第22話 パーティーの後で
「はあ~~~……、疲れたぜ」
お披露目会が終わった俺は、ドレスのまま自室のベッドに倒れ込んだ。さっさとこんなひらひらした服など脱ぎ捨てたいのだが、服の構造が分からないので脱げなくて困った。仕方ないので、かかとの高い靴だけ脱いで倒れ込んでいた。
俺がこれだけ疲れている理由としてはいろいろあった。
まずは何と言ってもあの会場の雰囲気だった。フェイダン公爵家の知り合いばかりでそんなに人数は居なかったが、俺に向けられる視線の冷たさと言ったらありゃしない。小娘ごときがって言ってる気がするくらい酷かった。あれだ、ドラゴニルの奴は実際に強いし、顔も整っている。女性からの人気は高いんだろうな……。って、俺は一体何を考えているんだ?!
……こほん、2つ目としては俺がベッドに転がる際に脱ぎ捨てた靴だ。踵が高い上に支えが不安定なものだから、ずっと能力を使って体を安定させようとしていたからな。おかげで無駄に体力を使ったってもんだ。こんな不安定な靴を履いてるとか、女とか大変だな。
3つ目としては着ている服だな。今までは騎士時代も含めて、こんな質のいい服なんて着た事がない。女の服装自体が俺にとっちゃ初めてだらけで、気疲れするばかりだ。特にこんな足をすっぽり覆う服なんて穿いた事ないぜ。
俺がため息を吐きながらベッドでゴロゴロとしていると、部屋の扉が不意に叩かれる。誰が来たのかと気になった俺は、ふと体を起こしていた。
「どなたでしょうか」
外へ対して問い掛ける俺。サウラの教育もあってか、俺はベッドの上だがちゃんと座った状態で発言している。
「アリスお嬢様。お着替えをお持ちしました」
どうやら侍女の声のようだ。やっとこのめんどくさい服から逃れられる。ちょっと嬉しくなった俺は侍女たちを部屋へと迎え入れた。
「失礼致します。私、本日ご指名より配属となりました、アリスお嬢様の専属侍女のレサと申します。よろしくお願い致します」
「はい、よろしくお願いします」
きれいな動きで頭を下げてくるレサに、ついつい俺もつられて頭を下げてしまう。
そういえば、パーティー前まではメイドがころころと変わっていた気がする。サウラの勉強が厳しくてそっちにあまり興味が向いてなかったからな。はっきり言ってあまり覚えてないぜ。
「お召し物を替えさせて頂きますので、失礼致します」
レサはそう言って、連れてきた数名の侍女と共に俺を取り囲む。ずっと一人で着替えてきたので、こうやって取り囲まれて着替えるというのは、いまだに慣れないものだ。とりあえず俺は突っ立っていれば服を着替えさせてもらえるというこの状況に、なんとか慣れなければならなかった。
そうやって着替えさせられた服は、やっぱりひらひらとした服装だった。ただ、さっきまでのドレスはおろか、普段着のドレスよりも装飾の少ないものだ。
「えっと……、これは?」
「寝間着でございます。お嬢様はお疲れでしょうから、早く寝かせるようにと旦那様から仰せつかっておりますゆえ、この服をご用意致しました」
「あっ、そうなのですね」
よく見ると、パンツスタイルの服装だった。貴族ってのは寝る時は寝る時用の服を持ってるんだな。ずっと1枚の服を着通しだった村人時代とは大違いだった。
それにしても、このレサたちは慣れているのかものすごく着替えさせるのが早かった。俺が不慣れな状況に目を回しかけているうちに、もうドレスを全部脱がせて寝間着に着替えさせていたんだからな。侍女ってすげえ……。
「それではアリス様、お休みなさいませ。私たち使用人一同、アリス様を歓迎させて頂きます」
俺の着替えを終えたレサたちは、最後にそう言って頭を深々と下げて部屋を出ていった。その間、俺は固まったままレサたちを見送るしかなかった。ちなみに俺の足元は、ふかふかなスリッパになっていた。こんな靴もあるんだな。
「ふわあ……」
不意にあくびが出た俺は、仕方なくベッドに再び向かう。そして、もぞもぞとシーツに潜り込んだ。
(はあ、これで俺も正式に公爵令嬢か。まったく、俺が貴族令嬢とか、まったく想像できないってんだよな……)
半分顔を隠すようにシーツをかぶっている俺。お披露目会までされたというのに、正直言ってまったく実感が湧かないというものだ。
(まあ、受け入れちまったからにはやるしかねえよな……。てか、両親にはどう説明したものか……)
ドラゴニルの家に養女となった今でも、やっぱり俺の頭からは両親の事が離れなかった。何と言ってもやっぱり実の両親だからな。一度の人生の際には両方とも病気で亡くしているし、今回は長生きしてもらいたいものだ。
「ふわああああ……。だめだこりゃ、もう寝ちまおう」
さっきより大きなあくびが出た事で、俺はもう考えるのをやめて完全に横になった。
とにかく今生では、俺は立派な騎士になるし、両親も助けて長生きしてもらうんだ……。あまりの眠さに意識が遠のく中でも独り言のように呟く俺だったが、さすがに9歳の体ではその眠気に勝てるわけもなく、あっさりとまどろみの中へと落ちていった。
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