第10話 父親への直談判
お袋を説得した事で、俺はどうにか体を鍛える行動が取れるようになった。とはいえ、次の段階としては親父にも認めてもらわなければならない。
だが、ここで俺は思い悩んだ。
(親父ってどんな仕事してたんだっけか?)
そう、親父がしていた仕事の内容がまったく思い出せないのだ。多分、今も同じ仕事をしているんだろうが、基本的には朝出ていって日暮れくらいに帰ってきているという事しか分からない。一度目の時の事はまあいいんだ。問題は現時点の仕事が分からないという事である。何か道具を持っているというわけでもないし、本当に何をしているのだろうか。
そこで、俺はお袋に親父の仕事について聞いてみる事にした。
「ねえ、ママ」
「何かしら、アリス」
俺が声を掛けると、台所作業の手を止めて返事をしてくれる。
「パパって、どんなお仕事してるんだっけ?」
俺が聞くと、お袋はものすごく驚いた顔をしている。これってもしかして聞いちゃいけないヤツなのか? それとも単純に知らなかった事に驚いているのだろうか?
「アリス……、知らなかったの?!」
あ、単純に知らなかった事に驚いただけのようだ。聞いて事ないし、言ってもこないから知らねえよ。俺は心の中ででそう言い返しておいた。
ところが、お袋の様子はどうもおかしい。完全に手が止まって何か悩んでいるようである。どうしたというのだろうか。
俺が首を傾げながらお袋の様子を見ていると、お袋は覚悟を決めたように俺の顔をしっかりと見てきた。
「……そうね。あなたも9歳になったし、物事はしっかりと受け止められるようになっているはずよね」
俺の顔を見ながら、確かめるように独り言を言うお袋。俺は首を傾げるだけではなく、ついつい眉をひそめてしまう。お袋がここまで悩むとは、一体親父はどんな仕事をしているというのだろうか。こうなってくるとむしろ聞くのが怖くなってくるくらいだぜ。だが、ここはあえて覚悟を決めて話を聞く事にする。俺の将来に関わる可能性が高いからだ。
「パパの仕事は自警団よ」
……はい?
俺は耳を疑った。お袋から告げられた親父の仕事は自警団だった。話を詳しく聞けば村の自警団らしい。どうやら原因は俺が5歳の時にウルフや怪しい変態どもに襲われた事が原因だったようだ。その結果が、娘である俺を守るという決意となって、自警団に入ったらしいのだ。おいおい、本当かよ。
驚く事は多いのだが、俺はとにかくお袋の話を黙って聞いていた。最後まで聞いた俺は、親父の努力に泣きそうになっていた。ってか俺、こんなに涙もろかったっけか?
「ちょっと、アリス。一体どうしたのよ」
「だって、パパが私のために頑張ってくれてるんだもの。だったら、私だってパパのために頑張らなくちゃいけないんだ」
困惑するお袋を目の前に、俺はそんな事を話していた。俺が涙を堪えながら喋っているものだから、お袋はものすごく困惑している。だが、改めて俺が両親に大事にされていると思うと、どうしても泣けてきてしまうのだ。ダメだ、もう堪え切れねえ……。
泣きわめく俺の姿に困惑したお袋は、結局黙って俺を抱き締めたのだった。
……
その日の日が暮れた後だった。
「戻ったぞ」
親父が戻ってきた。
「お帰り、パパ」
まだ目が赤く腫れてはいるものの、俺はできる限りの笑顔で親父を出迎える。だが、親父の方も俺の目の状態に気が付いたのか、俺の顔を見るなりぎょっとして目を見開いていた。
「アリス、その目はどうしたんだい?」
案の定、目の事を尋ねられてしまった。
「えへへ、内緒」
俺は笑ってごまかしておく。
親父は訝しんで俺の顔を見ているが、ここで詰め寄るのは良くないと思ったのか、その場では何も言わなかった。
だが、いざ夕食が始まると、親父はしっかりと追及してきたのだった。
「アリス、なんで目が腫れていたんだい?」
さっきとは違って、声の調子が重い。怒っている雰囲気すら感じるくらいだ。
でも、今度は俺もとぼけるつもりはない。お袋も居るんだし、せっかくだからここは正直に俺の気持ちを吐露しておきたい。
俺は真面目な顔をして親父を見る。その眼差しに親父も何かを感じたらしく、まじめな顔をして俺を見つめてきた。
「パパ、私、騎士になりたいの」
「ダメだ」
俺がはっきりと告げると、親父は即却下してきた。早えな、おい。
「お前は女だ。そんな危険な事はさせられない」
親父の却下理由はやっぱりそこか。だが、俺だって退けない理由があるんだ。
「私は守られるだけなのは嫌なの。みんなを守りたいの!」
「ダメだ!」
俺が強くそう言っても、親父はやっぱり却下してくる。俺だってその気が分からなくはない。俺だって娘そんな事を言い出したら、即却下する自信がある。
「パパの意地悪! パパは私を守りたいって言ってるくせに、私がパパを守るのはダメっていうの? そんなパパ、二度と口を利いてあげないから!」
娘としての武器を最大限に使う俺。本当に女に染まって気がするぜ……。
ところが、俺のこの言葉は親父に対して効果は絶大だった。ものすごくショックを受けている。
「ソニア……、アリスが反抗期だ……」
お袋に泣きつく親父である。これが子どもという存在なのか。自分でやっておきながらえげつないと思った俺だった。
「まあまあ、あなた。頭ごなしに言う前に、アリスの言い分を聞いてあげなさい」
「ソニア、お前もアリスの味方なのか……」
お袋にまでこう言われてしまい、心底立ち直れなさそうな状態の親父である。その情けない姿に、俺はまったくもって言葉を失ったのだった。
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