第24話 帰郷の場
ドラゴニルと俺が村の中に入ると、なんとも言えない雰囲気となっていた。
「領主様だ」
「領主様が来られたぞ」
「横のは誰だ?」
「分からんが、見た事がある気がするぞ」
ざわつく村人たち。着飾っているせいか、俺だと認識できないようだった。
「諸君、村人を村長の家の前に集めてくれないか? 我から重大発表がある」
ドラゴニルがざわつく村人にこう言い放つと、驚きながら村人たちは村中へと駆け出した。これが領主の力か。
しばらくすると、村長の家の前に村人たちが集合していた。思ってたより人数が居るな。その集まった人だかりの中には、俺の両親もちゃんと混ざっていた。元気そうな姿を見れて安心したぜ。
どこから用意したのか、丈夫な木箱の上に上がって、ドラゴニルは村人たちをひと通り見回す。その姿に、村人たちはごくりと息を飲んでいた。
「諸君、よくぞ我の話のために集まってくれた。いきなり不安にさせる事ですまないが、最近、この辺りで魔物の気配が増えている」
ドラゴニルがこう言うと、村人たちがざわざわと騒ぎ出す。そりゃなあ、魔物の脅威が迫っているとなれば騒ぐのも無理はない。4年前にははぐれたウルフ、先日にはハイウルフの群れ、不安になるに決まっている。だが、ドラゴニルはその様子を見ても、冷静に話を続けた。
「それに伴い、我が領内ではこの村を対魔物の最前線とする事となった。我が保有する軍備をこの村に投入する。それに伴って兵士も投入するが、食料に関して村が困らないようには対処するから安心してほしい。もちろん、この村に投入する兵士にもよく言い聞かせておく」
村人のざわめきは止まらない。
「我にはこの村を害するつもりはない。もしそういう兵士が居たのなら、我の送り込む側近に伝えてくれ。その愚か者を処罰してやろう」
この時にしたドラゴニルの顔に、村人たちは一斉に騒ぐのをやめた。その表情に恐怖を感じたからである。逆らってはいけない、それが村人たちの共通認識となった瞬間だった。
その時の村人たちの表情を見たドラゴニルは、どこか安心したような顔を見せた。
「心配するな。もう一度言うが、我はこの村を害するつもりはない。その理由がこれだ」
「わっ!」
ドラゴニルは台の上から俺の脇を抱え上げる。そして、自分の隣にちょこんと立たせた。
「あ、アリス!?」
その瞬間、親父が叫んでいた。さすがに俺をちゃんと見抜くあたり凄いな。その声を聞いたドラゴニルは不意に笑っていた。
「この娘はアリス・フェイダン。先程叫んだ男とその隣の女の子どもだ。先日、正式に我の養女となった。将来的には我の妻となる予定だ」
この宣言には、村人たちが一斉に驚きの声を上げた。平民どころかたかが村人が、公爵の妻になるとかいう話なのだ。貴族だって大声で驚くような話なのだから、村人ならなおさらだった。
「あ、あの子、あのアリスなのかい?!」
「ひえー、あんなにきれいになるだなんて、思いもしなかった」
俺が困惑している横で、ドラゴニルは村人たちの反応に満足げである。
「そういうわけだ。妻になる人間の出身地なのだから、我がぞんざいに扱うわけがなかろう。皆の者は安心して今まで通りに暮らしてくれればよい」
ドラゴニルが最後にそう言って笑うと、村人たちの中には歓迎の声が上がっていた。
そんな中、ドラゴニルは俺にこっそりこう言ってきた。
「せっかく村に戻ってきたんだ。両親と少し話をしてこい」
「いいのですか?」
「構わん。いくら我とて血のつながりは疎かにはせんよ。それに、今日ここで村を離れたら、お前は当分の間戻って来れなくなる。心残りのないように気の済むまで話してこい」
「分かりました。配慮に感謝します」
俺は貴族令嬢っぽく振る舞うと、ぴょんと台から飛び降りて両親の元へと駆けていった。
「ふむ、あれがアリスの両親、ジャンとソニアか。なるほどな、アリスのような者が生まれるというのも、納得のいく話だ」
この時、ドラゴニルが呟いた言葉を聞き逃したのは痛かった。ドラゴニルは俺の両親を見ただけで、何かを感じ取っていたようなのだ。だが、それ以上は何も言わず、村人たちに囲まれて質問攻めになっていたようだった。
「アリス、本当にアリスなのね」
お袋は俺の姿を見て涙を流しそうになって言葉を詰まらせていた。本当は抱き締めたいのだろうけれども、俺の服を見て我慢したようである。貴族の服を汚したとあってはどんな目に遭うのか分からないのが世間の常識だからだ。
俺としてはそんな事は気にせずに抱き締めて欲しかったんだが、ちょっと寂しく思ってしまった。
「アリス、先程の領主様の言葉は本当なのか?」
親父も親父で俺に確認を取ってくる。それに対して、俺はこくりと頷いた。
「そうか……。アリスも納得しているのなら、俺たちから言う事は、……何もないな」
どうやら親父は、俺が嫌がっているのなら領主相手でも取り返すつもりでいたようだ。ふふっ、泣かせてくれるじゃねえかよ。
「パパ、ママ。私は二人の元は離れても、二人の娘だから。私は大丈夫、心配しないで」
俺はそう言って、両親を安心させていた。そして、ドラゴニルが呼びに来るまで、俺は久しぶりの両親との会話を心ゆくまで楽しんだのだった。
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