第8話
「取り敢えず、書き始めてみた」
赤坂はA4用紙を数枚テーブルい置いた。
年度末が近づいているのに大した余裕だ。
そういう事にあまり関係の無い仕事なのか?
そんな事を思いながらも、俺と沼田は赤坂の家に居る。
だが、俺としても赤坂の考えた物語がどのような形になるのか気になっていたので興味が無い訳ではない。
むしろ興味津々ではあった。
同時に、それがもし、もしもだ……面白いと感じてしまうようなものであってしまった場合には……という怖さも内包していた。
そんな事は無い筈だ……、と、自分に言い聞かせ、平静を装う。
素人が偶々面白そうな設定を考えつく事などはよくある事だ。
だが、『設定』を空想するのと『物語』として創造するのは大きく違う。
いきなり出来る筈が無い。
俺はそう思いながらも、やや緊張しながらA4用紙を手に取る。
「取り敢えず、読んでみるわ」
平静を装う為、敢えて気怠そうに読み始めた――
【以下、赤坂の文章をメインとして進めさせていただきます()内は”俺”の心情です。非常に読み辛くて申し訳ありません。ついでに読み飛ばしていただいたとしても、あまり問題がありません】
◇ ◇ ◇
ウメコは激怒した。
(あれ……?どこかで見た事がある気がする)
ウメコを宥める為、多くの兵がウメコを取り押さえる。
(えっ?なんでいきなりこんな場面?……いや、無しでは無いか?)
「早く!ウメコ様に”アレ”をっ!!」
取り押さえている兵の内の一人が必死の形相で叫ぶ。
(なんだよ”アレ”って気になるじゃねぇか!)
それを聞き、切迫した表情で一人の兵が城内奥深くへと走る。
私はウメコ・フォン・タナベ。
カンペッツァル・ブドゥール・ンダール王国内で強い権力を持つタナベ3世の次女である。
(国名覚えられんわっ!!タナベ3世って!!ってか、ここで一人称?自己紹介!?……いや、しかし、コレはコレで少しはアリなのか?)
カンペッツァル・ブドゥール・ンダール王国は現代から換算すると約600年ほど前のフランスに近い国である。
余談だが、その頃のフランスといえば、カペー朝第10代国王フィリップ3世の子、シャルルが1285年にヴァロワ伯に封じられ、ヴァロワ家を創始した。
1328年にカペー朝が断絶し、シャルルの子フィリップ6世が諸侯の推挙により即位し、ヴァロワ朝が成立した。
ところが、当時のイングランド国王エドワード3世も女系でカペー家の血を引いていたことから、フランス王位並びにフランス北部における領土を要求し、1337年から百年戦争が始まった。
名将エドワード黒太子率いるイングランド軍の攻勢の前に、フランス軍は連戦連敗を喫した。
フィリップ6世の子ジャン2世などは黒太子に敗れて捕虜となったほどである。
しかしジャン2世の子シャルル5世(賢明王)は優秀で、フランス王国を再建することに成功した。
しかしそのシャルルが1380年に食中毒のため死去すると、再びフランス軍はイングランド軍の前に連戦連敗を喫し、遂にはイングランド国王がフランス国王に推戴されるまでになり、王国存亡の危機にまで立たされた。
そのような中でシャルル7世の時代に現れたジャンヌ・ダルクの活躍により、フランス軍はイングランド軍に対して反攻を開始する。
ジャンヌは後にイングランド軍の捕虜となって火あぶりにされたが、フランス軍の攻勢の前にイングランド軍は敗戦を重ね、1453年に百年戦争はフランスの勝利で幕を閉じた。
そして――【続きは割愛させていただきます】
《出典元:Wikipedia》
(……いや、マジで何の話してんだよ。余談を本文に入れるなよっ!長ぇし!ウメコはどうなった!?これは本文?)
◇ ◇ ◇
まだ序盤だが、読み続ける気力を完全に削がれた。
ツッコミどころか、理解が追い付かない部分が多すぎて、自分が何を読んでいたのかすら分からなくなっていた。
フランスの歴史を読んでいたんだっけ?
「どうだ?」
険しい表情を浮かべる俺に、赤坂は訊ねる。
「どうだ?」じゃねぇよっ!!何を書きたいんだよ!?
と、思ったのだが、文句を言う気力すらも失われていた。
「いや……何というか……。中世ヨーロッパって、登場人物の名前だけでファンタジーになるよな」
俺が一番印象に残ったのはそこだった。
一応、ウメコの事も気になったが……。
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