【二章:ルークス王国騎士団】
村で起きた惨劇から一日。
村の異変に気付いたのか、王国から派遣された騎士団がやってきて、僕は彼らに保護された。
取り調べの為に色々聞かれたけど、今の僕には冷静に受け答えする程の余裕はなく、口を閉ざした。
それから僕は王国にある孤児院の教会預かりとなり、身寄りを失った子供として匿われる事になった。
僕に気を使っての発言なんだろうけど、余計なお世話だった。
裏切られた。
一年間、共に過ごしてきて。少なくとも僕は、
家族とも仲良くしていたし、他の人とも上手く付き合っていた。
あの時、楽しそうに笑う君の笑顔は、嘘偽り無い心からのものだと、そう思っていた。
けどそれは、僕の歪んだ脳から思考された幻想で、眼窩の奥で写し出した理想像に過ぎなかった。
それを想うと、あの時流す事が出来なかった涙が、自然と溢れてきた。
それと同時に、心の奥底で燃え上がる強い怨嗟が、燻っていた殺意へ、火を灯し出した。
家族を。友を。故郷を。
その全てを奪い去り、消え去った、憎き竜。
一度は愛した女だが、今では
「殺してやる」
立ち上がり様に呟き、俺は孤児院を抜け出して、騎士団の元へと足を運んだ。
この手であの女を──テラを殺す為に。
※
人伝で聞いた話だが、騎士団は常に人手不足なのだと言う。
何でも王国近辺に蔓延る魔物たちの対処や、俺の住んでいたような他村・町への護衛等で派遣される事が多く、いくら人員を補充しても足りないようだ。
それもあってか、志願すると簡単な試験をした後に、俺は王国騎士団へと入団する事ができた。
それから俺は、村や町を魔物から守る為に派遣されたり、大規模な魔物討伐に出向いたりと、騎士として着実に力をつけ、そして結果を残していった。
誰よりも強くなる必要があった。
そして最終的には、あの女を見つけ出して殺す。
それが、今の俺を突き動かす全て。
この復讐を成就させる為の道のりでしか無かった。
そんな生活を続け、五年もの月日が流れ──
21歳となった俺は、王国屈指の有力騎士として名を馳せる事となった。
その活躍が認められ、俺はルクス王国が国王ルークより、拝謁の機会を与えられた。
「
「はっ」
玉座の間で、ルーク国王の声が響き渡る。
王の一声で顔を上げる俺は、優しい笑みを浮かべるルークを見上げた。
「貴様の活躍は耳にしておる。褒美をくれてやろう」
王がそう言い手を掲げると、配下と思しき二人の男が剣と盾を渡してきた。
「その剣と盾には、我が所有物であり命令を確実に達成させる力、【王印】が刻まれておる」
王印。
前国王は、それを「禁忌の力」として封じていたが、現国王であるルークがその禁忌を解き放った。
代償として、竜の血液が必要との事で、未だ量産には至っておらず、王印が刻まれた武器を手にする者は片手の指で数える程しかいない。
しかし、王印の刻まれた武器の持つ力は絶大だ。
一人で魔物を百体狩る事も、千の軍勢を相手取る事も。
そして何より、竜を殺す事だって出来る。
そんな代物が俺の手に。
(──殺せる)
俺は剣と盾を受け取り、王に高く掲げた。
これでようやく殺す事が出来る。
忌々しき、あの竜を。
※
王印が刻まれた武器を手にして半年が経った。
そこで俺はとある情報を得て、今は無き故郷の村へと足を運んだ。
そして、そこに横たわるモノを見て、俺は思わず口角を吊り上げ、笑う。
「……やっと。やっとだ。やっと会う事が出来た──テラ」
俺の呟きに、此方へと顔を向ける竜化したテラは、瞠目するように目を見開き、そして、陶然とした様子で声を放った。
【大きくなったのだな。フォリア】
「ああ。お前を殺す為にな」
言葉を交える気は無い。
俺は剣を抜き、盾を構えて、テラの元へと駆け出した。
王印の刻まれた力のおかげで、身体能力は大きく上昇している。
これは、王印の加護によるもので、所有者の願いに反応し、力を授けてくれる。
俺が望む願いは一つ──眼前に聳える忌まわしき敵を、この手で屠り去ること。
俺は横たわるテラ目掛け、剣を振り下ろす。
しかしその一撃を寸前で躱され、俺は更なる迫撃をかける。
その度に躱され防がれるが、奴の動きは酷く鈍い。
既に衰弱しているように見えるが、関係無い。
奴を殺す、絶好の機会だ。
俺は攻撃の手を止めずに仕掛け続け──翼を斬り落とし、手を、爪を、牙を、足を、そして大きく膨れた腹を引き裂いた。
【──】
声も無く血溜まりの中で倒れ伏す竜は、ゆっくりとその姿を縮めてゆき、俺のよく知る女……テラの姿となった。
うつ伏せで倒れる彼女は、少しだけ此方に顔を向けると、あの時と似た笑顔を向け、「フォリア」と、俺の名を呼んだ。
「呼ぶな。穢らわしい竜が」
ほぼ無傷だった俺は、足取り軽くテラの元へと向かう。
殺せる。村の皆の敵を、討つ事が出来る。
血溜まりに足を踏み入れる。
この出血量だ。放っておいても死ぬだろうが、せめてものの情けとして俺がこの手で屠り去ってやる。
俺は、王印の刻まれた剣を振り上げ、テラの首を刎ねようとするが……俺はその剣を、一向に振り下ろす事が出来なかった。
視界に入ったのは、テラの首元。
長髪の裏に隠れていた、王より授けられた剣と、その盾に刻まれた王印──
何故か彼女の首元には、それとまったく同じ王印が刻まれていた。
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