第43話

「…うーん、そんなに私がいい?」


「はい。とても」


「結婚なんて紙切れだよ?」


「はい。それから、僕は、書道家は辞めようかと考えてて」


「そうなの?」


「躑躅家の跡取りというのが、僕には不釣り合いでした。だから、家のことは、もうしたくなくて」


「え?」


「後継になるのは辞めます」


「…んなこと、できるの?」


「わかりませんが。でも、僕…武道の方が好きかもしれなくて…なんか、ずっと…書道をしないといけないというプレッシャーが…」


私は思わず抱きついていた。


「零、話してくれてありがとう」


たくさんの文字、どれも上手だけれど、どれも失敗だった。その度に、散らかす。この散らかしは、零の心の中だったのかな。


「え、さっちゃん?泣いてるんですか?」


「泣いてない」


「どうしたんです?」


「泣いてないからこのままにして」


「…はい」


安心したのもあって、涙が止まらない。

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