1-2
「おはようございまーす!」
「お。おはよう、叶恵ちゃん」
「あ、おはよ、
見慣れた顔を見つけて、叶恵は小さく手を振る。付き添いの教師の目もあることから、所作は少々控えめだ。友人に一瞥をくれてから視線があちこちへと彷徨う。垂れた髪をしきりに耳にかける仕草が目立つ。叶恵がそわそわと浮き足立っているのが、
「残念ながら、今日は
「なっ! 私は別に高希のことなんて気にしてないよ!」
叶恵の顔が一気に紅潮する。……いや、無理があるでしょ。必死に首と手を振るせいで、長い髪と腕章が揺れる。ちらちらと見え隠れする腕章に描かれた校章、月のマークが億人の目に留まる。
「そういえば叶恵ちゃん、ブルームーンって知ってる?」
「……え? なんでそれ、万木くんが知ってるの?」
「いや、最近たまに高希が呟いててさ。なんのことかなーって気になってたら、やっぱり叶恵ちゃんはなんだか知ってそうだね」
叶恵の反応で確信を得た億人は、合点がいったという風に頷いた。
「じゃ、僕は教室に向かうとするよ。とにかく、高希がそのブルームーンとやらを気にしてたよってだけ伝えておくね」
颯爽と過ぎ去っていく億人の背中に、困惑したままの頭で振り返る。億人はもう別の友人を見つけて談笑していた。
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