第15話 救いとは

「くそが、一体どうなってやがる!」

「分からない、屋外にいたやつは全滅してる!」


屋内にいた海賊はかろうじて生き残った。

否、

生き残されたと言うべきか。

全ては情報を吐かせるために、スーザイは屋内にいる二人だけ残した。


そして、また一人殺した。


「ひいい!!!??」


近くにいた仲間が、訳も分からず死んだ。


『ねえ、こうなりたくなかったら、情報、全て、喋って。』


遠距離からの念話。

もはやその男からしたら恐怖でしかない。


男は全て喋った。

秘密なんてどうでも良い。

自分さえ生きられるのならもはやなんでも良かった。


だから、男は自分の知っていることを話し続けた。


「こ、これで全部だ!な、なあ…これで見逃してくれるんだよな!」


男はどこにいるかも分からない相手に向けて、大声で叫ぶ。


歯をガタガタと振るわせ、どこにいるかも分からない敵に命乞いをした。


結果死にはしなかった。


「助かった、のか………あ?」


男は地面に倒れる。

何かに躓いたのか、脚の方を見た。


「あ、れ…ない?」


脚が、脚が無くなっていたのだ。

それを理解した途端、猛烈な痛みに襲われる。


「くそ、ちくしょう、」


これではどのみち島から逃げられない。

死にはしなかった。

死には、しなかったのだ。


ただ、男にとってはソレは死以外の何物でもなかった。




スーザイは、珍しく怒りを露わにしていた。

地下のその光景は悪辣極まりない。

奴隷を売っていたとも聞いているが周辺の国で奴隷売買は違法である。


西方や南部で売るのなら遠すぎる。


故に、違法に誰かに売られている可能性が高い。


それにしても…

性病はもちろん疫病まで放置されている。

ツンと鼻につく臭い、人間の腐敗臭までする。


『アマネ、病気はスーがやる。怪我はアマネが治して。』


本来病気は魔法では治せない。

自然治癒や医術なら治せるがそんな暇は無い。


一般的には魔法で病気は治せないと言われている。


しかし、歴史にはこんな人物がいる。

彼、クルト=フォーゲルは300年前、世界に存在しない国ドイツから来たと言う。


彼は偶然にも時の魔法を発見した。


彼は時魔法を愛し、膨大な魔力量と途方もない魔力操作でついに対象の時間操作まで可能にした。


今考えると恐らく彼は雨音と同じ転生者だったか、流れ着いた転移者だったのか、そのどちらかだろう。



スーザイは魔法を行使する。

緻密に魔力で設計し、世界に穴を開ける動作を行う。

【時魔法 逆行】


この魔法を使えるのは自分と、今は亡き賢者クルト=フォーゲルのみ。


ただ、自分はいまだに彼に及ばない。



スーザイは当時、クルトに会う前はかなり有頂天で生意気な性格だった。


その当時に、魔法国家リシュテインが建国され、魔法国家と謳われる国がどの程度発展しているのか値踏みしようと訪れる。


最初来た時はガッカリした。


教育に優れている国だったが、教える内容はタカが知れていた。


スーザイは既に興味を失い、その国を出ようとした時だ。

クルトと出会ったのは、


一目見て、自分は彼に及ばないと理解した。


だからスーザイはクルトを超えるために、教えを乞い時魔法を教わり、その際に見下す癖を辞めろと怒られ、性格が丸くなっていった。


魔法国家リシュテインの生みの親にして賢者、

【クルト=フォーゲル】


スーザイが本心から認める数少ない魔法使いの一人だ。



余談だけれど、リシュテインは正しい発音じゃなかったってクルトは言ってたっけ…


民衆が間違えてしまったからそのままリシュテインという名前になったらしい。

確か、本当の名前はリヒテンシュタインだったはず。


なんて、スーザイは思い出に耽りながら、魔法を使い少女達を治していく。

否、戻していった。


「あ、あれ…身体が治ってる、」

「うそ、こんなことって…」


意識が戻った少女達は、困惑した。


目が覚めたら、治っていて欲しいと願っていたボロボロだった身体が、腐っていた身体が、本当に治っていた。


「スー、そちらも終わりましたか?」

『終わった。ただ、心は治せない…』


クルト先生ならば、記憶まで完璧に元の状態に戻せるけど、スーにはこれが精一杯。


「心は、ゆっくり治していくものですよ。」


雨音はそう言ってスーザイの頭を撫でた。


そんな光景を見ていた少女達はようやく、自分たちが助かったのを悟った。


『一先ず、うちに連れてく。』


そう言ってスーザイは空魔法を起動させた。





「リシュテインに着いたってのに、あの二人遅いな。」


エヴァは眼帯を取り、龍眼でスーザイの視点を覗く。


あれは、状況から察するに海賊に囚われていた少女達か…


「なあリシア、」

「なに?」

「うちの屋敷、大所帯になるぞ。」







◆◇ーーー








「とりあえず服ですね。50人分となると、結構お金がかかりますが…」


自分の貯金を崩せばなんとかなるか。

とりあえず、古着屋で服を買ってと、


『アマネ、下着も買った方が…』

「下着ですか?ボク着たことないですけど。」


あっけらかんと言う雨音の言葉に、一瞬思考が停止するスーザイ。


それから少し経って状況を整理したスーザイは言った。


『アマネ…それ、やばい。』

「え?」


スーザイが凄い剣幕で、雨音に下着を付けるよう説得する。


「で、でも…そこまで必要ですか?」


理由は分からないけれど、下着を付けるのに抵抗感があるというか、

そもそも前世では袴を穿いていたため、下着を殆ど着たことがない。


『アマネ、いつか…襲われるよ?』

「大丈夫です、襲われたら返り討ちにします!」

『そういう問題、じゃない…』


これは何を言ってもダメだとスーザイは悟った。


「後はあの子達が食べる食材を買わないとですね。消化にいいものが有ればいいのですが…」


前に王都の市場で買った鯛と鮭などの魚類があるから、

後はイトラ商会で売られている米とお茶を大量に買うことにした。


「アマネ殿とコン教授じゃないか。リシュテインに行くと聞いていたが戻ってきたのか?」


お茶の葉を探している雨音達にウォルハルクが声をかける。


「成り行きで一旦戻ってきたんですよ。あと、ユークリッドのことなんですが…」


旅行に行くために、ユークリッドにギルマスの代理を頼んだから必然的に二人の時間を奪ってしまったことに少し罪悪感がある雨音。


「そのことなんだがな、正直助かった。ユークリッドはサキュバスだろう?だから毎日となると…そのなんだ、」

「……?」

『アマネは、分からなくていい。』


どういうことかいまいち分からないけど、怒ってないなら良かった。


「それにしてもお二人は何故ここに?」

「米と、後は不発酵茶を探してるんです。」


不発酵茶は緑茶のことを指しこの地域ではあまり馴染みのないものだから、無いかもしれない。


「それなら、丁度あるぞ。」

「え、あるんですか!?」


ウォルハルクに案内される雨音とスーザイ。


「本当にあるんですね!」

「まあ、あまり買い手は付かんがな。」


緑茶は美味しいのに勿体無いなあ…

まあ、値段はちょっぴり高いけど。


ウラクの人は甘いものが好みだから、渋くてコクのある緑茶はあまり合わないのかもしれない。


雨音は緑茶を全て購入した。


『アマネ、そんなに買って、消費できる?』

「緑茶はご飯に混ぜと合うので大丈夫ですよ。」


スーザイは少し不安になった。




二人は家に帰り、救出した少女達に服を渡す。


「これ、いいんですか?」

『逆に…ずっと、裸でいるつもり?』


スーザイのその言葉を聞いて、素直に服を着る。


「こんな高価な服…あの、精一杯働いてお金を返します。」


一人の少女がそう言い、他の少女達も頷いた。


しかし、彼女達ができる仕事は限られる。

残酷なことだが、弱々しい体や染みついたトラウマでは殆ど何もできないだろうとスーザイは考えている。


それに…


『返さなくて大丈夫。』


元よりその服は雨音のプレゼント。

お金を返す必要なんて無い。


「皆さん、準備できたのでこっちにきてください。」


今までどこかに行ってた雨音が帰ってきて、少女達を案内した。


一体何の準備なのか不安になる彼女達。

案内されたのは食堂で、見たこともない程に長いテーブルがずらっと並んでいた。


「じゃあ、それぞれ好きな席に座ってくださいね。」


雨音に言われるがまま、少女達は座る。

すると、使用人が料理を運んできて、人数分に渡っていく。


「これ、食べていいんですか…?」


料理を見て一人の少女は、泣いた。

温かくていい匂いがする。


「どうぞ!」




雨音は少し前、厨房にいた。


「こんな感じです。」


雨音は料理人のシュウとエルンにお茶漬けの作り方を教える。


「あの、お茶にご飯って合うんですか?」

「食べたら分かりますよ。」


そう言って二人にお茶漬けを食べさせた。


「……!?これ、美味いですね!」

「すっごい美味しい…!」


一瞬で食べてしまう二人を見て、満足げになる雨音。


「これを50人分作りたいので手伝ってもらえますか?」


そうして、今に至る。




「美味しい…おいしいよ、、」


スプーンですくい口に入れるとじんわりとした温かさを感じる。


捕らえられていた時は、残飯などの腐った食べ物や、ネズミ、排泄物、時には自分の四肢や同じ奴隷の死体なんかを食べさせられた。


しかし吐き出せば罰則を食らう。


少女達は、それをたべるしかなかった。

いきるために。


死んだ子達にもこれを、食べさせてあげたいな…

鋭い罪悪感に駆られる。



「やはり、傷は簡単には癒えませんか…」


誰にも聞こえないくらいの声量で呟く雨音。


「スー、居場所が無い子はうちで引き取りましょうか。」

明白了ミンバイラ。』


そうして、全員が食べ終わるのを待った。


「とても、美味しかったです。」

「そう言ってもらえて、作った甲斐がありました。」


さて、そろそろ切り出そう。


「さて、今後についての話です。自分の居場所がある子はそこに送り届けます。ただ、何処にも居場所がないのなら…ここに住んで構わないですよ。」


その言葉に静まり返る。


勿論、奴隷になる前は居場所があった。

家族が、友達が、いた。


「私は、帰っても…いいんでしょうか、」


一人の少女は思った。


人間ではない何かに成り下がってまで生きた醜い自分が、それ以上を求めることは果たしていいのかと…


『それ以上…言ったら、怒るよ。アマネに判断を、委ねないで欲しい。自分で考えて、自分で決めて。それだけは忘れないで。』


酷な話だが、結局最後は自分で決めなくては行けない。


『道を人に尋ねることはできても…道を歩くのは自分にしかできない、』


諭すように言うスーザイ。

その言葉が後を押したのか少女達は一人で決めた。


「私、帰ります。」

「私も!」

「帰らせて、ください…!」


顔つきが、変わった。


「スーザイは本当に、教え上手ですね。」

『これでも教授。最も偉大な、賢者に、スーは学んだから。』


そう言って雨音に少しばかりドヤっとするスーザイだった。



40人を、元の居場所に返したスーザイ。

流石に魔力を使いすぎて疲れた表情を浮かべる。


「お疲れ様です。チョコレートいりますか?」

『……貰う。』


雨音は、スーザイにチョコレートを渡し、少女達にも配った。


スーザイが送った子達にあげてなかったけれど、またいつか会った時にでも渡そう。


「そういえば、すっかり忘れてましたが自己紹介してませんでしたね、」


自己紹介以前の問題を片付けていたからすっかり忘れていた。


「ボクはアマネです。よろしくね!」


雨音はフランクな自己紹介をした。

結構大事な内容が抜け落ちているのが雨音らしいと言うべきか、スーザイは呆れる。


『……スーザイ=コン、見ての通りハイエルフ。』


耳を手で引っ張って強調するように言うスーザイ。


「奴隷番号03です…名前は、思い出せないです。」


奴隷番号で呼ばれ続けて、自分の名前が、よく分からなくなってしまった…

それは他の子も同様で、エミリア、シャーロット、フランの3人以外は全員名前を覚えていなかった。


そんな中、スーザイは悟られないよう魔法を発動させた。


『ハイネ、フィル、ティア、リン、アイナ、ミーシャ、クロン。次は…忘れないように。』


時魔法で、過去の記憶を探ったスーザイは、そう言って倒れた。

時魔法を使ってただでさえ疲労するのに、少女達の奴隷だった記憶を全て体験したのだ。


倒れないわけがない。


魔力の流れを見ていた雨音は、スーザイが何をしたのか察した。


「ばか…」

『必要な、ことだったから。』


そう言われると雨音は強くは言えなかった。


スーザイは雨音とはまた違った危うい優しさを持っている。

リシアがこの場にいたら、どっちもどっちと言うだろうか…












_____________________

後書き



どうも海ねこです。


今日は言い訳……もとい報告です。


このシーズンはどうしても忙しくて投稿頻度が遅れてしまいます。


だから、どうか…!

怒らないで聞いてください!


予定では一週間に二、三回と言ってはいたものの、一回が限界かもしれません…


身を粉にして書かせていただきますが、やはりそれくらいの頻度になってしまうと思います。


一週間以上投稿されなかったら、身体がぶっ壊れたんだなと察してください。


以上、言い訳(報告)でした!








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