第3話


「私ね、小学生の時、私を殺したひと本人と会ったことがあるの。」

やさしい彼は否定も肯定もしない。

「学校の帰り道、スーパーボールっていうボウリング場があってね、ストライブのYシャツを来た、その殺人鬼に会ってしまって、怖くて怖くて駆け出して逃げたの。」

「そいつはお前になんかしたのか?」

「ううん。追いかけても来なかった。」

「そうか。」

「それから、また、そのひとに会うんじゃないかと思って、しばらく学校に行けなかった。」

「親には話したの?」

「言ってない、言ってはいけない気がしたの。」


「なぁ、ミカ、まだおかしな記憶に支配されてんのか?」

「グレープフルーツってさぁ、誰がライバルだと思う?」

「質問に質問で返って来たか。」

彼はゴソゴソと何かを探している。

「ねぇ、答え言っていい?」

真面目にかまってくれない彼の態度に焦れてくる。

「どうぞ、お薬どこだ、ミカ」

「日向夏。」私は自信満々の笑みを浮かべる。私って賢い。

「リスパどこだ?」

「日向夏って、初夏しか出ないでしょ、値段も高い。白いふかふかの所、バカみたい。」

「そうか、ほら、見つけた。ミカちゃんお薬飲んで。」

「ふかふか、ふかふか、バカみたい。」ケラケラ笑う私に彼は水と薬を差し出した。



「なぁ、ミカ前から言おうと思っていたんだけど。」

一拍置いて彼が言い難そうに口を開いた。

「俺以外の男と寝て、自分の気持ちが安定するのか?」

「俺だけじゃだめなのか?」

彼はさみしそうに言った。

「俺はそのままのミカが好きだし、力になりたいとも思ってる。」

「でもな。」そこまで言って彼は言い淀んだ。


彼は私がセックス依存症だと知っている。危うい綱渡りのような毎日の中、男に抱かれている時だけが現実のように思う。そのことも熟知していているためか、諦めているのか、容認されている。

「日向夏もグレープフルーツもミカが好きなら、俺いつでも調達してくるよ。」

フルーツを食べない彼は言った。


彼は私を抱きしめてくれた。抱きしめる腕の強さが彼の悲しさと切なさを物語っていた。

「もう一度抱いて。」

私はどこかでこのひとに見限られるのが嫌なんだと思った。



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