第16話 元カノ

 昼過ぎ頃の執務室で、サクヤは席に座りながら唐突に自分の騎士であるルイーズに告げる。


「最近、誰かから、見られているような気がするんだ」

「自意識過剰じゃないですか?」

「ルイーズ、お前、冷たくないか?」

「そんなことないですよ」


 サクヤは最近、誰かからの視線を感じでいた。自意識過剰なはずはない。とサクヤは思う。


「まあ、危害を加えてこないならいいか」


 机の上に頬杖をつきながらサクヤ呟く。そして、また机の上に置いた書類を手に取り、仕事を再開し始めた。



「許さないんだから、私以外の人と付き合うなんて……」


 一人の女はぶつぶつと独り言の呟きながら、城内を歩いていた。

 サクヤの元カノである女は、ここ最近、サクヤがアリーシェにアタックしているという噂を聞いた為、女は嫉妬にかられていた。



 その頃、サクヤから好意を寄せられているアリーシェは、ティアナがいる執務室にいた。


「ここ最近、サクヤ王子殿下の様子がおかしいみたいなのよね」


 ティアナは仕事をこなしながら、アリーシェにサクヤのことを話し始める。


「そうなんですか?」

「ええ、ヴィルから聞いた話しによると、サクヤ王子殿下、最近、誰かに見られているみたいなの」

「見られているって、ストーカーとかですか?」

 

 アリーシェがそう問えば、ティアナは首を横に振る。


「そこまではわからないみたいなの」

「なるほど。そうなんですね」



 麗らかな昼過ぎ頃。サクヤは場内を歩いていた。そんなサクヤの前から歩いて来た一人の女性を見て、サクヤは足を止める。


「久しぶりだな」


 サクヤがそう声を掛けると、女は足を止めてサクヤを見て軽く会釈をした。


「久しぶりですね、サクヤ王子殿下」


 サクヤは元カノである女を見て、ハッとした顔になり、何かに気付く。

 数日前、サクヤ宛に送られてきたストーカーかと思われる人物からの差出人不明の手紙。その手紙についていた甘い香水の香りと、今、目の前にいる女から香る匂いが一緒であったのだ。


「ストーカーみたいな行為をしていたのは、お前だったのか」

「やっと、気付いたのね」


 女はそう言い不敵な笑みを浮かべる。サクヤはそんな元カノである女を見ながら、冷たく言い放つ。


「とても迷惑だ。未練があるのか知らないが、俺はお前のことなど好きではない」

「貴方が私の物になってくれれば、いいだけの話よ。ねえ、お願い。私は貴方じゃないとダメなの」


 甘ったるい声でそう言う女にサクヤは気持ち悪く感じる。


「今後、俺に関わろうとしてきたり、俺の周りの人間に被害を被るようなら、それ相応の対応をするからな」

「どうして、どうしてよ! もう、私のこと好きではないの?」

「ああ、好きではない」


 サクヤの冷たい顔で女を見つめる。女はそんなサクヤに近づき、平手打ちを喰らわす。

 頬を叩くパァンという音が、城内の通路に響き渡る。


「なっ……!?」

「ほんと、くそ男!! 最低!!」


 女は声を荒げて、サクヤに吐き捨ててから立ち去って行く。その場に一人残されたサクヤは頭を抱えながら呟く。


「まあ、そう言われても仕方ないよな……」


 本当に心から好きと思えるアリーシェに出会ってから、俺は変わった。この先も自分の気持ちは変わることはないだろうとサクヤは強く思ったのであった。

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