第2話 出会い

 朝の心地良い光がシェラの金髪を照らす。食欲をそそる匂いがシェラの鼻につき、シェラは重たい瞼をそっと開け、ベットの上からそっと体を起こした。


「ここは……?」


 上半身を起こし、ベットの上から立ち上がったシェラは辺りをそっと見回すが、外に居たはずの自分が何故、建物の中に居るのか?という疑問が生まれる。


「あ、起きたみたいだね! よかった。昨日、外で倒れていて、俺の家に運んで来たんだよ」


 部屋のドアが開けられ、見知らぬ男が足を踏み入れ声を掛けてくる。通った声でシェラに言葉を投げ掛けてきたのは明るい茶髪とオレンジ色の瞳をした自分と大して歳が変わらない風にも見える青年だった。


「そうなのね、ごめんなさい。迷惑をかけてしまって」

「全然、大丈夫だよ。見た感じ良い所のお嬢様かなとか思ってヒヤヒヤしてたんだけどね。はは、」


 明るい口調でそう言う青年。見た感じ悪い人ではなさそうだとシェラは思う。しかし、人は見かけによらないという事もある為、警戒する気持ちも忘れずに待ち合わせておこうと心の中で言い聞かせる。


「貴方は誰……?」

「あ、俺? 俺はアディっていうから、好きなように呼んでくれていいよ」

「アディ、 良い名前ね。私はシェラって言うわ。えっと、改めてありがとう。あのまま外に倒れたままだったら、きっとかなり恥ずかしい思いをしていたわ」


 シェラの言葉にアディは苦笑する。今の所、自分のことを助けた上で何か対価を求めてくる様子もない。だとするとアディは純粋にシェラの事を助けただけであるということだ。


「はは、礼には及ばないよ。それにしても何であんな所で倒れていたのか、非常に気になる所だけど」


 アディはそう言いシェラをじっと見つめる。話してほしいという気持ちが込められているかもしれないアディの視線にシェラは仕方なく事の経緯を話し始めた。

 自分がヴォルローゼ国の第一王女であること。第一王子であり異母兄であるヴァリアントが殺されてしまったこと。殺した張本人から罪をなすりつけられてしまったこと。そして、自分が未来を見ることができるということ。

 全ての真実を話すことは、多少の危険性も生じる可能性もあることだ。シェラはその事をわかった上で、目の前にいるアディは自分以外の人間に話すという事をしないだろうと信じて嘘偽りなく全ての事を伝えた。


「そうだったんだ……」


 全てを聞き終えたアディは少し困惑した顔をしていた。それもそうだろう。目の前にいる少女はこの国の第一王女である。

 自分は王女を匿ってしまったのか。どうしよう…と思っているに違いない。


「大分、びっくりしたけど、そうか。うん、俺はシェラ王女殿下の味方になるよ! 何か俺に出来る事があったら遠慮なく言ってくれていいから」


 アディの優しい言葉にシェラは今に至るまで、ずっと我慢してきた気持ちが一気に溢れ出す。


「ごめんなさい。こんな所で、泣くわけにはいかないのに……」


 シェラは頬に伝う涙を拭いアディに背を向ける。泣いている姿を見られるのは恥ずかしい。アディはそんなシェラを見て思う。

 王女という立場である目の前の少女はきっと今に至るまで、ずっと気持ちを押し殺し、ここまで逃げ延びてきたのだろう。アディはそんなシェラを守りたいと思った。

 例え、面倒な事に巻き込まれたしても、目の前に居るシェラを放り出すことは出来なかった。


「大丈夫だよ。俺はそんな事、気にしないからさ。シェラ王女。追われてるのなら、俺と一緒に逃げない?」


 アディの言葉に思わず振り返る。泣いていた顔を見られてしまった事よりも、目の前にいるアディが発した言葉に気を取られてしまう。


「貴方を巻き込みたくはないわ」

「巻き込みたくないって言っても、もう巻き込んでるよ?」


 否定しようがない事実を突かれ、シェラは押し黙ってしまう。確かに、もう巻き込んでしまっている。


「最後まで巻き込んでよ。俺はシェラ王女の騎士ではないけど、守らせてくれるって言うのなら、自分の命に換えてもシェラ王女。貴方を守るよ」


 何故、そこまでしてくれるのだろう。そう思わずにはいられないくらいの言葉をアディはくれた。なら、最後まで共に居てもらおう。シェラはアディに強い意志のある瞳を向ける。


「アディ、貴方、本当に人が良いわね」

「はは、良く言われるよ」


 二人はそう言いながら、笑い合う。彼はきっと信頼出来る人だ。

 しかし、この時シェラはまだ知らなかった。アディとの出会いが偶然ではなかったということを。

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