第9話 過去

 いつもと変わらない賑やかな人々の声で溢れている王都の街並みを、アリーシェは横目に見ながら、騎士としての勤めである王都の巡回をしていた。


「今日も平和で何よりだわ」


 アリーシェは行き交う人々を見る。  

 何事も起こらず、平和であることが一番だなと心の中で思いながらアリーシェが歩いていると、前方から王立騎士学校の制服を着た生徒らしき2人の男子がこっちへ向かって歩いて来る。


 すれ違い様にペコリと会釈をし、アリーシェを見て二人の男子から『お疲れ様です』と挨拶をされる。アリーシェもそんな男子生徒二人に優さげな笑みを浮かべて『お疲れ様』と返す。

 

「王立騎士学校の制服、私がいた頃の物と少し変わってた」


 今はリースティアヌ王国の第一王女であるティアナの近衞騎士であるアリーシェだが、王立騎士学校の元生徒でもある。

 

「ミリシャは、どうしているかしら」


 アリーシェは独り言のように呟き、王立騎士学校に通っていた頃の懐かしい過去のことを思い馳せる。


 

 王立騎士学校に入学して間近の頃、アリーシェはあまり周りに馴染めず、一人でいることが多かった。唯一、話せる友達は同じクラスであったルイという男子だけだった。


 そんな中、学生寮の部屋が同室であったミリシャと私が仲良くなっていくのに、さほど時間はかからなかった。同じ夢を志し、切羽詰まって高め合っていけるライバルでもあり、友達という関係。しかし、そんな関係も長くは続かなかった。私とミリシャが2学年に進級する頃、ミリシャは家庭の事情により、王立騎士学校を退学することになってしまう。


 ミリシャが退学する日の朝。

 学校から立ち去る前にミリシャは私にお別れ言いに来た。


「アリーシェ、ごめんね。一緒に王女専属の近衞騎士になるって約束を果たせなくて」

「うん、いいよ。ミリシャ、これから色々あると思うけど、私はいつでもミリシャの味方だから、だから、元気でね」


 アリーシェの言葉に、ミリシャは一瞬、少し悲しそうな顔をしたが、笑顔で強く頷く。

 

「うん、アリーシェも元気でね。私の分も頑張って!」


 ミリシャはアリーシェにそう告げて、立ち去って行った。ライバルであり、友達であったミリシャが立ち去ってから、私は寂しいという気持ちを隠すように、今まで以上に勉学に励んだ。

 3学年に進級し、学校生活最後の夏休み。 

 王都で起こった連続通り魔事件の通り魔であった犯人である男を王立騎士団と共に捕まえた私は、その事が評価され、王立騎士学校在籍中に王立騎士団への入団が決まった。

 

 今では第一王女ティアナの専属の近衞騎士であるが、現在に至るまでとにかく色々なことがあった。アリーシェは時の流れは早いものだなと思いながら、呟く。


「ミリシャ、元気にしているかな」


 王立騎士学校を退学したミリシャとは、あれっきり会っていない。この空の下の何処かにいるライバルであり友達であったミリシャのことを思い馳せながら、アリーシェは巡回の交代を任せる騎士がいる場所に向かう為、足を進めた。

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