第6話
「赤坂。お前がいったいどんな話を考えるのかが、全く読めない。分かり易く説明してくれ」
今日は2月14日……何のイベント日でも無い、ごくごく普通の平日だ。
そんな平日だからこそ、俺等三人はいつも通り赤坂の家にいるのだ。
「ほう。そうか……比較的分かり易く概要は話したつもりだったが……」
何処がだっ!
いや『とある令嬢が殺人スキルを用いて悪人を裁いていく、勧善懲悪モノ』というのが概要なのか?
そういう意味では理解出来たが、タイトルが全く活きていない……どころか完全に無視されている気もする。
「そうだな、概要?ではないか。あらすじだ」
まぁ、この段階で結末まで考えてはいないとは思うので、そこまでは期待していない。
どんな話かをさわりだけでも確認しておきたかったのだ。
もっとも、まともな返答が返ってくるとも思っていないが……
俯き、考え込む赤坂。
「……主人公は女だ」
そりゃそうだろう。令嬢だと言ってるんだし。
ここで、止まるのか……と、思いきや。
「名はウメコ。十代前半~半ば程の年齢と設定しておこうか……。上級貴族の令嬢である彼女は、非常に整った顔立ちをしていたが、不愛想で冷たい令嬢として周囲から認知されていた」
あれっ!?『ゆるふわ』はどこいった?
「だが、それは偽りの姿。彼女は国家機関から、自分の『特殊能力』については知らされぬまま、幼い頃から高度な教育を受け、その姿を演じるよう指示されていた……」
えっ?どゆこと?ってか急に国家機関とか言われても……どっから出てきたの?えと、取り敢えず置いといて、え~と、特殊能力が”スキル”ってことでいいんだよな?
「しかしながら、彼女にも”素”の自分を見せても良いと許可されていた相手が数人いた」
素の自分?『ゆるふわ』な本性って事か?
「その許可されている者達は、徐々にウメコの事を”愛らしく”感じるようになっていく。それこそが国家機関の思惑とも知らず……。そしてその事はウメコ本人も知らないのだがな……」
「って!おいっ!勧善懲悪モノじゃ無かったのかよ!バトルでもねぇし!」
話の途中だが、思わずツッコんでしまった。
「??勧善懲悪モノ?そんな事を言った覚えは無いが?……まぁ、俺が当初想定していたような異能バトルは難しそうだが、現実的なバトルは描写出来そうだ」
赤坂は、俺に怪訝な表情を向ける。
確かに赤坂が『勧善懲悪モノ』と明言した訳では無かった気もする。
あくまで俺の推測でしか無かった。
でも、そう推測するような言い回しはしていただろぉ。
「……いや……えーっと、でも、なんか、当初の形とあまりにも違うじゃん?」
何となく、自分の勘違いを露呈させたく無く、誤魔化すように言った。
いや、こんな微妙にまともそうな話が出てくるとも思っていなかったし……『お腹がゆるい令嬢』とのギャップが激し過ぎる。
「あくまで、二人が出してくれた意見を参考にした上で、俺なりの捻りを加えて見たのだがな」
捻り過ぎて軽く千切れちゃってるよっ!
もう完全に別の場所にあるよっ!!
「かなり未完成である事は自覚しているが、この案では駄目か?」
赤坂がそう訊ねてきた。
まだまだ粗削りではあるが、そこはかとなく面白そうな気配も感じていた。
少なくとも俺には思い付かなかった。
「……駄目も何も、お前が書くんだろうが。好きにやればいい。……けど、微妙に面白そうだ」
何となく悔しくて、ぶっきらぼうに言った。
「その感じだとぉ~、舞台は昔の日本~?」
聞いてたのかよっ!ってか、起きてたのかよ!っと、思いながらも、炬燵で寝転んでいる沼田と同様の感想を俺は抱いていた。
「いや、中世ヨーロッパのあたりの世界観を想定している」
ネーミングセンスなっ!!
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