第7話 両親と言えない事情
賊を引き渡しに行った村人が帰ってくるまで、引き続き俺は家の中に閉じ込められる日々が続いていた。本当にうちの親は過保護なものだ。男の時は好き勝手させてもらえたというのに、女だとこうも対応が違うのかと驚かされる。
まっ、家に引きこもってたって鍛えようと思えば鍛えられるんで、好きにやらせてもらうんだがな。手伝いって言ってもいっつもじゃないし、家の中だけだから時間自体は余ってるんだよな。だからこそ、俺は騎士を目指すべく体を鍛える事も始めたんだ。
何日経っただろうか。ようやく領主の元まで行っていた村人たちが帰ってきた。俺も家の中から確認させてもらったが、その顔は何とも青ざめたような感じだった。何があったのだろうか。
ものすごく気になるというのに、親父もお袋も俺が外へ出る事は頑なに許可してくれなかった。俺は不満たっぷりに頬を膨らませた顔で睨むが、それでも両親の態度は変わらなかったのだった。
「いいから、アリスはおとなしくしていなさい」
「はーい……」
親父があまりにも強く言ってくるので、俺は仕方なくそれに従うしかなかった。本当にどうしてここまで頑なに俺を閉じ込めるんだか。
「俺は報告を聞きに行ってくるから、ソニアはアリスと一緒に留守番を頼んだぞ」
「分かったわ、ジャン」
親父はそう言って家を出ていった。結局、俺はお袋とおとなしく留守番だった。
しばらくすると、親父が帰ってきた。その表情は何か信じられないものでも見聞きしたように焦燥しきっている。
「ジャン、どうしたの?」
お袋が親父の様子を見て問い掛けている。だが、親父はそれにすぐ答える事ができないくらいに気が動転しているようだった。
「パパ、どうしたの?」
可愛い娘らしく俺も親父に声を掛ける。すると、ようやく親父は我に返ったように俺たちへと視線を向けていた。
それでも親父の表情は困惑したままであり、一生懸命に呼吸を整え始めていた。それほどまでに衝撃的な事が、出向いた先で待ち受けていたという事なのだろう。
ものすごく気になるところなのだが、俺たちは親父の呼吸がきちんと整うまで待ち続けた。
しばらく待ち続けていると、ようやく親父の呼吸が整った。そこで俺たちは改めて親父に問い掛けてみる。すると、親父は深呼吸を数回繰り返す。そして、ようやく話し始めようとするが、
「いや、アリス。ちょっと大事な話があるから自分の部屋に行っててくれ」
「えっ、どうして?」
親父は何を思ったのか、俺に席を外すように言ってきたのだ。さすがに俺は親父に食い下がる。
「すまないな、こればかりは子どもには早い話なんだ。アリス、いい子だから部屋に戻ってなさい」
「やだ、私も聞きたい!」
冗談じゃない。気になって夜も眠れなくなっちまうじゃないか。
「頼むから言う事を聞いてくれ。これは大人が解決しなきゃいけない事なんだ」
ここまでごねても親父は引かなかった。ここまで意志が固いとなると、俺もさすがに無理やり聞き出すのは可哀想になってきた。
「うう、分かった。ごねてごめんなさい」
俺は折れて仕方なく自分の部屋へと戻っていった。話が聞けないのは残念だが、むしろ一人になる絶好の機会だ。俺はその間に必死に体を鍛える事にしたのだった。ただで転んでたまるかよ。
厄介払いのように自分の部屋へと引っ込んだ俺は、幼いながらにも腕立てやら木の棒の素振りやらを部屋の中で始めたのだった。外に出られないのになぜ木の棒があるのか? それはベッドの転落防止柵をちょちょっと外して手に入れたからだ。使い終わったらちゃんと戻しておくさ。なにせ今は赤ん坊じゃねえから、そういう柵は必要ないからって外してある。だからといって、遊ばせるのはもったいないからな。こうやって役に立ててやってんだよ。
それにしても、親父とお袋の話は長いものだ。隠れてやっている日課の運動がすっかり終わってしまったというのに、俺はまだ一人で放置されている状態だった。一体どんな話をしてるというのだろうか。
結局、両親の話が終わったのは日が暮れてからだった。すっかり暗くなり始めて夕食の時間になってしまっていた。
その後、夕食を一緒に食べたのだが、いつもなら賑やかに話をしながらだというのに、この日ばかりはものすごく重苦しい雰囲気の中、無言で食べている。本当に何があったのか気になってしまう。
「ねえ、パパ、ママ。なんで静かなの?」
俺は無邪気なふりをして聞いてみる。
だが、それに対する両親からの返答はなかった。
「ねえってば!」
それでも俺はしつこく聞いてみる。
「アリス、気になるのは分かるが、俺たちの気も察してくれ。お前は頭のいい子だ、分かってくれるだろ?」
親父が怒鳴る事なく、静かに俺の顔を見ながらそんな事を言ってきた。お袋も同じような感じだったので、俺はすぐに察する事ができた。だが、子どもとしては全く納得がいくものではない。だが、両親がつらそうな顔をして自分を見ている姿に、俺はもう何も言えなくなってしまった。
(はあ、これはどうあがいても聞き出せないな。俺には言えない事とは気になるが、この件はもう触れるのはやめておこう)
なんだかんだ言っても俺は両親が好きだからな。その両親をこれ以上困らせるわけにいくまいと、俺は二度と親に聞く事をしなかった。
だが、この時の判断を後々に後悔する事になろうとは、俺は微塵も思わなかったのである。
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