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 首原くびはら叶恵かなえは風紀委員を務めている。今週は校門で登校する生徒の身だしなみをチェックする担当だ。月丘高校は校則自体が緩いため、ほとんど形骸化したあいさつ運動のようなものだ。しかし叶恵はぞんざいにすることなくハキハキと活動を行なっている。

「おはようございまーす!」

「お。おはよう、叶恵ちゃん」

「あ、おはよ、万木よろずきくん」

 見慣れた顔を見つけて、叶恵は小さく手を振る。付き添いの教師の目もあることから、所作は少々控えめだ。友人に一瞥をくれてから視線があちこちへと彷徨う。垂れた髪をしきりに耳にかける仕草が目立つ。叶恵がそわそわと浮き足立っているのが、万木億人おくとにもしっかりと伝わる。億人は意地悪く口角を上げた。

「残念ながら、今日は高希こうきと一緒じゃないよ。他の号車も見てみたけど、今日はあいつ乗り遅れたみたい」

「なっ! 私は別に高希のことなんて気にしてないよ!」

 叶恵の顔が一気に紅潮する。……いや、無理があるでしょ。必死に首と手を振るせいで、長い髪と腕章が揺れる。ちらちらと見え隠れする腕章に描かれた校章、月のマークが億人の目に留まる。

「そういえば叶恵ちゃん、ブルームーンって知ってる?」

「……え? なんでそれ、万木くんが知ってるの?」

「いや、最近たまに高希が呟いててさ。なんのことかなーって気になってたら、やっぱり叶恵ちゃんはなんだか知ってそうだね」

 叶恵の反応で確信を得た億人は、合点がいったという風に頷いた。

「じゃ、僕は教室に向かうとするよ。とにかく、高希がそのブルームーンとやらを気にしてたよってだけ伝えておくね」

 颯爽と過ぎ去っていく億人の背中に、困惑したままの頭で振り返る。億人はもう別の友人を見つけて談笑していた。

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