第16話 世界を超えた因縁

雨笠一刀流道場にて、沈黙の葬儀が行われた。


私はその時のことをよく覚えてないけど、後から聞いた話だと顔がぐしゃぐしゃに濡れていたらしい。


それからというもの、どこか虚な顔で稽古に励むこともしなくなった。


何か足りない。

どこかすっぽりと穴が空いたような、そんな感覚。


ただ、それが何なのかは理解していた。

でも眼を背けていた。


そんな生活を続けてはや3年。


彼女はふと、部屋の隅に置いてある写真を手に取った。


埃はまったくかぶっていない。

毎日丁寧に掃除しているのが見て取れるぐらいには綺麗に整理されていた。


「私、もう高校卒業したんです。」


写真に向かって、震えた声で彼女は言った。


「泣き虫も、卒業、したんですよ…?」


そんな言葉とは裏腹に、視界が涙でぼやけていく。


「お兄ちゃんの声が、聴きたいんです…」


そう、切実につぶやいた。

もしその願いが叶うならば…

残りの寿命を全部捧げたって構わないとさえ思う。


彼女、剣城 優は写真を元の場所に戻し、涙を拭いた。


「そろそろ、行きますね。」


部屋の明かりが消えた。









◆◇ーーー









「なあ、リシア…ここどこだ?」

「分からない…次元の歪みに吸い込まれたみたいだけど、」


世界で稀に確認される月龍が発生させた次元の歪み。

どこに繋がるのかも分かっておらず、吸い込まれた者が帰ってきたという事例がない。


そもそもとして、数100年に1度しか起きない次元の歪みに、吸い込まれる者自体少ないが、リシアとエヴァはピンポイントで次元の歪みに吸い込まれた。


「なんていうか、でけえ建物だな。」

「人も多いし、ここどこなんだろ…」


周りを確認しても、ここが何処なのか分からない。


見たことがない建物。

もしかしたらここは世界が違うのかもしれない。


「なあ、ここってどこなんだ?」


エヴァは通りかかった人達にそう聞くが…


『なんて言ってるの?あの人。』

『分からん、英語ではないと思うけど、』


会話が通じない。

そもそもとして言語が違うから理解できなかった。


「だめだ全く分からん。やっぱここアトライナじゃないんじゃないか?」

「そんなことある?」


エヴァもリシアも辺りを観察するが、文明からして違いすぎるように思える。


それに、人間以外存在していないのもおかしい。

ウラクほどでは無いにしても、獣人やら魔族やらがいるはずだ。


あまりにおかしいということで、二人はここがアトライナとは違う世界なのだろうと結論付けた。


「それにしても、どうやって元の世界に戻る?」

「月龍にお願いするしか無いが、今の魔力では呼び出せないから当分は魔力を貯める。」


龍人の中には、龍の加護という特別な証を持つ者が存在する。

エヴァはその中の一人だ。


加護を持つものは膨大な魔力を通じて龍を呼び出すことができる。

本体、というわけでは無いが分体でと龍は龍。

彼らは理の外側にいる超越者だ。


とてもではないが今の魔力では全く足りないと言っても良い。


「ただ、月龍がこの世界にやってきたら十中八九魔力が溢れた世界になるんだよな…」


そうなったらきっと、魔物が生まれる。

見た限り魔力の希薄さからみて、魔物やダンジョンなどは存在しない世界なのだろう。


そんな世界で突然魔物やダンジョンなんかが現れたら…


「それ、ただの災害じゃん…」

「だよなぁ。」


しかしそれ以外に変える方法がないからしょうがない。

そう割り切って、それまではこの世界を満喫することに決めた二人だった。


そんなリシアとエヴァに目が釘付けになる人達。


『あれコスプレ?』

『クオリティ高すぎ!』

『あれノーメイクじゃね…?』

『脚長、スタイル良すぎ。』

『小さい子もクール系で可愛い。』


果てにカメラやスマホを取り出して、写真を撮る始末。

当の本人達は何をされているのか全く状況がつかめていなかった。


「言葉が通じんな…あれ久しぶりに使うか、」


エヴァはそう言って声帯に魔力を込める。


「これで通じるようになったはずだ。」


そう言う、エヴァにリシアはきょとんとする。


「何か変わったようには思えないけど、」


リシアには、エヴァが東盟語でいつも通り喋っているように聞こえるが、実際には相手が最も得意な言語に自動的に変換される龍言語を使用していた。


因みに雨音が使っている言語も龍言語と同じ性質を持っている。


「ただ、あっちの言葉がわからんがな。」

「それ意味ないじゃん…」


呆れ顔のリシア。


「とりあえず言葉を覚えるしかない。アマネかスーザイなら何とかなったんだが、ひとまず喋ってみるか。」


そう言ってエヴァは、手頃な人に喋りかけた。


『ここがどこか分かるか?』

『あ、えと…渋谷です。』


ふむ、なんて言っているのか分からないな。

精神に直接話するという手段も取れるが、相手の精神に負荷がかかる。

人間ならば尚更だ。


どうすれば良いかと悩むエヴァ。


とりあえず人だかりを避けて、街中を探索することにした。


歩いている間に言語の習得、及び整理をする。


「もうすぐ覚えられそうだから、共有する。」

「速くない!?」


エヴァの言葉に突っ込むリシア。


エヴァは魔力を介して、リシアに送り込む。

しかし、身体に何らかの変化はあったようには思えないリシアは、とりあえず先ほどの人たちの言葉を聞いてみることにした。


「あの人達凄い可愛いし綺麗じゃね?」

「モデルさんかな、」


リシアは耳を澄ませると、ポツリとそのような言葉が聞こえる。


「本当に習得できてる…」


モデル。という言葉がよく分からないが、おおかた理解できるようになったらしい。


「まあ言葉はわかるようになったが、これからどうするか。最悪野宿でも支障は無いが…」


路上を歩きながら、どうするか思案するエヴァ。


そんな時、一人の木刀を持った少女とすれ違った。なんていうか、歩き方がどことなく既視感がある。


そんなことを思うリシアとエヴァ。


「はあ、アマネに早く会いたいな…」


そんなリシアの言葉に少女は振り返った。


「あの、今なんて…」

「だからアマネに早く会いたいって…えと、君は?」


それが、奇しくも違う世界の者同士。

リシア、エヴァと剣城 優の出会いだった。






「どうぞ、リシアさんにエヴァさん、お茶です。」

「ありがたい。」

「ありがと。」


優は自分の家にリシアとエヴァを招いた。

二人はどうやらお金がないらしく、野宿するところだったという。

優は、女の人二人を野宿なんてさせられず、一先ず家に招くことにした。


「それにしても、アマネに似てる。」


リシアは、ぽつりとそんなことを呟く。


お茶を汲む動作。

所作が、ここまでシンクロしてるのは似てるどころではない。


「あの、さっきからアマネと言っていますが、誰なんでしょうか。」


優は気になった。

まさか、そんなことはないだろうと思いながらも…聞きたくなった。


「アマネはとっても優しい子で、可愛らしい見た目だけど、雨笠一刀流っていう凄まじい剣術を使うんだ。」

「…………ほんと、ですか?」

「うん、あとは剣聖なんて呼ばれたり…え、どたの?」


涙を浮かべる優に慌てふためくリシア。


しかし、優が発した次の言葉で、涙の理由を理解した。


「私、ちゃんと名乗ってませんでしたよね。雨笠一刀流師範代ツルギアマネの妹弟子ツルギユウと申します。」


運命の悪戯か、必然、或いは因縁が…

本来、邂逅するはずのない人物との出会いを引き起こした。








「アマネって男の子だったんだ!?」


優の言葉に驚愕するリシア。

そらを聞いたエヴァもまた無言で驚いていた。


「写真見ますか?」


そう言って優はリシア達にアルバムを取り出して見せる。


「え、これで男の子は無理があるよ?」


外見がまんま雨音である。

全く変わってないと言っても良い。


「学校の男子から何度も告白されたことがあったそうです。」

「それは、業が深いな…」


そうして、優に天音について、たくさんのことを教わった二人だが、

「なんら変わらない」の一言に尽きる。

天音はどこまでも雨音だったから。


ただ、一つ気になったことがあった。


「アマネって養子だったの?」

「はい。」


この国ではアルビノ以外まずいない白銀色の髪色。

それもただの白銀ではなく、内側が空色みたいになっている地毛。

深い海のような瞳。


天使や精霊といった言葉が似合うほどの儚い可憐さを兼ね備えた美しい素顔。


そして…


「これって、龍痕じゃねえか…」


天音の幼少期、プールの側で日向ぼっこする写真。

その胸には、青い結晶のようなものがあった。


「そんなもの、どこにもないよ?」

「当たり前だ、これは龍人以外見えない!」


エヴァは、冷や汗を流す。


龍人であるエヴァはその青い結晶の意味を知っている。

転生の権能を持ち、誰よりも技術と知識を渇望した異質の龍の証。


いや、全ての龍が異質と言えば異質だが…

あの龍は特に人との関わりが深かったという。


【智龍アイラ】の龍痕だ。


何故そんなものが…


何故雨音はこのことを知らない?

例えば転生の際、記憶を失ったとか…


エヴァが見せた初めての動揺に心配になるリシア。


「まさか龍痕、というものがあったせいで…お兄ちゃんが死んでしまったんですか?」


優の問いに、エヴァは頷く。


「その可能性は高い、というか人間の身で龍痕を維持するなんて不可能なはずだ。」

「そう、ですか…通りで何をしても治らなかったわけです。」


いくら調べても現代医術では治らなかった理解不能の奇病の正体が偶然にも分かった。


とはいえ、


「でも、他の世界でお兄ちゃんが生きていて良かったです。」


そう言って満面の笑みを浮かべた優だった。








◆◇ーーー










「どこに行ったんでしょうかあの二人…」


折角リシュテインに着いたのにどこにもリシアとエヴァの姿が見当たらない。


『ここ、月龍が起こした、次元の歪みの痕跡がある…もし二人が巻き込まれてたら、消えた理由にも、納得。』


なんて冷静に分析するスーザイ。


『とりあえず、探知…してみる。』


しかしこの世界のどこにも二人の反応が無い。

次第に顔が険しくなっていくスーザイを心配する雨音。


いない…いない、どこにもいない!?


リシアとエヴァ特有の魔力に該当する存在がこの世界に存在しない。


ならば、時魔法で逆算して位置を割り出して…


「何か分かったんですか?」


スーザイの顔を見て、雨音は聞いた。


『アマネ、二人とも…違う世界にいる。』

「へ?」


予想外の回答に、変な声をあげた雨音だった。


「それ、大丈夫なんですか?」

無問題モーマンタイ。座標は、特定したから…空魔法で、エヴァたちがいる世界と、こっちの世界を、繋げる。』


ただ、それは簡単なことじゃない。

膨大な時間と魔力、それから緻密な魔法設計が必要になる。


最悪、龍の加護を持つエヴァならば月龍の分体を呼び出して帰って来れるが、その場合、その世界の生態系や地形はありえないくらい歪むことになる。


『スーは、長時間…ここで野宿しながら、魔法を完成させる。アマネは、当初の目的通り、学園に向かって。』

「分かりました。何かあったら呼んでくださいね。」

好的ハォデア。』


何事もなく上手く行ったら、三ヶ月くらいで魔法は完成させられる。


それまでにエヴァが魔力を集め終わり、月龍を呼び出したらその世界にはさまざまなことが起こるはずだ。


世界の魔力量が増えたらダンジョンが発生する。

危険なものではあるが、上手く活用すれば莫大な富にもなる。


スーザイはそこまでその世界に情があるわけでもないから、正直リシアとエヴァを無事にこの世界に戻せたらどうでもいいというのが本音だった。





スーザイと別れて、都市に向かった雨音。

圧巻されるような街並みだったが、そんなことよりもリシアたちのことが気になっていた。


「違う世界…もし、ボクがいた世界だったら、」


なんて、そんなわけないか…


そう一蹴した雨音だったが、

『もしかしたら』なんて心を弾ませたりしていた。












_____________________

後書き(世間話)


皆様、いかがお過ごしでしょうか?


最近一日が短く感じます…

なんででしょうね、、


ただでさえ、小説投稿が一週間に一回とかいうゴミに成り果ててしまったわけですけど、

新しい小説の設定を密かに練っていて更に時間を取られるバカがいるらしいんです。


そうです私です。


一日が25時間になればいいのに!


毎年短冊やクリスマスにはそんなことを書いたりしてるのですが一向に一日が25時間にならないのは何故なのでしょうか…


長々と喋りましたが、目論見は文字数稼ぎです。

姑息じゃね?って思った方、大正解です。


あ、そんな冷ややかな目で見ないでください!





本当の後書き


目標の10万字をやっと超えられました。

星とかハートとか押してくれると作者は大喜びしてモチベが上がります。

面白いと思ったらぜひぜひ!


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