第7話 古龍

「盗賊…このウラクに…本当?」



辺境ウラクに盗賊が出ることは無いと言っていいほどに過酷な環境だ。

それに街でも、眼が良い実力者が多い。


魔眼や龍眼持ちは勿論、冒険者の経験からくるものや鑑定眼などを持っている人が多すぎる。

隠れ切るのは勿論無理だ。一瞬で討伐されるだろう。


ギルドマスターの執務室にて、アマネとスーザイとユークリッドの三人がソファーに座っていた。


スーザイはコーヒーカップを持ちながらユークリッドのその言葉にこてんと首を傾げそう聞く。


「最近名が上がっているドーマ盗賊という規模1000を超える盗賊団なんだよ。しかも全員B級冒険者並の力があるし幹部クラスはA級だ。良かったらスー。君の核撃魔法でアジト諸共ぶっ飛ばしてくれないかな?」


ユークリッドは簡潔に説明する。


好的ハォデア。座標、教えて…終わらせてくる。」


ユークリッドの説明に、淡々と頷くスーザイ。


あれ、いまなんか中国語のようなものが聞こえたけど気のせいかな…

雨音はそんなことを考える。


ユークリッドは地図を持ち出してピンを指す。

丁度黄昏の大地に近い場所だ。


「アマネを呼んだ理由だけど、アマネには、スーザイを近場まで運んでもらってもいい?」


ユークリッドはそう雨音に聞く。


というか、スーが核撃魔法を撃てるって言っていたけど、そういうことは二属性デュアル以上が扱えるってことでいいだろう。


この世界に来てから自分以外の二属性デュアルにあったことは無いが、スーならば魔力操作が精霊並だからいけるのだろうか。


しかし、


「良いですけど、ボクも核撃魔法撃てますよ?」

「あ、えと…そうか、君も水と雷の二つの属性が使えたね。ただアマネの魔力量だと森が再生する間もなく消滅しちゃうから辞めてね?」


雨音の肩を掴みマジトーンで言うユークリッドに、頷く雨音。


「辞めてよ?フリじゃないからね!?」


いや、そういうノリこの世界でもあるの…?

そんなこと言われたら、逆にやらないといけなくなる使命感に駆られるから…


しかし本当にやめてほしいのだろう。

ここまで念を押すってことは。


黄昏の大地だったら最大火力でぶっ放したことはないけれど、ある程度再生したし…たまにストレス発散で行ってみようかな。

なんて思う雨音だった。


と、いうわけで緊急依頼、ドーマ盗賊団の壊滅。


迅速に壊滅させろと我らがギルマス直々に依頼を貰い、スーザイをおんぶしながら目的地に向かう雨音。


スーってすっごく軽い。

なんていうか、ワタを担いでるみたいだなと思う雨音。


雨音は音速に近い速度で走りで尚且つ全く木々にぶつからないよう方向転換する。

それはまるで稲妻のような軌道を描いた。


本当にバカみたいな速度で森を自在に抜けていく雨音にスーザイは苦々しく言う。


『あ、アマネ……よ、、酔う、…世界が、回る、』

「あ、ごめんなさい。でももうすぐですので、速度を上げますよ!」

『うにゃああああ』


無自覚に鬼畜な雨音はスーザイの言葉にお構いなしに速度を上げた。


スーザイは、目が見えないが魔力感知で絶えず情報を処理している。

しかしこの速度にもなると絶えず情報処理が更新され脳が目まぐるしい変化についていけなくなり酔う。


スーザイが天然ドSアマネを垣間見た瞬間であった。


目的地であるドーマ盗賊団の拠点から1キロメートルも離れた地点で止まる雨音。


『う、うぅ…アマネ、悪魔、鬼畜…』

「ええ!?」


スーザイは涙目になりながらハイエルフの長い耳がぴょこぴょこ動き、アホ毛がブンブンと動かして言った。

魔力による操作で感情を表しているが、これは怒っている様子なのだろう。


「ごめんなさい。」


雨音はスーザイにしっかりと謝り、やさしく頭を撫でる。

エヴァの真似になるが、スーザイが暴走した時はこれで落ち着かさせていると言っていた。


『その、えと…迅速に、解決しなきゃいけない、依頼だから、、しょうがない…』


良かった、許してくれたみたいだ。


それにしても、なんていうか…

改めて思ったけどスーって猫みたいだと思う雨音。


エヴァは猫好きだって言ってたけど、だからしょっちゅうスーを撫でてたのかな。


猫っぽいスー×猫好きのエヴァ

相性良い理由が分かった気がした雨音であった。


そんなことを考えていると、スーザイは魔力感知により、目標を捉えていた。


『見つけた。』


スーザイの眼は動いていないが魔力と気配が明らかに鋭くなっていく。


魔力を自在に体内に集め、無垢の魔力が属性魔力へと変化していく。

火と光の属性に……


スーザイ=コンの異名は知っているだろうか。

【破天】

その名の所以は…


抓住ヂゥアヂゥー、』


捕まえた。

ハイエルフとして、遥か昔に一人生まれたスーザイ。

その出身である森のすぐ近くにあった既に無き国、武林の名残。

もう今は無くなってしまった言語で静かにそう呟く。


「オリジナル核撃魔法,天墜ティェンジュイ


天から、無数の光とそれを螺旋状に纏う焔が堕ちる。


遠距離から、魔力で敵の位置を把握し寸分違わぬ計算で標準を合わせ狙い通りにターゲットは死んでいく。

何もできず、何が起きたのかも分からず。


あまりにも、理不尽に…


例えA級冒険者に匹敵する力があろうが、防ぐことも避けることも叶わずに死んでいったのをスーザイは魔力感知で確認する。


例え広範囲に莫大な魔力を使って炎を作ることができる『焔姫』ユキナとは違い、最小限の魔力と操作精度で一点の収束力と破壊力において、最も火力を叩き出せるのがスーザイだ。


『……一人、貫けなかった。』


少し不満そうに言うスーザイ。

今の魔法で全員仕留めるはずだったのに予定が狂わされた。


「大丈夫そうですか?」

無問題モーマンタイ、スーに任せて。』


スーザイは風魔法を行使する。


『これは、風魔法第一人者。アルト博士が開発した殺傷魔法,不可視剣インビジブルソーダリー


かつて、魔法の研究にて風魔法は火魔法や水魔法、土魔法よりも攻撃力が低いという論文があった。

しかし600年前に編み出された不可視剣インビジブルソーダリーは世間の定説を覆した。


それから今に至るまで改良されずに一貫して使われる数少ない魔法である。

ただし扱えるのは魔法に精通した一部の者たちだけだが、風魔法に限らず、あらゆる属性魔法に引けを取らない最高峰の火力を誇る魔法である。


『神髄は、不可視という、ところに…ない。単純に、防げないところに、ある。』


狙った対象以外は、すり抜けてしまうこの魔法。

だからこそスーザイは狙った。

盗賊団の賊長と思われる敵の心臓を長距離から一ミリもずれずに狙ってのけた。


紛うことなき神業と言う他ない。


現在『冒険特集』にて冒険者の強さや対応力などを含める総合ランキングにおいて、

【スーザイ=コン】

S級冒険者,一位


最もX級冒険者に近いのは彼女なのだ。


それに魔法に印象がおかれがちなスーザイだが格闘技も超高水準であり、魔法がなくてもS級に食い込むレベルである。



雨音は、魔力感知で最後の目標が絶命したのを確認した。


「終わりましたね。」

『うん、達成…万歳。』


二人は盗賊の隠れ家に向かう。


全員、脳天に一撃で倒れていた。

魔力感知で見ていたが実際にこの眼で見ると改めてスーのおかしさが理解できる。

見た目はこんなに可愛いのに…


雨音は自分のことを棚に上げながら思う。


「そういえばスーは火属性、光属性、風属性が使えてましたけど、他に使えるものは?」


気になる雨音に、スーザイは答える。


「火、水、風、土、雷、光、闇、空、時。」


それに加え誰でも扱える無垢の魔力をそのまま行使する無属性を合わせ全十属性がスーザイには使えた。


「それ全属性じゃないですか…」

『アマネも、理論上…可能。ただ、時間はかかる。』


でしょうね…

口には出さず心で突っ込む雨音だった。


ほんと見た目とは以下略ーー


『まあ、精霊王には、属性が一つあれば、充分。スーの場合は、他研究者と、共同研究…やってから、次第に全部、覚えちゃった。』


そう語りながら、盗賊たちを一点に纏めて空魔法で亜空間の中にポイポイっと入れていくスーザイ。


「あ、あと…さっきスーが使っていた言葉って中国語、ですか?」

『え?』


スーザイは自分の耳を疑った。

遥か昔に戦争で滅んだ武林。

ハイロッド王国の近くに位置していて、小国同士が互いに争っていた。


しかし、ハイロッドに流れ込んできた魔法という兵器によりその小国は全てハイロッド王国に統合される。


言葉もその時にハイロッド語を喋らせるようになってからは廃れ、焚書により更にそれは加速する。


現在喋ることができるのは古い言語学を学ぶ研究者くらいだろう。


『中国語って、さっき…言った?武林語を、アマネは知ってるの?』


雨音は首を横にふる。

中国語を全部知っているわけじゃない。

少し喋ることができる程度だ。


雨音はスーザイにも自分の今までの経緯を話した。


『なるほど、異世界…この世界がある日を境に、発展したのは、それが理由…か、』


スーザイは考え込む。


たびたび、この世界と前の世界がリンクしているような気がしていた雨音もこの世界に文化を伝えに来ている世界を渡る渡来人のようなものがいるのではと考えていた。


『多分、異世界から、来た人は、古龍のせい。だと、思う。』

「古龍?」


ユキナが一度だけ出会ったことがあるって言ってたっけ…


『そう、古龍は四体。』


そしてスーザイは説明を始めた。


古龍種,

それぞれが35億年前以上から存在しているとされる超常存在。


『今は、お昼、だけど…あそこのうっすらと、見える月、あれ…古龍の一体【月龍】ディグレシア。空間に歪みを、起こす権能を…持ってる。から、きっとあの古龍の、せい。』


え、あの月だと思ってたものって一つの生物だったの?

今見たら、魔力の波長が…うそ、、


月振と言われるそれは、月龍の鼓動であり…

海の満ち潮といわれるそれは、空間の歪みを起こしているだけ…


『そして【世龍】レノメート。属性魔力を、無垢の魔力に、変換できる、唯一の存在。』


無垢の魔力は一度、属性魔力に変化したら戻らないとされている。


だから属性魔法を発動してしまったら、その魔力は無垢の魔力に変化されず、そのままだと適性のあるものしか使えない魔力で溢れてしまう。


そうなるはずなのに、何故か世界中に流れている魔力は無垢の魔力で、属性魔力が見当たらない。

研究者たちは、魔力の挙動を調べた。


『そしたら、属性魔力が…一点に、集まったのを確認、できた。そこには、世龍がいた。ユキナたちがその時、調査で、共に行った。』


山のようにも見える巨大だという世龍。


あの月が龍という時点で、およそ理解できる範疇にない大きさではあるものの、世龍もだいぶでかい。


『あとは【虚龍】レーヴ、と【智龍】アイラ。その二柱。だけど、文献でしか、残ってない。』


長い時を生きているスーザイでさえ、一度も見たことがない。

だからどんな権能を持っているかすら分からない。


古龍と言われるのならば、月龍や世龍のような凄まじい力があるのは間違いないのだろうが…


「アイラ、ですか…」


雨音は、何故かその名前を知っているような気がした。


『あとは、精霊王…という可能性も、あるかも。』


今一度精霊王について触れよう。


精霊王とは、それぞれが司る属性魔力によって変わる。

例えば雨音ならば、水と雷、その中でも最も得意な水属性。

【水の精霊王】となるわけだ。


一つの属性につき一つの精霊王が存在する。

新たな精霊王になるためには今現在の精霊王を殺し、王の因子を受け継いだ者がなることができる。


スーザイは淡々と説明する。


しかし雨音には疑問が残った。


何故自分は、前の水の精霊王を殺していないのに、精霊王になっているのかだ…


少し前に、考えていたあの仮説がこ本当ならば、それで説明がつく。


どことなく材料が揃っていく感じがする雨音であった。











◆◇








「いやぁ、ありがとう助かったよ。」

「いえいえ、依頼ですから。」


ユークリッドは雨音たちにお礼を言った。


「それにしても、」


そう言って、ユークリッドはスーザイに目を配らせる。


「スーは大丈夫かい?」

『兵器、』

「うん、平気じゃなさそうだね…イントネーションは同じだったけど明らかに意味が違った言葉を言ったね!」


そうツッコむユークリッド。

雨音は苦笑する。


「スーをおぶって走ってたんですけど、崖から自由落下してしまったんですよね…そのまま空中を飛んで帰ってきたんです。」

「あー、それはスーには厳しそうだなあ。」

『む、無問題モーマンタイ。」


ユークリッドに煽りを感じたスーザイは、少しムキになる。

こういう時は見た目相応にも見えるスーザイだった。


「あれ、帰ってきたんだな。」

「おかえりなさい。」

「アマネ、の声がしたと思ったらやっぱり!」

「うーっす、入るぜギルマス。」


ガラシャ、ユキナ、リシア、エヴァの四人が全員揃って、執務室に無断で入ってくる。


「あのねぇ、いくら君たちでも無断で入ってくるのは良くないと思うよ。せめてノックしてから来なよ。」


左口角を上げて引き攣りながら笑うユークリッド。


「うわ、ユークリッドに正論を言われるとムカつくわ。」

「なんでよ!」


今日は一段とギルドが騒がしくなりそうだなあ。なんて雨音とスーザイは思っていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る