第23話 村へ
翌日、食堂で朝食を取る俺は、ドラゴニルから意外な言葉を掛けられた。
「アリス、お前の出身の村に向かうぞ」
「はい?」
それは本当に唐突だった。あれから実に20日以上が経っている。そのタイミングでのまさかの里帰りだった。
「どういうつもりなんですか。なんで今頃になって?」
俺は取り乱してドラゴニルを問い質す。だが、ドラゴニルはまったく動じる事はなく、しっかりと俺の方を見ていた。
「だからだ。かなり日数が経ってしまっているし、近しい連中にもお前の事を紹介した。お前の村は今後の魔物対策で重要な拠点だから挨拶はせねばならんし、我が伴侶かつ娘となるアリスの事を説明せねばならんだろう。このままでは我はただの人さらいだ。納得してもらわねば、領主として失格だ」
まったくもって真剣な表情で説明してくるドラゴニル。なまじ教養を身に付け始めた俺は、すっかりその言い分に何も言い返せなくなってしまった。理解できてしまうのが恐ろしい。確かにその通りなのだ。
「分かりました。ご一緒致します」
それゆえに、俺は了承した。
俺がなぜ少女らしく喋っているかというと、周りに使用人たちがたくさん居るからだ。俺とドラゴニルの二人だけだっていうのに、なんで8人も立ってるんだよ。俺の中身が男だと知っているのはドラゴニルだけなので、素をさらすわけにはいかなかったというわけだ。ちゃんとそういう使い分けくらいはできるんだよ。
まあ、そういうどうでもいい話はさておき、俺は食事を終えると外出用の服に着替えさせられた。貴族の服って、用途ごとに種類あるんだな。改めて恐ろしい話だぜ。
家の中では装飾多めの服装なんだが、外出用になるとそれがほとんどなくなる、よく見ると襟元と袖口くらいにしか残っていない。ワンピース型のドレスである事には変わりないんだがな。
後は肌の露出が極端に減るのも特徴だな。お披露目の時に穿いていた足全体を覆う服、それを今回も穿かされたし。タイツって呼んでたっけか。まあ名前はどうでもいいや。というわけで、今の俺の地肌が露出してるのは首から上だけ。手には手袋だぜ。つくづく貴族令嬢ってのは大変なものだ。村に居た頃だと獣の皮をつなぎ合わせたつなぎのワンピースみたいなのと、腰回りを布でぐるぐるに巻いただけの格好だったからな。
「お待たせしました。え……と、おと、お、お父様」
「うむ、そこまで待っていないが、……なんだ、そう呼ばれるとなんだかむず痒いな」
一応建前上は、俺はドラゴニルの養女、つまり義理の娘という立場になっている。なので、人前ではこう呼ばなければならなかった。しかし、なんだ……。いざ呼ぶとなると恥ずかしいな。多分、今の俺は顔が真っ赤になっていると思う。
ところが、目の前ではドラゴニルも負けじと顔が真っ赤だった。ふんだっ、これが少女の破壊力ってやつだよな!
とまあ、こんな感じに親子みたいな事をしながら、俺たちは馬車へと乗り込んだ。
ドラゴニルの屋敷から俺の住んでいた村までは、馬でまるまる日中を費やしてしまうほどの距離だ。馬車となればその3倍近くは掛かる。何と言っても道がそんなに良くないからだ。さすがにこれほどガタガタと揺れてしまっては、馬車慣れしていない俺が無事でいられるわけもなかった。
「うっぷ……」
完全に酔ってしまったらしい。俺は青ざめながら手で口を押さえていた。
最初の当たりからもうかなりの頻度で酔っているので、さすがのドラゴニルも顔をしかめている。
「馬車には慣れていないとしても、ちょっと酔い過ぎだな。能力を使えと言いたいところだが、その状態では厳しいようだな。……ちょっと待っていろ」
見かねたドラゴニルは、青ざめている俺に近付いて背中に手を触れた。
「ぬうんっ!」
気合いを一発入れて俺に向けて何かを使っていた。
するとどうだろうか、あまりの馬車酔いに酷かった俺の状態がどんどんと回復していっているじゃないか。さっきまでの苦しさが嘘のように楽になった。
「これは……」
「回復魔法だ。これがあるから我らドラゴンは不死身だとも言われたりする。とりあえずアリスよ、ここからは身体強化を使って自分でなんとかしろ」
「分かった。えと……ありがとう」
俺が情けなさに恥ずかしがりながらそう言うと、ドラゴニルはニコッと笑って馬車へと戻っていった。そして、俺は身体強化を使ってから馬車へと戻っていった。ちなみにさっきの回復魔法と同時に、ドレスの汚れまできれいにしていやがった。くそっ、なんて有能な奴なんだ……。
俺が馬車に酔いまくるという不測の事態こそあったが、3日という時間を掛けて無事に俺の生まれた村へとたどり着いた。
俺がドラゴニルにかっさらわれてから、すでに20日以上の日数が経っているが、村人たちは今の俺を見てどういった反応をするのだろうか。そして、何より俺が気がかりなのは自分の両親の事だ。今の俺が頑張っている背景には、病死してしまう両親を助けるという事もあるのだからな。
村の外で馬車が止まり、俺たちはそこで馬車から降りて歩いて村へと近付いていく。
俺にとっては緊張の一瞬だ。
早くなる鼓動を感じながら、俺は久しぶりに村へと姿を現したのだった。
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