第7話


 俺は自宅のノートパソコン前で考えていた。


 赤坂の出してきた『あらすじ』を自分なりに整理していたのだ。

 ネーミングセンスと舞台設定は取り敢えず置いておいて、何気に興味深い設定だったのが微妙に悔しい。


 まずは、ストーリー全体を簡単に整理しよう。


 ・主人公のウメコは、自身の持つ”可愛い”スキルで、長い時間を掛けて他者を死に追いやる事が出来る。だが、それを本人は自覚していない。

 ・その能力に気付いているのは国家機関?だけ。そして、ウメコの能力を暗殺に使う為、幼い頃から調教していた。

 ・調教の結果”愛される”令嬢とは程遠い存在となっている。

 ・そのギャップまで織り込んで考えていたかは不明だが、国家機関?は、暗殺対象にだけ、ウメコの本性を見せる事を容認していた。

 ・ウメコの『ゆるふわ』な本性を知った者達は、彼女に徐々に惹かれていく。……それが”死”に向かうものだとは、標的とされた者達もウメコ本人も知らないままに……。


 ――って!!

 なんか、普通に壮大な物語っぽいじゃん!!?

 なにそれ!?赤坂にそんなもん書けんのかよっ!?

 なら書いてみろよっ!?

 ってか、名前と舞台設定からやり直せよっ!!


 と、思わず心の中で取り乱してしまった。

 いや、嫉妬では無い。

 単なる錯乱だ……。



 一度、冷静になろう……。

 俺はマグカップにスティックコーヒーとお湯を入れた。


 確かに、俺の現実的で政略的な要素も取り入れ、更には沼田の言う”非現実”要素も取り入れたような気もする。

 だが、タイトルとは微妙に合っていない気がしてならないのだ。


 『ゆるふわ令嬢は”可愛い”スキルで追放を始めました』じゃ無かったか?(俺が決めた気もするが……)

 今の流れでは『ゆるふわ令嬢は”可愛い”スキルで暗殺をさせられています』ではなかろうか?

 ……”いや、もうそれに変更でも良いか”と、考えながらマグカップの中身をマドラーでかき混ぜていると、マドラーの上下が逆である事に気が付いた。


 それを見て、その事実とは別に、全く別の事に気付く。

 ”もし、このタイトルを結末、もしくは中盤に掛かるモノにしたらどうなるだろうか?”


 序盤のストーリーは赤坂の案で進めたとして、その事実にウメコが気付き、その力を持って国家機関?に抗う。という物語が作れる気がしなくもない。

 WEB小説の流行に合わせると『タイトル=あらすじ』のイメージが先行してしまうが、別の世界に目を向けると『タイトル回収』という言葉もある。


 確か『進〇の巨人』もそんな形だったし、『寄〇獣』も結末では無いが作品のイメージを大きく変えさせた気がした。

 途中でタイトルに意味を持たせるのもアリか……?

 よくよく考えれば、すぐ出てくるだけでも幾つかある。

 『機動戦士Zガン〇ム』もかなり後まで出てこなかったし、『魔法少女まど〇☆マギカ』も最終話付近まで主人公はそうならなかった。


 あー、そういうのもアリかもなぁ。

 と、コーヒーを一口飲んだ。


 そこで思わず吐き出しそうになる程の強烈な違和感に襲われた。

 ……俺がマグカップに入れたのはスティック味噌汁だったのだ。


 理解出来てしてしまえば、それはそれで飲めなくは無いのだが……。

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