしいな」
「はい、学園への入学条件は13歳以上の男女。3~5年間の勉学を通じて晴れて騎士になれるというものでございます。最近になって、王国が急ごしらえで設立する学園がゆえに、詳細はこれ以上は分かりませぬ」
ドラゴニルの問い掛けに、クロウラー伯爵は冷や汗を流しながら答えていた。
ふむ、13歳以上で最低でも3年か……。これなら最短で卒業できれば、16歳の時のスタンピードには間に合うな。
話を聞いていた俺は、黙々とこれから先の事を思い描いていた。この公爵邸に来てからいろいろ勉強させられた成果が、こうやってしっかりと現れているという事である。
俺がいろいろと考えている間、ドラゴニルは今度はブレアに視線を向けていた。ドラゴニルに視線を向けられたブレアは、「ひっ」と小さな声で悲鳴を上げていた。直前に俺に向けていたあの視線の影響だろうな、きっと。
「ブレア・クロウラーよ」
「は、はいぃっ!」
ドラゴニルが声を掛けただけで、ブレアはシャキッと背筋を伸ばして大きな声で返事をしていた。怖がり過ぎである。
「我のアリスが貴公を気に入っているようだからな、学園に入った時にはよろしく頼むぞ」
「は、はい。この命に代えましても」
ドラゴニルの言葉に、ものすごく重い返事をするブレア。命賭けなくていいからな?!
ところが、このブレアの返答に、ドラゴニルはものすごく満足したのか、大声で笑っていた。
「ふはははははっ! いい返事だ。だが、命は粗末にするでないぞ」
「はいっ!」
ドラゴニルがツッコミを入れると、ブレアはやっぱり元気に返事をしていた。
「クロウラー伯爵よ、昨日の件、了承したと伝えておこう」
「そ、そうでございますか。フェイダン公爵様がお力添えをして下さるのなら、きっといい学園になると思いますですぞ」
緊張しまくっているのか、言葉遣いがどこか怪しくなっているクロウラー伯爵である。
この会話を聞くに、ドラゴニルもこの騎士の養成学園にも一枚はかみそうである。ドラゴニルが関わったとなると、一体どんな学園になるのか想像がつかねえぜ。
とまあ、いろいろと緊張した場面もあったが、無事に朝食は終わった。
「アリス様、昨日は本当にありがとうございました。いい経験ができましたわ」
「喜んで頂けたのならなによりです。それと、学園、楽しみですね」
「はい、楽しみで仕方ありませんわ」
俺たちは笑顔を見せながら会話をしている。その様子を見て、ドラゴニルもクロウラー伯爵夫妻も、とても満足そうな顔をしていた。
「それではアリス。我は王都まで出向いてくるから、しっかりと留守番をしているようにな」
「……? 何をしに行かれるのですか?」
俺はきょとんとして首を傾げている。
「無論、養成学園についてだ。騎士を目指す者を生半可に鍛えさせるわけにはいかぬ。存分に我が関わってくれようぞ」
「やめて下さい。あまり厳しくしすぎますと、みんな剣を置いてしまいますよ?」
「むぅ、それはいかんな……」
俺の指摘に、ドラゴニルが困った顔を見せていた。実に珍しい表情だ。
しかし、この釘刺しは絶対に必要だ。なにせドラゴニルはドラゴンだ。いくらか妥協させなければ、ドラゴン目線で無茶苦茶な事をやらされかねない。そうなったら騎士を育てるどころが、人間を壊しかねないからな。
こうして話を終えると、ブレアたちクロウラー伯爵一家は自分の領地へ、ドラゴニルは王都へ向かって出発していったのだった。
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