第11話 外は危険がいっぱい

 結局親父をどうにか説得したものの、許してくれたのは体を鍛える事だけだった。やっぱり騎士団は危険だからやめてほしいようだ。こうなると、魔物とまともに戦える事を示さない限り無理だな。俺もそこまで聞き分けの悪い方じゃないので、そこは妥協したのだった。

 それにしても、村の外に木の実や山菜を採りに行くのでも、今では自警団の護衛がついてないと無理というのは正直驚いた。やっぱりあの時のはぐれウルフの一件が尾を引いているんだな。

 これを知ったのは、珍しくお袋が俺を誘って山菜取りに行った時だった。お袋が俺を連れていってもいいと判断したのは、俺の能力と決意を知ったからだ。俺にしてみれば、村の外へと出ていけるようになったのは進歩だと思う。

 だが、その一方でどこか落ち着かない様子を見せている気がして仕方がなかった。さすがにこのお袋の心理について、俺は推し量る事はできなかった。


 俺たちの住む村はかなりの田舎であり、村の周りを森に囲まれているような場所だった。それがゆえに木の実や山菜などはかなり豊富で、村から数100歩も行けばかなりの量を確保できるようにある。その中には川が流れていって、村で使う水はその川から汲み、また魚を釣り上げる事も出来た。

 こういった環境が整っている村がために、野生動物はおろか、それなりに魔物も出現する事がある。あの時のはぐれウルフなんかもそういった類のものだった。だからこそ、村にはそれなりの規模の自警団なんかが存在するんだ。まあ、俺みたいな特殊能力持ちが居ないんで、対処できる魔物の範囲は限られるんだがな。それでも、そんな自警団たちでもどうにかなるくらいには、村の周辺の魔物の強さは大した事はなかった。

 ただ、最近はちょっと気になる点があった。まあ、親父からの話ではあるものの、魔物の出現数が増えてきているらしい。そのせいで人数が割けないらしく、今回俺とお袋について来ている自警団は一人だけだった。居ないよりましだが、なんとも心許ないものだ。まあ、いよいよとなれば俺の出番だろうがな。


 それはともかくとして、自警団の警備一人が見張りに就く中、俺たちは山菜や木の実を摘み取っていく。今日の気候は穏やかだ。

 だが、そんな中で俺はひしひしと何か違和感のようなものを感じ取っていた。これは4年前のはぐれウルフの襲撃を受けた時のような、妙に皮膚を切り裂くような感覚である。


(妙な魔力の流れが感じらえる……。杞憂ならいいんだがな)


 お袋が隣居る状態がために、俺の緊張感はどんどんと高まっていく。

 一度目の人生の魔物との戦いで身に付けた能力だが、こうも敏感では生活に支障が出ちまうんだな。まったくお袋とこうやってのんびりしてられるのが嬉しいってのに、邪魔してくれるんじゃねえぜ。

 ところがどっこい、俺のそんな願いもむなしく、どんどんと怪しい気配が俺たちの方へと近付いてきていた。

 一度目の人生では、16歳の時に魔物の氾濫が起きて自警団が壊滅していたからな。そういう事を思えば、こういう事が起きてもおかしくはないのだろう。にしても、なんで今起きるんだよ。


「アリス? どうしたの?」


 お袋がそう言って俺の方を見た時だった。


「ガアアアアッ!!」


「うわああっ?!」


 魔物が突如として姿を現し、俺たちの警護としてついてきた自警団のおっさんが腰を抜かして倒れていた。おいおい、何のために来たんだよ、お前は……。


「こいつは、ハイウルフか」


 自警団のおっさんの事はさておき、俺は魔物を確認する。4年前に俺を襲ったウルフよりも体毛がごわごわとしているのが特徴なので、上位種のハイウルフに違いなかった。


「アリス、逃げなさい。ここは親である私が……」


 お袋は自分が犠牲になって俺を逃がそうとしている。だが、こいつにはそういうのは通用しない。明らかに弱そうなやつから確実に襲うような奴だ。多分自警団のおっさんが最初に犠牲になる。その上こいつの足は速い。逃げたらむしろ状況を悪化させる。最悪村に入り込む事になりかねない。ウルフは1匹見たら10匹は最低でも居るんだからな。


「ママ、こいつからは決して逃げられないよ。倒すか殺されるかのどっちかしかないよ」


「そ、そんな……」


 俺の言葉に、お袋の表情が絶望に染まる。

 俺はなんとかしようとして、まずは身体強化を掛ける。そこで次に目に入ったのが、自警団のおっさんだ。腰には剣をぶら下げている。なまくらかも知れないが無いよりマシだ。


「おじさん、剣借りるね!」


「えっ?!」


 俺の言葉に自警団のおっさんが驚いている。

 だが、そんな様子に構う事なく、俺はおっさんの腰から剣を抜き取ると、すぐさまハイウルフに向き合った。ハイウルフは警戒して睨み続けていたので、お袋もどうにか無事である。


「アオーーーーンッ!!」


 ハイウルフが雄たけびを上げると、仲間であろうハイウルフたちが集まってきた。


「ちっ、20匹くらい居やがる……」


 俺はつい騎士の頃の口調で呟いてしまう。だが、緊迫したこの状況でそれを気にする者など誰も居なかった。なにせ、斥侯の1匹の呼び掛けに応じて集まってきたハイウルフは、言葉の通り、実に20匹は居たのだから。

 さすがにこの数では、守りながらハイウルフのすべてを相手にするのは無理がある。まったく、何だってこんなにハイウルフが村の近くでうろついてやがるんだ。


 緊迫した状況が続く中、いよいよハイウルフどもが俺たちへと襲い掛かって来る。しかも一斉にだ。お袋も自警団のおっさんももう終わりだと思って目を閉じてしまう。

 ただ一人、俺だけが真逆の事を考えていた。


(はっ、一気に襲い掛かってきてくれたのは、こっちとしては好都合なんだよ!)


 俺は4年前と普段の特訓の感覚を思い出しながら、剣を構えてハイウルフの群れを迎え撃つ。


(さあ、久々に剣を振るう感覚はどんなものかな?)


 俺は、剣を握る手に力を込め、深く腰を落とすのだった。

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