第5話
俺は自室でノートPCの前に座っていた。
そう……座っていた。
どうしても自分の作品の続きが書き始められない。
原因の一つとして存在するのは赤坂の提案した物語の構想……が、気になっていたのだ。
断じて、スランプの言い訳では無い。
――おそらく赤坂の選択は悪手だ。
いや、そもそも赤坂自身が書きたいというのだから、勝手にすればいい話ではあるのだが……。
個人的見解ではあるが、おそらく”可愛い”スキルで魅了し、他人を操るという方が物語として書き易い筈なのだ。
ありきたり過ぎる?芸がない?それの何処が悪い。
多少、話は違うかもしれないが、世の中に受け入れられたからこそ、王道やテンプレが存在するのだ。
ましてや処女作、奇をてらうのは愚の骨頂だ。
敢えて意味の分からない設定にして、それを組み立てられると思っているのか?
それとも俺の想像が及ばないくらいの構想があるのか……?
流石にそれは考え過ぎだと思っておこう……精神衛生的に。
と、思いながらも、少し悔しくて、赤坂の構想をトレースし物語を作成してみた。
やっと、俺の重たい手が動き始めた――
◇ ◇ ◇
《時代背景は……適当に中世あたりを想定しておこう。全て適当な設定だ》
「お前は本当に何も知らないというのだな!?」
《多分》偉い人が、目の前に捉われている罪人?に問い掛ける。
「最初からそう言ってるだろ!?俺は何も知らない!!」
罪人は反抗的な態度で、反論する。
「そうか、では仕方ない……。令嬢をここに」
《多分》偉い人がそう言うと、傍らにいた者はいそいそと部屋を出る。
少し待つと、先程の者が、金髪縦ロールの朗らかな笑みを浮かべた十代半ば程の女の子を連れて戻ってくる。
罪人は顔面を蒼白にする。
「まっ、まさか」
そう呟く罪人を尻目に、《多分》偉い人は礼儀正しく頭を下げ、女の子に言う。
「ミルクリア様、お願いします(名前は適当なのを代入※1話を参照)」
「えぇ~。いいですけど~。ん~~と、えいっ!!」
朗らかな笑みのまま、その子は両手でハートマークを作り罪人に向け押し出すような仕草をする(実際に見た事が無いので、実際に有るのかは知らないが、よく表現されるメイド喫茶の”萌え萌えキュン”的な動きを想像してみた)。
すると途端に罪人は、胸を抑え、赤面し恍惚の表情に変わる。
――が、すぐに顔色は土気色に変わり、苦悶の表情を浮かべる。
「ぶべらっ!!」
と、残し、罪人は床に倒れ込む――
◇ ◇ ◇
って、違うっ!!
これは単なる処刑だ。
「追放を始めました」ではなく「処刑を始めました」になってしまう。
それに何だか、(令嬢と罪人の)温度差がマッチしない。
なんかもう、それでもいい気はしていたが、ここまで考えた以上はもう少し考えてみよう。
先の間違いは”死”までが短時間過ぎた事か?もしくは殺してしまった事自体が問題か?
殺さず、そして、対象には自白を考えさせる時間を与えてみるとどうなるのだろう?
スキル発動後から考え直してみた――
◇ ◇ ◇
「………えいっ!!」(先程と同じです)
罪人は、胸を抑え、赤面し恍惚の表情に変わる。
が、すぐに土気色に変わり、苦悶の表情を浮かべる。
「どうだ、答える気になったか?」
《多分》偉い人が罪人に問う。
「わっ……、わかった。話すっ……はなっ……すから……」
罪人の言葉に、《多分》偉い人は頷く。
「ミルクリア様、御慈悲を……」
ミルクリアはそれを聞くと、罪人に近付き、罪人の頭を踏みつける。
変わらず朗かな笑み?いや、多少、侮蔑や愉悦の念も入ったような、見下す笑みを浮かべ(の方が良いか?)――
「この、クソ虫がっ……」
と、冷たく告げると、罪人は咳き込んでいたが、徐々に血色を戻し始めた――
◇ ◇ ◇
って、これも違うわっ!!
今度は単なる拷問だ。
あ~~。分からん。
もっと分からないのは、何故俺がこんな事に頭を悩ませているのかだ。
やはり、一度、きちんと赤坂の手で話を構成させるべきモノなのだ。
俺が全て考えてしまっては創作の面白味が無い。
そう、言い換えれば優しさだ。
そんなこんなで、無駄な事に時間を費やしたと後悔しながら、睡魔に襲われ始める。
もう今日は休もうかと思ったのだが、もう一つ気になっていた事を、検索窓に入力してしまった。
検索結果は――
「症状は数時間以内に発現。嘔吐、下痢、口渇、頭痛、発熱、過呼吸。体内水分の貯留によって肺水腫をきたし、呼吸停止にいたることあり。 頻脈、低血圧、興奮、めまい、痙攣、昏睡、脳浮腫、尿細管壊死による腎障害など。 醤油を1L飲用し、高ナトリウム血症を呈して亡くなった事例もある」
――だった。
令嬢のスキルって「醤油の大量摂取と同じか?」と、考えていたが……。
”低血圧”ともあるので、スキルは”醤油の効果”とは少し違った様に感じ、そこにも多少興を削がれたのは確かだ。
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