第3話 書店員 豊平有希 02
有希、こっち座って!」
「はいはい」
テーブルの上にスマホを置いてTakTokを起動する。
「じゃあ始めるよー。フィルターこれでいいよね?」
「うん、いいよ」
顔の輪郭が一回り小さくなり、目が大きくなる。
顔色も発色がよくなり中々の別人具合である。
「こんだけ加工されてたらメイクする動画の意味あるの?」
「いーのいーの!初めてだし、気負わずにゆるーくやれる方が気楽でしょ?」
そんなもんかねぇ。
配信が開始すると、さっそく何人かの視聴者が参加したようだ。
「お!Fumiさんやっほー!アキくんも来てくれた!いらっしゃーい!」
私も何か喋った方がいいのだろうか。
ぽかーんとしながら座ってるだけだけど…。
っていうか夏奈、慣れてるな。昨日初めての人間とは思えない。意外と適応力が高いのか。
なんてあれこれ考えてたら夏奈が私に話を振ってくれた。
「実はねー今日は学校一の美少女を連れてきているのだよ~!」
こら!何を勝手に!
「ちょ、…か…秋奈!」
「まーじでめっちゃ可愛いからね。今日は昨日買ったリップを開封して試してみるよーん」
配信中の名前は、夏奈が秋奈。私は未希。
全然面影がない名前だととっさに言えないだろうとのことで少しだけ本名に近い名前にした。
「うちのバイト先でも売ってて、気になってたんだよねーこのリップ。
ピンク系の色はいくつか持ってるんだけど、ばっちり赤!って感じの色はもってなかったからさー」
そんな感じで配信をすること20分ぐらい。
気づいたら視聴者は200人を超えていた。これは多いのか?
「うっわ!ってか視聴者数ヤバっ!みんな来てくれてありがとう!」
配信画面には視聴者からのコメントが表示されているのだけれど
『え、二人ともかわいいんだけど』『もっと近く寄って!』『セミロングの子の声も聴きたい!』
などなど様々なコメントがあふれていた。
そんなコメントを眺めていると、強調表示されたコメントと共に画面上にクラッカーの演出が流れる。
「わぁー!(Take)タケさん…であってるかな!?300ハピチャありがとー!!!」
なるほど、これが噂のハッピーチャットか。
…よし、私もちょっとだけ頑張ってみよう。ふぅ……。
「…あ、ありがとー!」
ごめん夏奈。私意外とこういうの苦手なのかも。
なんか、めっちゃぎこちない。
「未希、緊張してる??可愛いなぁ~。ねーみんな??」
夏奈がからかうような口調で言うと、コメントも呼応する。
『かわいー!』『ってか声いいね』『もっとしゃべって~』
「いや、だって初めてだし。あーもうなんか暑い…。お茶飲まして」
そんなこんなで結局1時間ほど配信をしたのだった。
「有希!すごいよ!昨日の陽菜との配信は視聴者50人ぐらいだったのに、今日は300人も来てくれた!ハピチャも結構な額飛んできてたし…!!」
興奮冷めやらぬといった様子で夏奈が教えてくれた。
「私はなんか疲れたよ~。はぁー緊張した。」
でもまぁ、確かに今まで味わったことのない感覚だった。
また気が向いたらやってもいいかな。
「ありがとね!有希!今度アイスおごるから!」
「よーし、フォーティワン。約束ね。」
「任せなさい!トリプルでも余裕だから!」
ラムレーズンと、ポッピングシャワーと…なんて考えつつ
暗くなるまで夏奈の部屋でおしゃべりしてその日はバイバイした。
その後も時々夏奈とはLIVE配信をするようになり、私も少しは喋ったりコメントに反応できるようになってきた。配信すれば時々ハピチャも投げてもらえたりもした。
けど、私たちは甘かった。いや、配信自体はそこそこ好評だったんだろうと思う。
そっちじゃなくて所謂ネットリテラシーというやつだ。
学校から帰ってそのまま配信するってことは当然服装は制服である。
これがまずかった。
ずーっと後になって店長から聞いた話だけれど、インターネット上に制服姿や行動範囲を予測できるような情報を載せるのはめちゃくちゃ危ないことだと言われた。
自分がアップしている動画や、フォロワーの友達の動画から国内のどの地域に住んでいるのか特定できてしまう。そこに制服という情報が加わるとかなり狭い範囲まで個人が特定できてしまうのだそうだ。
―――その日も、夏奈とLIVE配信をしていた。
1か月ぐらい定期的に配信をしているとだんだんとフォロワーも増えていき、視聴者は500人を超えるようになっていた。
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