第4話 書店員 豊平有希 03
「やっぱ有希と一緒に配信すると視聴者数ダンチだね!」
今日も放課後に夏奈とLIVE配信をしていた。
初配信からその後、視聴者の数は回重ねるごとに増えていった。
ご機嫌な夏奈。私もまんざらではなかった。
「夏奈宛のコメントめっちゃ来てたね。『マジで好きすぎて会いたい!!!』ってコメントと一緒にハピチャ飛んでたし。」
「あはは、あれはちょっとびっくりしたね。」
ハピチャの頻度もだんだん増えてきて、ちょっとしたバイト感覚だ。
次はいつやろうか、なんて話しているとスマホが鳴った。
(ポロロン♪)
「なんだろ、DMだ。…………っ!!」
届いたDMを見て私は一瞬固まる。
「有希、どしたの?」
「これ、今来たDMなんだけど…」
『今日国道沿いの書店近くを歩いてませんでした?自分、近くに住んでいるのでよかったら今度遊びましょう!』
確かに、帰り道に国道沿いの書店の前を通るのだ。
今日も夏奈の家に行くために二人でそこを歩いていた。
「…たぶん、うちの学校の誰かが捨てアカ作って送ってきてるんだよ…!」
「そう…かなぁ。うん、そうだよね…。」
「それよりさ、アイス食べに行こうよ!この前約束したじゃん?ウチおごったげるし!」
「お、いいねー。行こ行こ。」
きっと夏奈もなんとなく気を紛らわしたかったんだと思う。
アイスを食べに出かけている間、配信の話をすることはなかった。
約束通りフォーティワンのトリプルを夏奈のお財布で堪能させてもらいその日はお開きとなった。
(はぁ…。)
夏奈と別れ家に帰り一人になると、どうしても考えてしまう。自分の知らないところで自分のプライベートを知られているという状況。そんな状況に何となく嫌な感触を持ったのだけれど、あえて私は深く考えないようにした。
だが、だんだんと嫌な感触が現実になってくる。それ以降、時々知らない人から急にDMが届くようになったのだ。
(ポロロン♪)
(またか…。まぁいい。気にしない気にしない。)
さすがに少しは慣れてきた。気にしない。スルーしておしまいだ。
そう思っていたのだが、今回のは一味違った。スマホ画面にDM内容が表示される。
『〇〇高校の豊平有希さんですよね?』
(えっ…名前…。嘘…。)
一瞬で体温が下がる感覚。さらにスマホから通知音が鳴る。
(ポロロン♪)
さらにもう1通のDM。画面には『画像添付あり』の文字。私は震える指で画面をタップした。その画像は私と夏奈が並んで歩いているのを後ろから撮影した画像だった。
(っ…!)
見た瞬間、全身に悪寒が走った。
(…夏奈に連絡しなきゃ…!)
慌ててメッセージアプリを起動する。
夏奈宛に音声通話。
(prrrr…prrrr…)
「有希、どしたー?」
「あ、もしもし夏奈!あぁ、無事でよかった…!!実はね…」
私はさっき届いたDMの内容を夏奈に説明した。
それと同時に、しばらくTakTokはやめよておこうと提案する。
「うん…そだね。その方がいいよね。ごめん、私が調子に乗って有希を誘ったばかりに…」
ちがう、夏奈が悪いんじゃない。
私たち二人ともの責任だ。
「んーん、私だってはしゃいでたもん。」
「とりあえずアカウントに鍵かけて、LIVEはしばらくやめておこう」
「そうだね。明日学校でみんなにも説明しよう」
翌日、投稿した私と夏奈は仲のいい友達に事情を説明した。
心配したみんなはしばらくみんなで帰ろうと言ってくれたり、
警察に相談してみたら?と提案してくれたり色々と気にかけてくれた。
なんだか少し勇気と元気が湧いてくるようだった。
幸い、あのDM以降特に何もなく、TakTokにはログインもせず通知も切っていた。
しばらくは画像に映っていた書店の前も避けるようにしていたのだけれど夏奈や友達と歩くことで無理やり嫌な記憶を上書きしていった。
(もう大丈夫だよね。)
そう自分に言い聞かせて、少しずつ元の日常に戻っていった。
―――戻ったはずだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます