第10話 好意

 とある日の麗らかな昼過ぎ。

 自身の執務室で仕事をしていた時のこと。己の騎士であるルイーズの唐突の質問から事の会話は始まった。


「殿下は、アリーシェの何処を好きになったんですか?」

「はっ!? 今、俺がアリーシェの何処を好きになったのか聞いたか?」

「はい、聞きましたね」


  ルイーズの返答に、サクヤは何故か少し嬉しそうな顔をする。そして、サクヤは机の上にある書類の束を机の上でトントンとし、綺麗にまとめてから、自身が腰を下ろして座っている席の左斜め後ろに立つ、ルイーズの方を向いて告げる。


「俺がアリーシェの何処を好きになったのか、話す前に、俺とアリーシェの出会いから話そう」

「出会いから話すんですね」


 質問したはいいが、話しが大分、長くなりそうだな。とルイーズは心の中で思うのと同時にサクヤは過去のことを話し始める。


 遡ること一年前。俺がアリーシェのことを好きなるきっかけになったあの日のことを今でも昨日のことのように覚えている。

 まだ幼かった実の妹であるティアナに言った『お前が妹じゃなければ、婚約者候補に入れていたぞ』という発言が発端に、俺は周りからロリコン変態王子というあだ名をつけられてしままった。


 そして、ロリコン変態王子というあだ名を知らない者は居ないくらいに定着し始めた頃、今度は根も歯もない噂まで流れ始めたのだ。当時、俺は気持ち的にも色々、疲れていた為、少しばかり病んでいたのだが、そんな中、気分転換がてらに、城内を散歩していると、ティアナと共に中庭にいたアリーシェを見かけたのだ。


「見ない顔だな、ティアナの新しい騎士か?」

 

 サクヤは中庭にいる妹である第一王女のティアナとティアナの護衛騎士らしい少女の姿を遠目に見ながら、呟く。

 興味本位でサクヤはティアナの側にいる見慣れない騎士の顔が気になり、ティアナと騎士の姿を目で追っていると、ティアナの側にいた騎士がサクヤに気付き、目を向ける。


「とても可愛いな……」


 じっとこちらを見つめてくるアリーシェの顔を遠目に見て、サクヤはアリーシェの容姿の可愛さに思わず声を漏らしてしまう。そう、これが俺とアリーシェの最初の出会いである。

 


「俺はアリーシェの容姿に一目惚れしたというわけだ。まあ、今は中身も素敵だと思っているがな」

 

 サクヤは声を弾ませながら、自身の騎士であるルイーズにそう言えば、ルイーズはその後の続きが気になったのか、会話を終わらせようとはせずにサクヤに問い掛ける。


「へぇー、そうなんですね。それで、その最初の出会いからどうしたんですか?」

「その後は、ティアナにアリーシェのことを色々聞いたり、さりげなくアリーシェのことを尾行したりしていたな」

「尾行ですか、もはやそれはストーカーですね。怖いです」


 ルイーズはサクヤのちょっと変な所はアリーシェと出会った時から始まってしまったのだなと思いながらも、ここまで一途に一人の人間を好きだと思えることに、少しばかり羨ましく思ってしまう。


「殿下は顔はチャラそうに見えがちですが、実はそうでもないというギャップがいいですね」

「顔がチャラそうに見えがちなのは、否定できない。ルイーズ、俺はな、自分の気持ちに素直でいたいから、アリーシェへの気持ちも隠すことはしないんだ」

「そうなんですね。自分の気持ちに素直でいれる殿下が少しばかり羨ましいです」


 ルイーズはサクヤのように、素直に相手に気持ちを伝えることが、小さい時から得意な方ではない。サクヤのように自分の気持ちに素直に生きれたら、空回りすることもきっとないのだろうな。と心の中で密かに思う。


「羨ましく思うなら、ルイーズ、お前も自分の気持ちに素直に生きればいいだけのことだ」

「そうですね。ごもっともです」


 サクヤとルイーズの会話がひと段落し、サクヤはまた机の上にある書類に目を通し始める。仕事をしているサクヤの姿を、斜め後ろからルイーズは見守り続けていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る