第6話 四人目のS級
「ふぅ、ごちそうさまでした!美味しかったです〜」
雨音は手を合わせてそう言う。
綺麗になった食器の数々が、何よりの証拠だ。
さらには三人とも尋常じゃない程追加で注文している。
白銀は分かる。
初代剣聖も辛うじて理解できる。
だが問題は剣姫だ。
何であんな小さいのにあれだけの量が入るんだ。と、海の家の中にいる全ての人が心の中で総ツッコミしていた。
「あ、あの…皆さん凄い食べっぷりでしたね。料理人の父がとっても喜んでましたよ。」
店員のお姉さんは三人にそう言った。
が、やはり雨音のお腹を見て、宇宙猫のような表情をする。
『え?どこにあの量が消えたの?』
内心はもうこれに尽きる。
「剣聖杯出場者の皆さんにはタダで良いと父が言っていましたので、お代は結構です。」
「え、いいんですか?」
雨音は申し訳なさそうな顔をする。
自分で言うのもなんだけど、あんだけ食べたのにタダなんて、赤字になっちゃうよ?
そう不安になる雨音。
しかし、リシアとエヴァはニッコニコだ。
遠慮なんて微塵も感じさせない。
厚かましさが六法全書レベルの二人に少し呆れ顔を浮かべる雨音だった。
「では、そのかわりに何かしてあげられたら良いのですが…」
「じゃ、サインください!」
いや、そんな目を輝かされても…
サイン、サインかぁ。
そんなもの書いたこともない雨音は困り果てる。
助けを求めるようにして、エヴァとリシアを見ると、スラスラ書いて、さらに魔力で色までつけていた。
エヴァはともかく、リシアはなんで書けるの?
「えと、その、サインは…」
書けないって言える雰囲気じゃない。
それに美味しい料理もタダで振る舞ってもらえたし書くしかない。
“雨音”という漢字から安直に傘と音符を繋げて、『あまね』というひらがなを崩して書いてみて、仕上げに魔力で要所に色を塗る。
なかなか良い出来だと思う。
「ありがとうございます!近くに寄った時はまた『心海亭ふたば』にいらしてくださいね!」
雨音たちのサインを早速飾る店員のお姉さん。
喜んでくれたみたいで良かった。
このサインは後に5000万ルピにまで高騰することになるがこの時の雨音達は知る由もなかった。
「ごちそうさまです。」
そう言って雨音達は『心海亭ふたば』を出る。
アクアパッツァ、すっごく美味しかったし自分でも作ってみようかな。
川魚でもいけるそうだし、ブラックバスとかでで代用してみようかな。
「ボク達は一旦ウラクに帰るのですが、エヴァはどうしますか?」
「んじゃ、オレも久々に帰るとするか!スーザイもウラクに帰ってくるしな。」
剣聖杯は一週間後。
王都ハルアで沢山観光するのも良いけど、美味しいご飯や観光スポットにうつつを抜かして、修練を怠けてしまうかもしれない。
だから剣聖杯が終わるまではウラクで過ごすことに決めている。
「それでは、馬車…は使わないで走って帰りましょうか。」
「お、まじで?だったら競争しようぜ!」
「いいよ!」
王都ハルアから辺境ウラクまで、1000kmは離れている。
果たして雨音達はどのくらいの時間でたどり着けるのか、
各々が衝撃波で地形に被害が出ないように魔力の膜を覆う。
記録は………40分(時速1500km,マッハ1.24)
ほぼ同タイムでウラクにたどり着く三人。
「ふう、つきましたね!ボクが一番ですね。」
「私が二番目。」
「くそっ、最下位かよ。」
この三人、全く息をついていない。
全力じゃないのである。
あまりに速すぎると方向転換や停止が難しくなる為だ。
「まあいい。後は剣聖杯で勝負を決めようじゃねえか、初代剣聖!」
「望むところ。」
二人は闘志を燃やす。
しかし雨音は自分に対抗意識を燃やされないことに釈然としなかった。
「なぜボクは入ってないんですか?」
雨音がそう聞くと予想外の答えが返ってきた。
「アマネは強すぎて私なんかじゃ勝負にもならないからだよ。」
「魔力と闘気がイオリと同じくらいだしな…はっきり言って化け物だ。」
二人はそう答える。
そんな、人を化け物だなんて……
ん、あれ……?
雨音も師匠は人外だと思ってるし人のこと言えなかった、
雨音がガックリとしてる中、エヴァは雨音を見る。
エヴァの龍眼に見通せないものはない。
最初会った時から、感じるソレは一体何に表現すればいいのかさえ分からない。
雨音は気づいていないがエヴァは雨音から滲み出る魔力にわずかに臆していた。
その分、エヴァの対抗意識はリシアに向かれた。
初代剣聖とはいえこちらはまだ理解ができる領域にいる。
だが、世の中には理解を超越した者がいる。
ソレに名前をつけるとするなら安直に『超越者』でいいだろうか、
紛うことなき超超存在、世界の仕組み【古龍】
魔力の寵愛を受けし星の子【精霊王】
異端も異端、人外中の人外【X級冒険者】
迷宮を創造し、全ての魔物を従える【魔王】
神が落とした兵器【勇者】
この中でも、古龍と精霊王は別格である。
が、雨音は生まれたばかりだからまだ、本当の意味で精霊王ではない。
エヴァには雨音がどの領域にいるのか見当もつかないが、きっとアイツと同じくらいなのだろう。
歩きながらエヴァはそんなことを考えていた。
雨音達はギルドに戻る。
扉を開け、エントランス中央にぽつんと佇む一つの影。
『エヴァ、おひさ…』
黒髪黒目の半眼カタコトロリことスーザイがギルドの入り口に丁度立っていた。
「お、スーか、めっちゃ久しぶり。」
エヴァはスーザイと呼ばれた幼女を抱きしめる。
『元気、してた?』
「ああめっちゃ元気だぞ!」
一見エヴァだけが喋ってるように見えるこの光景。
雨音とリシアにもなると、スーザイから魔力を介して思念をエヴァに送っているということがわかった。
が、何を言っているのかまでは読み取ることができない。
凄まじいほどの魔力操作技量がある。
「スーザイですよね、初めまして。ボクはアマネです。」
『アマネ様、了承。スーは…コン=スーザイ。スーザイ=コンでも、おけ。スーのことは、スーと呼んで。ください。』
無表情と言うべきかまったく表情が動かない代わりに魔力で感情表現しているスーザイ。
魔力操作は魔力の愛子である精霊にも匹敵する。
そして、栄えある『冒険特集』の見た目に反して強すぎる冒険者ランキング堂々の第一位が、この一見無害そうなロリっ子スーザイ=コンである。
この先、同じようなランキングが発表された時は雨音とスーザイが同列一位になるかもしれない。
『アマネ様、は…精霊王、です?』
「あれ、分かるんですね。あと、言葉遣いは敬語じゃなくていいですよ。」
一発で見抜かれたのはこれが初めてだ。
雨音は少し驚きながらも、慣れていなさそうなスーザイの言葉遣いを慣れたものにしてとお願いした。
『精霊王分かる。そっちの方、は、吸血鬼…始祖。元枢機卿、初代剣聖、スーです。よろしく…ね。』
「……よく分かるね。よろしくスー。それとそんな仰々しいものじゃなくてリシアでいいよ。」
リシアが、初代剣聖が聖天教の元枢機卿であることを知っている者は数少ない。
それこそ歴史学者の中でも知る人ぞ、って感じの話題だ。
エヴァは自己紹介が終わったのを見て一言告げる。
「一応言っておくがスーは生まれつき眼が見えない代わりに魔力を感じ取ってるんだ。」
エヴァのその言葉が本当だと分かる。
スーザイの眼が、一切動いていないのだ。
スーザイは、眼を代償に精霊と同等の魔力操作を得ている。
一体どれほど、試行錯誤してきたのか…
僕と、似たものを感じる。
「それにしてもアマネは精霊王だったのか…道理で化け物みたいな魔力のはずだ。」
「そういえば言ってませんでしたね。」
そうして四人はギルドの休憩室に行き、一旦腰を下ろした。
ギルドのエントランスにて、気配を殺すようにして身を縮めていた冒険者が、再び動き出す。
「いや、まじで近寄りがたい空気感だったなぁ、」
「みんな極上の女だけど、アマネちゃん以外はなんか怖い。」
「白銀は気に障ったら体の一部を破壊されそうだし、スーちゃんは世界最難ラファリア大学、歴史学教授で、話が通じなさそうだし、リシアちゃんも初代剣聖なんていう伝説的な称号だし、」
三人とも形容し難い何かを放ってることは間違い無いのだろう。
あまり他人とは関わらないということも含めて、関わりずらい。
それに比べて、雨音はウラクの最高の癒し枠だった。
強いことには間違いないが、礼儀正しく極めて温厚で気さくに話しかけてくれるし、気遣いが上手い。
若干の天然はあるもののそれがまた良い。
「理想ってアマネちゃんのことを言うんだな…」
「ああ、全くだ。」
◆◇見た目に反して強いギャップランキング最新版!(冒険者ギルド関連)
第一位,スーザイ=コン(ウラク)
第二位,アマネ=ツルギ(ウラク)
第三位,リシア・レイヴ=グラハム(ウラク)
第四位,ミカ=フォーネット(ウラク)
第五位,ユークリッド=アーシアル(ウラク)
第六位,イオリ・レイヴ=カザキリ(ウラク)
第七位,ユキナ=コルフィー(ウラク)
第八位,ユエ=リンガル(ウラク)
第九位,エヴァ=アトラクト(ウラク)
第十位,ローガン=アリアンテ(ウラク)
またしても、ウラクが総なめしていた。
◆◇ーーー
『アマネ、リシア…二人、パーティを組んでる?』
三人同時に思念を送るスーザイ。
しれっとやっているが途轍もない神業であることを雨音たちは知っている。
例えるなら、裁縫で三本の針にそれぞれ糸を目視せず一瞬で通しているようなものだろうか。
え、精霊王だけど…できないよ?
練習すれば形にはなるだろうけど、ここまでスムーズにやれる自信が無い。
とりあえず雨音はスーの質問に答える。
「まだ正式な名前は決まって無いですが、リシアとパーティを組んでます。」
もう一ヶ月と少し。
名前すら決まっていないことを思い出した雨音だった。
『スーも、アマネの仲間、加わり…たい。アマネの、魔力。心地いい…』
「分かるよそれ!アマネの魔力ってあったかいよね。」
二人で盛り上がる二人を見て雨音は、どんな感じなんだろうと、疑問に思った。
『きっと、アマネの側に…色んな人が、集まる。ウラク以外、からも。」
スーザイのその言葉にリシアは少しだけちくりと胸が傷んだ。
できれば雨音を独り占めしたい。
そんな感情がリシアに押し寄せる。
「もう、リシア?ボクはどこにも行きませんよ?」
リシアの表情がこわばったのに気づいた雨音はリシアの手を取り繋ぐ。
雨音の手の温もりが、リシアにはたまらなく愛おしかった。
そんな光景を魔力で観察していたスーザイは、どこかリシアに危うさを感じた。
だからこそ、これは早めに言っておかなければならない。
『リシア、忠告…アマネだって、同じ。生きてる、だから…リシアはアマネの側に、いたいのなら、尊重しあうのが何より…大事。絆は、そういうもの。結びあい、結ばれあう。これは、人も精霊も、吸血鬼も、エルフも、龍も、変わらない。一方通行では、本当の意味で、絆は結ばれ、ない。』
スーザイはそう言って一枚の紙を取り出し、魔力で雨音とリシアを早々と描く。
『スーは、眼が見えない。だけど、心は、心象は、世界は、誰よりも…視える。これは、教授として、画家として、冒険者の先輩として、長年者として、伝えておく。』
重みがある、そんな言葉だった。
琴線に触れるような、
だから、リシアはその言葉を胸に刻む。
絶対に忘れないように、硬く誓った。
『
「ありがとうね。」
スーザイはその場で丸くなるようにして眠りかけた。
リシアは、スーザイにお礼を伝える。
その一連の流れを見ていた雨音とエヴァは、それぞれ大切さを感じさせるものがあった。
「スーは見た目は小さくて可愛らしくですけど、大人ですね。」
「おい、お前人のこと言えないぞ…が、まあ分かる。」
どの口が言ってるんだ、という表情を浮かべ言うエヴァにあははと笑う雨音。
僕の中のスーの印象がガラリと変わった。
その眠った姿はどう見ても、幼女だ。
「スーはハイエルフなんだよ。だから見た目に反して相当長く生きてる。かく言うオレも80年は生きてる、龍人だしな。」
そう言うエヴァ。
あれ、もしかしてこの中で一番年齢が低いのは僕なのでは?
リシアは400年以上、
エヴァも80年以上、
スーは年齢がまだ分からないけど、相当長いのだろう。
僕は前世含めて20歳程度。
しかしどこかおかしい。
精神があまりにも発達していると言うべきか、前世からその片鱗が隠されることなく発揮されていた。
人間を超えた精神力。
もしかして…
その一瞬だが、浮かんだ考えを頭を張って否定する。
何か、何かを忘れている気がする。
大事な何かだ。
「どうしたの、アマネ…?」
「え、ああ…いや、少し考え事をしてました。」
それを聞き膨れたリシアは不満げだった。
でもリシアはそれ以上追求してこなかった。
「ま、アマネにも隠し事に一つ二つぐらいあるんだろ。」
エヴァはスーザイの頭を撫でながら言う。
隠し事、もうこの際だし言ってもいいかもしれない。
特段隠すようなことでも無いし…
先ほどの考えは、まだ確証が得られないから言うのは辞めておくべきか。
そうして雨音は口を開く。
「言ってしまえばボクは違う世界から転生してきたんですよね。」
何事もないかのようにそう二人に打ち明けた。
「「は?」」
リシアとエヴァは固まる。
当然の反応だった。
_____________________
後書き
一週間に一回投稿すると言ったな、あれは嘘だ!
というわけで何故か毎日投稿してる海ねこです。
なんでなんでしょうね?(誰も分からない)
https://kakuyomu.jp/users/Yume_Ututu/news/16818023213196785058
こちらは、雨音達が書いたサインになります。
もし興味があれば覗いてみてください。
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